工業畜産の呪い
2002年8月30日
ニューヨークタイムス社説
訳 山田勝巳
工業畜産はアメリカの主要な食肉生産方法になっている。 アグリビジネスは、何千もの家畜を一つの大きな建物に繋いだり、柵内に閉じ込めておけるその生産効率の良さに惚れ込んでいる。 殆どの労働が機械化できる。 ぎゅうぎゅうづめのため土地が少なくて済む。 出生から屠殺、梱包の一貫生産を目指す企業が莫大な数の家畜を集中できる。
この固定飼育法CAPOという工場は44州に亘って存在する。 問題はいかに悪い環境の影響を少なくして小規模農家、特にもっと伝統的で牧草主体の飼い方をしている農家を締め出さないようにするかである。
工業畜産は、都市計画法が緩いか存在しないところや、農業経営に対して住民が訴訟出来ないようにしている州で根を下ろした。 家畜が大規模集約されることの当然の結果として大量の畜糞があり、これが溜め池に溜められて最終的には農場に散布されているが、地元の農場では吸収できる量を遥かに越えていて、逆に毒になっている。 漏液は地下水汚染になる。 もっと危険なのは、水蒸気のアンモニア汚染で、これが溜め池から低地にある川や湿地に降って行く。
シエラクラブの「工業畜産のラップシート」と題された最近の報告では、工業畜産による環境侵害がまざまざと描き出されており、そのほとんどがコンアグラ、タイソン食品、カーギル、スミスフィールド畜産などのアメリカ最大手企業が所有するものである。 シエラクラブがこれら工業畜産に関心を持ったのは、その多くが毒の漏出で刑事罰を受ける結果になった違反パターンである。
連邦政府は、大小農家間の争いを少なくとも中立な立場で審判すべきである。工業畜産の場合、その環境への脅威を目に余るときにしか適用されていない水質浄化法をもっと拡大して厳格に適用し、抑制すべきである。 開放空間や生物多様性、きれいで悪臭のない空気を望む国民に対し、税金でこの畜産方法を決して奨めるべきではない。
残念だが、政府は大企業に重点を置いてきた。 EPA(環境保護庁)は実効性のない規則ばかりを出してきており、それが故に州レベルではより大きな溜め池を作ることで畜糞を処理するという計画しか出さない工業畜産に許可を与えている。 ブッシュ大統領が5月に署名した新農業法では、元々意味のないこのような規則に従う農家に一件当たり45万ドルを支払うという更なる辱めを押しつけている。
この逆行する農業法は、既に巨大化した工業畜産を後押しして、小規模畜産家を追い落とす政策を継続するものだ。 例えば、アイオワでは養豚家の数が1980年には64,500軒あったものが2,000年には10,500軒に減っているのに、豚の数は1,500万頭で変わらない。 この戦いでは、国民の税金が国民の利益とは反対の方向に使われている。
工業畜産の典型的集約は遺伝子レベルでも起こっている。 養鶏と養豚産業では、数種類の七面鳥、鶏、豚に依存している。 牛でも同じである。 アメリカのほとんどの肉を供給する遺伝子源が危険域まで狭められてきている。 この危険性は、膨大な数の動物が同じ極めて狭い遺伝子基盤に立つという逆三角形を作りだし、病気によって壊滅する危険性があり、それを防いで健康を維持するために抗生物質の不適切使用が行われている。 遺伝的多様性は野生動物同様、鶏や豚などの家畜においても重要なことである。 これを保証する最善の方法は、農家の多様性を保証することである。