クレブシエラ・プランティコラ

 

危うく逃がすところだった組み換え怪物――致命的組み換えバクテリア 

ウェブノート: 

訳 山田勝巳

 

1990年代始め、ヨーロッパの遺伝子工学企業がクレブシエラ・プランティコラという組み換え土壌菌を圃場試験して大規模に商業化しようとしていた。 このバクテリアは、この会社の研究者が不注意で、非常に非科学的であると後で分かったのだが、試験の結果環境に対して安全だと信じられていた。 幸いにも、オレゴン州立大学のイレーン・インガム博士率いる独立した研究者チームが、これを独自に試験しようと決めた。 彼らが発見したのは、このバイテク企業は、陸生の植物全てを死滅させかねない組み換え微生物を造り出したという驚くべき恐ろしいものだった。  インガムの暴露によって、当然このクレブシエラ・プランティコラは商業化されなかった。 しかし、商業化前の安全試験がなされていない組換え体は、事実上環境中に未来の怪物を放つことを意味するとインガム博士は指摘する。 その上、土壌生態、土壌食物連鎖を危機に曝すのは、遺伝子工学ばかりではなく、薬物集約農業がゆっくりだが確実に土壌と飲料水に毒を盛る事だと話す。

 

この記事は、緑の党の刊行物、合成と再生18(1999年冬)、生態バランスと生物学的純度、善意と麦を殺す組み換え体:イレーン・インガム著 オレゴン州立大学(www.soilfoodweb.com)に初めて掲載された。

 

遺伝子組み換えクレブシエラ・プランティコラは麦に致命的影響があり、その親株であるバクテリアは、同じ群の大きさで同じ培養器を使っても麦に害がなかった。 クレブシエラが居るかどうかを調べた植物の全ての根圏に、この親株が生息していることを考えて欲しい。 この菌は植物残渣で生育しそれを分解する。 極めて一般的な土壌生命体なのだ。 極めて活動的土壌生物で陸生の全ての植物の根からの分泌物で生きている。 この植物残渣で活発に生育する性質が、この細菌を組み換えようという動機になっている。

 

病気を防ぐために行う植物残渣の野焼きは、アメリカで大気汚染の重大な原因になっている。 オレゴン州では、野焼きの煙が高速道路にたなびき複数の車を巻き込んだ事故の原因となり死者が出ている。 作物残渣を処理する他の方法が必要だ。 もし、植物体を分解してアルコールを作れる微生物があれば、それ以上のことはない。売れる物ができて植物残渣を燃やさないで済む。 ガソリンに添加もできる。 料理が出来る。味はどうあれ、草のワインが飲めるという具合にアルコールは色々な使い道がある。

 

こうして、別の細菌から遺伝子を取ってきて、クレブシエラ・プランティコラがアルコールを作るようにそれを組み込んだ。 それが出来たら次は、植物残渣を農場から集めてきて、容器に入れ、組換えクレブシエラ・プランティコラに分解させる。 クレブシエラは普通やらないアルコールを産生する。 アルコール生産は、納屋のバケツの中でも出来る。でもバケツの底に残る滓はどうしたらよいだろうか。 ワインやビールを造った後の樽を思い起こして欲しい。 そこには、かなり厚い層の滓が残っている。 クレブシエラ・プランティコラで分解した植物残渣は窒素やリン、硫黄、マグネシウム、カルシウムが豊富で、全て完璧な肥料になりうる。 肥料としてばらまけば、無駄は一切無く、完璧だ。

 

しかし、私と同僚は、スラッジを圃場に撒いたらその影響はどうなのか?アルコールを作る組み換えクレブシエラ・プランティコラの生菌がスラッジに入っているのか。そうに違いない。圃場に肥料として入ったら根圏に入り込むのか。生態バランスはどうなるのか。生態系の生物学的完全性は、肥料が撒かれる農場の土ではどうなるのかと話し合った。 

 

マイケル・ホームズが博士課程で行った研究の一つに、農場の土を持ってきて篩にかけ細かく均一にして小さな容器に入れる実験があった。 典型的土壌微生物が失われていないかどうかを確認してみると、間違いなく典型的な土壌食物連鎖の存在する土壌だった。 これを牛乳瓶大のメイソンジャーに分けて消毒し、麦の種を各ジャーに入れ、どれも同じであることを確認した。 1/3のジャーには水だけを添加した。 1/3には、組み換えしていないクレブシエラ・プランティコラの親株を添加した。そして残りの1/3に組み換え体の菌を入れた。

