厚労・農水省 米・加のBSE対策調査結果を発表 安全性評価の資料にはなり得ない

農業情報研究所(WAPIC)

05.5.20

 厚労省と農水省が19日、米・加のBSE対策の現地調査結果を発表した(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/05/h0519-1.html)。米国については5月9日から11日まで、カリフォルニア州のと畜場、飼料関連施設、ネブラスカ州のと畜場、カナダについては12日から13日まで、アルバータ州の飼料関連施設とオンタリオ州のと畜場を調査したもので、食品安全委員会に諮問する輸入再開の安全性評価の資料として提出するということだ。

 しかし、とくに飼料規制(フィードバン、大部分の哺乳動物由来蛋白質の反芻動物飼料からの排除)の有効性を評価するには余りにお粗末な調査というほかない。調査結果の詳細は未公表で、調査自体の「有効性」の検証は時期尚早だが、詳細を待つまでもなく、結論を導くためには調査対象・事項が余りに限定されていることは明らかだ。

 発表された「主な調査結果」は、「と畜場におけるSRM除去と月齢判別の状況」と、「飼料規制の実態と遵守状況」に関するものである。

 と畜場におけるSRM除去と月齢判別の状況

 調査報告は、

 @と畜場における衛生管理は、HACCP及びSSOP(衛生標準作業手順書)等により行われており、これらに従いSRMの除去や30ヵ月齢の月齢判別が行われていた、

 A30ヵ月齢未満の牛の脳、せき髄等についてもフードチェーンから除去していた、

 B30ヵ月齢の判別方法については、牛の個体識別システムの下で一部の牛は出生記録での判別が可能であった、

 C生理学的成熟度(A40)による月齢判別については、格付検査官がA00からA50までの標準写真サンプルを携行することや、通常の格付工程で対日輸出用に選別した牛枝肉を対日専用作業ラインに移し、改めてA40以下かどうかについて再度確認し最終判定するとの考え方が示された、

と結論している。

 しかし、実際に見たのは米国・カナダそれぞれ一つのと畜場だけだ。これらのと畜場はどのような基準で選定されたのか。それを見れば北米全体の状況について正確に判断できるという証拠はあるのか。また、調査の際に見られた実態が普段の実態を正確に反映していると確信をもって言えるのか。

 昨年来日したタイソン社の労組委員長は、「工場では、解体に際して当然のごとく「背割り」をしている」、「当然食肉の汚染があるだろう」、「この工場では、会社の利益追求のために、生産ラインは労働や食品の安全などに配慮できない速さに設定されている」、「ところが、検査や視察が入ると、この生産ラインは急に遅くなる。外部の人間には、検査官でさえ、真相をつかむことは不可能だ」などと述べている(BSE日米実務レベル協議終了、検査と特定危険部位除去だけで安全なのか,04.7.23)。調査団は「真相」究明の努力をどこまでしたのだろうか。労組の話しは聴いたのだろうか。

 言葉尻を捕らえるような話しかもしれないが、生理学的成熟度(A40)による月齢判別については、わざわざ「対日専用ライン」を設け、「改めてA40以下かどうかについて再度確認し最終判定」しなければならないのだとすれば、そうでないものについては的確な判断ができないと告白しているようなものではないのか。

 飼料規制の実態と遵守状況

 これについてはレンダリング施設と飼料工場を調査したということだが、その数は示されていない。しかし、この調査日程で実際に見ることのできる施設・工場の数は極めて少ないだろうから、やはり、これら施設や工場が北米全体の状況をどこまで反映しているのかという問題がある。調査対象施設・工場の数や選定基準の問題だけではない。飼料規制の有効性の確認のためには、飼料チェーン全体にわたって調査すべき膨大な調査項目がある。この点でも、今回の調査は余りに不十分である。

 飼料チェーン全体の調査が必要

 調査対象をレンダリング施設と飼料工場に限定したことは、今年3月の米国議会検査院(GAO)報告が「今までに検査されたのは約1万4800の企業だが、それ以上のフィードバンに服すべき飼料製造業者、輸送業者、農場での飼料混合者、その他の飼料産業ビジネスが存在する」と食品医薬局(FDA)のフィードバン管理・監視状況の欠陥を指摘したのに対し、「レンダリング業者、蛋白質ブレンド業者、飼料工場など、最上流の汚染源を抑えれば下流の汚染は回避できる、飼料にかかわるすべての企業の検査など実行不能」と応えるFDAの姿勢に同調したものとしか考えられない(⇒米国議会検査院 FDAのフィードバン管理は不適切 BSE拡散のリスクに警告,05.3.16)。

 これはまた、交叉汚染防止のためにペットフードも含むすべての動物飼料から特定危険部位(SRM)を排除、飼料製造・輸送の間に飼料と飼料成分を扱い・貯蔵する設備・施設の専用化を義務付け、反芻動物飼料へのすべての哺乳動物・家禽(鳥類)蛋白質の使用を禁止し・ダウナーカウや斃死牛のすべての動物飼料への利用を禁止するというFDAの提案に猛反対、工場・施設・生産ライン・輸送手段の専用化については、飼料工場の自主的な専用化なら結構だが一部工場は実行不能、産業の「ピラミッドの頂点」にあり、反芻動物を含む多種の動物を加工、反芻動物用飼料成分を製造・販売するレンダリング施設に専用化を義務付ければ十分などと言う米国飼料業界の主張にも通じるところがある(米国飼料業界、排除特定危険部位は脳と脊髄に限れ FDA交差汚染防止案に反対,04.8.18)。

 調査報告は、「米国及びカナダにおいては、大規模な飼料等関連施設を中心に、畜種別の分離が進んでいる」として、次のような数字を掲げる。 

 

