クローンも胚幹細胞も役立たず

 

メイ・ワン・ホー博士のレポート

2001年8月

訳 山田勝己

 

胚幹細胞(ES細胞)からクローンを作ることに失敗したことは、胚幹細胞研究と治療目的の人クローンの終焉をもたらすかも知れない。

 

「核移植によるクローニングは、殆どのクローンが生まれる前に死に、生き残ったものも成長障害がでる事が多く効率的方法とは言えない。」(1)これが胚幹細胞からのドナー核を使ったマウスのクローンを調査していた国際クローンチームの認めるところだ。

 

ES細胞の後生状態(遺伝子のインプリンティングと発現状態)は、極めて不安定であることが分かった。 同様の変化がES細胞から作ったクローンマウスでも見られた。 多くのクローン動物は、対照と比較して、広範に遺伝子の調節不全(dysregulation)があるにもかかわらず成体まで生き続けた。 「この結果は、見かけ上健康なクローン動物も、誕生までの発育を阻害するほど重度ではないが、発見の難しいわずかな生理学的異常を起こす遺伝子の発現障害があり得ることを示している。」と研究者は警告している。

 

この研究結果はクローニングばかりでなくES細胞研究にも関わりがある。 ES細胞の極端な不安定さは驚くには当たらず、このような細胞培養での体細胞クローンの 変動は、植物と動物の細胞共に良く知られていて、ES細胞でも注意を促していた(2)。 細胞生物学者リー・ルービンは、遺伝的には均一であるはずだが、際限のない哺乳類の細胞変種が培養中に次々と変遷して行くのを20年以上も記録し続けている(3)。

 

論文の著者らは、「ES細胞は移植医学において多くの細胞タイプの素になりうるので、人のES細胞が後成的にネズミのES細胞同様不安定なものか調べることは重要だ。」と述べている。

 

人のES細胞が同じくらい不安定であれば、移植を受けた方に問題を起こさないと期待するのはむちゃだ。もとの原稿ではES細胞からできた子孫が色々に発散していて、著者は幹細胞の遺伝子の不安定性が「臨床応用には限界がある」かどうか調べるよう調査を呼びかけている。しかし、ジェーニシュは発表の数日前にサイエンスの編集者にこの文章を削除することを許可されている。

 

研究者らは、今度は変わり易さも使い道があるのではないかと言い始めている。 と言うのは、見かけ上同一の細胞株が互いにわずかずつ違っているとすれば、その中のいくつかは”パーキンソン症患者に新たな脳細胞” を作る特殊なものである可能性があり、また別のものが心臓発作の患者の心筋になるかも知れない。 「求めているわずかな細胞株を得るために数百の株を確立しなければならないかも知れない。」とジョンズ・ホプキンス病院の幹細胞先覚者ジョン・ギアハートは話す。 ギアハートは、新たに発見された幹細胞遺伝子の不安定さは、おそらくこの細胞を治療に使う計画の障害にはならないだろうというジーニシュと同意見だという。

 

体細胞クローンの変種は 制御も予測もできないので、この見解は誤っている。 つまり、もし人の幹細胞が同じくらい不安定であれば、その中から使える安定なラインを得ることが全く出来ないからだ。

 

 

別の見解では、異常な胎児の発育とインプリントされた遺伝子の異常な発現との間には目立った相関はない。 「胎盤と胎児の成長が阻害されるのは、胎児の成長を抑制するようなたくさんの異常な遺伝子の発現が積み重なって起きる可能性はある。」

 

They should have checked the ES cells for chromosomal abnormalities, whichare also frequently found in cultured cells. In fact, largescale genomicinstability may be present in addition to epigenetic instability. Thatshould well and truly consign embryonic stem cells to the dustbin.

 

彼らは、培養した細胞に頻繁に見られるES細胞の染色体異常を調べるべきだった。実際に、後生的不安定さに加えて、更に大規模なゲノムの不安定さが存在するかも知れない。 こうしたことを考えると胚幹細胞はゴミ箱送りが妥当である。

 

 1.. Humpherys D, Eggan K, Akutsu H, Hochedlinger K, Rideout WM,Biniszkiewica D, Yanagimachi R and Jaenisch R. Epigenetic Instability in ESCells and Cloned Mice. Science 2001, 293, 95-7.

 2.. Ho MW and Cummins J. The unnecessary evil of therapeutic humancloning. ISIS News 7/8, Feb. 2001, ISSN: 1474-1547 (print) ISSN: 1474-1814(online) www.i-sis.org

 3.. See Rubin H. Cancer development: the rise of epigenetics. European Journal of Cancer 1992, 28, 1-2.

 4.. "Clone Study casts doubt on Stem cells" By Rick Weiss, WashingtonPost, July 5, 2001,

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