遺伝子組み換えした”黄金”の米(Golden Rice)がビタミンA欠乏症を克服するのは困難

Marion Nestle, Ph.D Journal of the American Dietetic Association  Vol.101  March.

訳 山田勝巳

 

 

ゴールデン・ライスは組み換え技術で、カロチンを含み東南アジアの子供達の健康向上に寄与するとされているが、栄養学の専門家による批判的究明が必要だ。未だ市販されていないが、この米はバイテク産業が大々的に行っている「遺伝子操作農業は、それの持つ安全性、環境、社会的リスクより、恩恵の方が重要だ」というキャンペーンの広告塔として使っているもので、雑誌などでは、この米が低開発国の子供達がビタミンAの欠乏症で年100万人の死亡や失明を防止すると推奨している。ゴールデン・ライスを作ることが世界の食糧と栄養問題を解決するという信仰を証明するかに見える。

栄養学の原則から見ると、米がカロチンを含んでいても、ビタミンAの欠乏症を緩和することは出来ない。まず、カロチンの吸収率は低く10%以下である。プロビタミンであるカロチンが活性化するためには、腸の粘膜の酵素か肝臓で、ビタミンAの分子2つに分離されなければならない。プロビタミンは脂肪に解け、吸収のためには食用油が必要。したがってカロチンの消化、吸収、運搬には健康な消化器官、十分な蛋白質と脂肪の蓄積、食事中に十分なエネルギー、蛋白質、脂肪が必要である。ビタミンA欠乏症の子供達は、全般的な蛋白とエネルギー不足、そして腸感染を患っており、カロチンの吸収やビタミンAへの変換を妨げている。ビタミンA欠乏の広がっている多くの国ではカロチン源は溢れるほどあるのだが、幼い子供達に不十分とされている理由は、消化できるように十分に調理されていないか吸収に必要な食用油を一緒に摂っていないかだ。

費用や受入の懸念以外に、生物学的、文化的、食習慣がカロチンを使う障壁となっている。だから、ビタミンAを注射したり、栄養補助剤として使うことがより良いとされている。これらの障壁を、ゴールデン・ライスのカロチンで補うのは限界がある。

ビタミンA欠乏症は、途上国の子供達の失明の最大の原因であり、感染症による病気や死亡の主要要因であることは間違いない。軽いビタミンAの欠乏症でも子供の死亡率は高いのだが、ビタミンA(カロチンではない)を補ったり注射すると死亡率は54%減る。これを現地で行うのは困難で費用がかかるのと、多くの子供達が全般的蛋白不足、エネルギー源不足を呈しているので、特に食事によるビタミンA改善が望ましい。今ある食べ物に栄養素を一つや二つ加えることは食事改善にはならない。

更に、カロチンを単独の補助とすること自体問題である。カロチンを含む果物や野菜は、病気を防ぐことは分かっているが臨床試験の結果では癌や心臓血管症の防止にはカロチン補助は効果がない。カロチンが癌を防ぐ生物学的効果があるという見解を支持する研究者がいれば、発ガンを助けるという研究者もいる。また、カロチンはプロオキシダントで状況によって有益であったり害があったりする。つまり短期的にも長期的にもカロチンだけをそれを含む食べ物と区別して、補助栄養素とするのは効果が不明だと言うことだ。

病理学的、栄養学的、文化的要因が複雑にビタミンAの状態に影響しているので、一つの栄養素を補助するだけでは、食事の不足を補うことは出来ない。そうではなく、社会経済的改善への取り組みと、栄養の補助と強化、食生活全般へのアプローチが必要なようだ。食品でのバイテクは栄養と健康を向上するものを作り出す事もなきにしもあらずだが、今のところその利点は理論上のことだ。

 

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