全施設数
(1)

 

うち、非専用
化施設数(2)

(2)/(1)
(%)

レンダリング
施設

米国

255

50

20

カナダ

29

6

21

飼料工場

米国

6,199

78

1

カナダ

550

94

17

 「非専用化施設数とは、反すう動物由来の原料を含む製品及び含まない製品の両方を製造している施設数(同一施設内で製造等のラインを分離して両方の製品を製造している施設を含む)と言い、それがレンダリング施設で58%(04年9月末)、飼料工場で33%(05年4月1日)を占める日本に比べれば、確かに専用化が進んでいる(非専用化施設の定義は米・加と多少異なる)。しかし、非専用レンダリング施設がなお20%もあり、日本と違い、これら施設の製品の原料にはSRMも含まれることを考慮すると、交叉汚染の可能性は日本以上に高いかもしれない。さらに、調査団の調査対象とはならなかったようだが、EUのリスク評価が指摘する事実に間違いがないなら、レンダリング工程は「大気圧の下で加工しているから、BSE感染性が工程に入れば、これを大きく減らすとは考えられない」(⇒米国の地理的BSEリスクの評価に関する作業グループ報告(欧州食品安全庁),04.9.4)。交叉汚染の可能性は一層高まる。

 調査報告は、「飼料の交差汚染等の防止のため、製造工程の分離又は洗浄及び製品への表示について、それぞれの法制度に従った管理が行われていること」を確認したと言う。

 しかし、EUが自らの経験に基づいて作成した「有効な飼料禁止:第三国のためのガイダンス・ノート」(⇒欧州委員会、有効な飼料禁止:第三国のためのガイダンス・ノート(改訂版),04.7)によれば、「専用工場がない場合には、また禁止された物質と許された物質が同じ施設で加工され、処理される所では、交叉汚染の可能性の防止を保証するために」、「十全な洗浄と消毒も必要である」が、何よりも「飼料チェーン(輸送・貯蔵・パッケージを含む)全体を通じてのラインと設備の完全な分離がなければならない」。しかも、「BSEのリスクを軽減するためには、給餌、飼料加工、特定危険部位の除去、飼料の表示の適切な慣行と基準が必要で、それが時間的に持続する必要がある」。

 調査団は、「飼料チェーン(輸送・貯蔵・パッケージを含む)全体を通じてのラインと設備の完全な分離」については、何も調査していない。「表示」についても、GAOは、「国内向けに販売される飼料には”牛その他の反芻動物に与えてはいけない”の表示が義務付けられているのに、輸出向け飼料にはこの表示が義務付けられていない。このような表示がなければ、禁止物質を含む飼料が偶然にか故意に米国に逆送されて米国の牛の口に入るか、外国の牛の口に入る」と指摘している。この点については何か調査したのだろうか。

 飼料が禁止物質が含まないこと、牛に禁止物質が与えられていないことは検証されるのか

 報告は、「これら法令に基づく規制に加え、飼料の適正使用を担保するため、飼料や家畜の出荷に際して、飼料に禁止物質を含んでいないことや、牛に禁止物質が与えられていないことについて明記した宣誓書(affidavit)の提出を求めることが行われていること」も確認したと言う。しかし、これらはどう検証されるのか。

 EUのガイドラインは、「官署による適切なチェックの記録された証拠は適切な実施の決定的に重要な指標であり、その有効性は、特にルール遵守のデータを通して検証できる。実施を検証し、欠陥の確認と取るべき是正策を可能にするためには、納得できる政策手続が不可欠である。特に次のことが検証可能でなければならない」として、この検証のためのいくつもの「納得できる政策手続」の具体例を掲げている。そのなかには、

 「飼料中の反芻動物蛋白質を検出するための試験所と適切な方法(加圧煮沸蛋白質の場合の顕微鏡や他の有効な分析方法など、国際的に認められた方法)の利用。定期的に組織されるリング・トライアル[一定のサンプルをいくつかの分析機関に送り、その結果を基に分析機関を評価する」がコントロールを実施する職員の能力や方法を検証すべきである」というものも含まれる。

 先のGAOの報告も、「遵守状況検査の一環として禁止物質が含まれるかどうかを検査をするべきだが、FDAのフィードバン検査指針はこのための日常的牛飼料サンプル採取を指示していない。その代わりに、検査官に目視による施設・設備の調査とインボイスその他の記録文書の検閲を指示している」と指摘するのに、FDAは「検査ではBSE病原体は発見できない、工程と手続の評価が遵守状況を確認する最も効率的な方法」だとして飼料検査の必要性または有効性を認めていない()。

 調査結果は輸入再開の安全性評価のための資料とはなり得ない

 要するに、この調査は、調査対象施設に関しても、調査項目にしても、余りに限定されており、「輸入再開の安全性評価」のための資料とはなり得ないということだ。僅か2日から3日程度の現地調査で、とりわけ飼料規制に関してEUが掲げる「有効な飼料規制」の膨大な要件を満たしているかどうかを調べるなど不可能なことだ。

 ()カナダは、飼料成分分析の手段としての顕微鏡分析は、含まれる蛋白質が禁止蛋白質かどうか見分けがつかないために、フィードバンの有効な実施の検証の手段としては限界があると評価している(カナダ、飼料成分の顕微鏡分析を評価 フィードバンの有効性の検証に限界,05.2.3)。しかし、禁止蛋白質かどうか見分けのつかない動物蛋白質が発見された場合、少なくともさらなるフォローアップ調査のきっかけになるし、確定的判断ができない場合には当該飼料の利用やその製造者に対する適切な措置を取ることも可能になる。

 

戻るTOPへ