工業生産のコーンが王者になり我々の健康と環境を破壊する

02年7月18日

ニューヨーク・タイムズ

マイケル・ポラン(コネチカット州オルンウオール・ブリッジ発)

訳 河田昌東

 

このニューイングランド南部ではコーンはすでに背丈も高く伸び、どんどん成長しているので、植物が太陽に向かって伸びる際の茎や葉がきしむ音が聞こえるかのようだ。 スイートコーンの穂はちょうど地域の農家の状況を示すかのように姿をあらわし始め、アメリカの夏のセレモニーの始まりを示している。この間、合衆国のほぼ8千万エーカーのコーン畑は第2の偉大な芝生のように田園にうねっているが、しかしこの全てのアメリカ人のイメージは今はっきりと怪しげなものに変わりつつある。

チューリップや、りんご、ポテトなどと同様、コーンは過去1万年以上前から人間とともに、我々が家畜化と呼ぶ偉大な種のダンス(品種改良)の中で作られたものである。コーンは人間による植生の拡張と交換に人間の必要を満足させ、それを世界中に広げ、土地をつくりかえて(木を倒し、土地を耕し、外敵から守るなど)繁栄してきた。コーンは味が良く栄養に富むことでクリストファー・コロンブスの目にとまり、彼によって新世界からヨーロッパ、その他にまで広げられた。今日、コーンは世界でもっとも広く栽培されている穀類である。しかし、どこに北アメリカのようにこの植物への関心がこれほど進んだ国があるだろうか。ここではコーンは我々の風景、食物システム、そして連邦予算にまで影響を与えているのだ。 

コーンに対する関心がアメリカでこれほど強いことを知るのに、先月ブッシュ大統領が1900億ドルの農業予算に署名したことを知る以外に必要なことがあろうか。 我々がすでに生産されている過剰なコーンを減らすために闘っているにも関わらず、この10年計画では、納税者は農家に対してもっと多くのコーンを作るために年間40億ドルずつ支払うことになる。1ブッシェルのコーン(56ポンド)の平均価格は今日約2ドルである。これを生産するために農家は3ドル以上のお金をかけている。しかし、コーンの生産量を減らして農家が受け取る価格を引き上げる代わりに、議会はコーンに補助金を出し125000平方マイルのアメリカの土地をそのままコーンに占有させることにしたのだ。

当初はこの補助金は農家にとって恵みになるだろうが、実はそれは植物自身への一種の恩恵であり、安いコーンに依存している加工業者や企業農業、ソフトドリンクやスナック・メーカーなど過剰生産によって利益を得る経済的関心を持つ人々にとっての恵みなのだ。

コーンが勝利したのは、農家にとって不可欠になった(コーンは農家にとっては甘い誘惑であり破産に導くものだ)からではなく、アーチャー・ダニエルやタイソン、世界のコカコーラにとって他にかけがえのないものになったからだ。

我々のトータルな食糧供給は、我々が気づかないうちに近年「コーン化現象(cornification:角質化との掛け言葉)」の過程をたどっていた。その理由は、何世紀ものあいだコーンが主食であったメキシコと違い、アメリカで我々が消費するコーンの大部分は、徹底的に加工され、あるいは我々に到達する前に家畜の食糧となることを通じて、目に見えない形で消費されるようになってきたからである。我々が食べる家畜の大半(チキンや牛)は今日コーン飼料を食べている。それが彼らにとって良いのかどうかに関わりなく。本来牧草を食べるように出来ている肉牛の場合、コーン飼料は彼らの消化システムを滅茶苦茶にし、病気や感染症を防ぐために抗生物質を与えざるを得なくなっている。養殖サーモンでさえ害虫抵抗性コーンを食べさせられているのだ。彼らはコーンを餌にするようには進化しなかったにもかかわらずだ。なぜコーンが魚の餌になる? 連邦予算の補助金のせいでそれがもっとも安上がりだからだ。しかし、生産されたコーン100億ブッシェルの半分以上が毎年動物飼料にされているにも関わらず、まだ相当量が余剰として残る。だから、A・D・Mやカーギル、コンアグラのような企業がそれらを消費する新たな方法を考え出し、コーンをエタノールやビタミンCや生分解性プラスチックなどに加工するのだ。

コーンをビジネスにしたダントツの戦略は、高フルクト―ス・コーン・シロップの開発である。このおかげで砂糖はほとんど退場させさせられてしまった。1980年代以降、多くのソフトドリンク製造業は砂糖からコーン・スイートナーに切り替えた。大半のスナック・メーカーもそうだ。アメリカ人のカロリーのほぼ10%がコーン・スイートナーから摂られている。子供の場合この数字は20%にもなる。コーンを餌にした動物タンパク質(牛、チキン、豚など)に加え、コーン製品(チップス、マフィン、スイートコーン)のおかげで、我々を(不本意ながらそれを食べざるを得なくなった生物種とともに)際限のないコーン摂取競争に駆り立てることで、我々は自然界でもっとも偉大な成功物語を達成した植物を手にすることになったのだ。

それでは、なぜコーンの成功を妬む必要があるのだ? 栽培がうまくいっているだけの話ではないのか? コーンの問題は、我々がコーンを過剰に栽培し、多くを食べることで我々自身の健康と環境を犠牲にしている、ということである。コーン漬の食生活が我々の健康に与える影響についてはまだわかり始めたばかりだが、懸念すべき理由はある。1980年代におけるコーン・スイートナーへの大規模な転換とこの国の肥満とタイプ2糖尿病の流行が始まったこととは偶然の一致ではない。スイートナーが非常に安くなったために、ソフトドリンク・メーカーは製品価格を安くするよりは、市場と規模拡大に走ったのだ。

数千種類の新たなスイート・スナックが市場をアタックし、我々の食品中のフルクトースの量は急上昇した。これはアメリカ人のウエストラインには最悪だったろうが、予備的な研究によれば、高フルクトース・コーン・シロップは他の糖類とは違う代謝をし、健康にはより有害な可能性がある。ミネソタ大学の最近の研究ではフルクトースの多い食事は(グルコースと比べて)食後の男性体内のトリグリセリド濃度が上昇するが、これは肥満と心臓病の危険を増加させる。コーンをたくさん食べた家畜の肉を食べた場合の健康影響はほとんどわかっていないが、コーンを与えた牛は牧草を与えた牛に比べて飽和脂肪酸濃度が高いことを研究者らは見出している。

8000万エーカーのコーン栽培が環境に深刻で持続的な影響を与えているという情報を我々はたくさん知っている。近代的なコーン雑種はもっとも貪欲な植物で、他の作物よりもたくさんの窒素肥料を要求する。コーンは他の食用作物よりも多くの農薬を必要とする。

こうした農薬の流出は地下水に流れ込み、中西部のコーンベルト地帯ではミシシッピ川を通じてメキシコ湾に流れ込み、この地域の12000平方マイルの海域の海洋生物を殺してきた。メキシコ湾は大量の石油と天然ガスをコーン畑に提供してきたのだ。(窒素肥料は天然ガスから作られ、農薬は石油から作られる) アメリカのコーン栽培は持続可能な太陽エネルギー利用のシステムに見えるが、実は巨大で非効率的な、化石燃料をガツガツ食べる汚染マシンなのだ。即ちコーン1ブッシェル生産するたびに石油を半ガロンも消費する。

そんなわけでコーンはまさに王様のように見えるのだ。我々はコーンに他の作物よりも多くの土地を与えた。それはニューヨーク州の2倍以上にもなる。この土地を肥やし略奪者から守るために、我々は水を汚染する農薬をぶっ掛け、海外の石油にさらに依存度を深めてきたのだ。そうして、全てをコーンで置き換えるために、この馬鹿なシステムが作られ、どのような方法よりも早く多くコーンを食べ、肥えた土地をさらに肥やしてきた。

結局、コーンが我々人間を飼いならすことに成功したのかもしれないことに驚かざるを得ない。

 

マイケル・ポランは作家で、最新作に"The Botany of Desire: A Plant's-Eye View of the World.

(植物の欲望:植物の見た世界)"がある。

 

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