 

麦はメイソンジャーの中で順調に生育した。 しかし1週間後の朝、実験室へ行って培養器を明けると「アレー、死んでいるのがある」ということになった。 一体どうなったのか。 メイソンジャーを培養器から取り出して分類してみると、組み換え体のクラブシエラを添加した土壌の麦が全滅していることがわかった。 その他の、親株のクラブシエラと水だけの物は順調に育っていた。

 

この実験から、この遺伝子組み換え細菌には問題があると考えて良いだろう。 論理的に推測すると、この実験は陸生の全ての植物を殺す遺伝子組み換え微生物を作ることが可能だということになる。つまり、クレブシエラ・プランティコラは全ての陸生植物の根に生息しており、これらが全て危険に曝されることになる。

 

では、クレブシエラ・プランティコラは根圏で何をしているのか。 親株菌は、植物の根に粘り着く粘液層を作る。 組み換え菌は、約17ppmのアルコールを作る。 根に害のあるアルコールの濃度はどれ位なのか。 約1ppmだ。組み換え菌は植物を酔っぱらわせ、殺してしまう。 しかし、全ての遺伝子組換え体が工学テロだというのではない。 私が言いたいことは全ての遺伝子組換え体は、予期しない予想できない影響がないかを確認すべきだということだ。

 

 試験は、現実に極めて近い環境でなされなければならない。 環境保護局(EPA)の連中と仕事をしたことがあり、EPAでは微生物にどんなテストをやっているか知っている。 消毒した土で検査を始めることが多い。 消毒したのでは、実際の土壌とは言えない。 土は生きた生命体がいる場所だ。 消毒した材料で栄養物の循環やその他の根系での微生物への影響が見られるだろうか。 ありそうもないことだ。 だから、消毒した土壌では、生態学的影響が全くないのは驚くに当たらない。 EPAは、土壌中の全ての生命体がどのような影響を受けるのかを見られる検査法で評価すべきだ。

 

土壌を生命活動で見るとどうなるか。 農業土壌には茶さじ一杯の土に6億の細菌が居る。 約3マイルの菌糸が茶さじ一杯にある。 10,000の原性動物がおり、20-30の有益な線虫類がその中にいる。 植物の根を食害する線虫はゼロ。それが居る土は、病気を起こす土だ。 1平米当たり10インチ深さの土壌に約200,000の微小節足動物がいる。 これら全てが居るのが健康な土壌で、病気の抑制力があり、殺菌剤や、殺線虫剤は必要ない。 根系には40−80%の菌根菌コロニーがあって、病気から植物を守っている。 

 

通常殺菌剤や農薬を撒いたらどうなるか。 我々の調査した農薬の食物連鎖への影響ではいずれも、標的以外の微生物に影響があり、通常ひどく有害である。 病気を抑える有益な微生物が減り、非可給体窒素を可給体窒素に変える微生物は死ぬ。  窒素、リン、硫黄、マグネシウム、カルシウム等を保持する微生物が死ぬ。 土中で養分を保持する微生物が死ぬ。 保持できなくなるとどこへ行くか。 飲み水にはいるか、地下水にはいる。 飲み水を浄化するために我々は税金を払わなければならなくなる。  これらの微生物を土壌に維持して養分を保持し次の作物に使えるようにした方が、汚れた水を浄化するためにお金を出すより良いと思いませんか。 微生物を土に戻すのです。 土中にバクテリアや、糸状菌、原生動物、線虫、微小節足動物、菌根菌が適当量居れば、農薬なんか要らないのです。 実証されています。 肥料も格段に減らせます。 国内でも世界中でも、化学肥料が減らせたり、全く使わなかったりしても収量が減らないという実験はやられています。 それでも、草木の肥料や豆科の物がないときには4年に一度約18kgの窒素肥料が必要ですが。

 

何故今日の慣行農法では、大量の農薬や化学肥料が必要なのか検討しましょう。 例えば、病気を抑制する細菌や糸状菌、原生動物、線虫が居る未踏の健全な草地を耕したとしましょう。  耕して最初の5−15年は、農薬を使う必要はない。 自然な栄養循環、自然な窒素保持、そして病気抑制があるので、肥料も全く要らない。 耕すに従って有益な生き物を殺してゆき、有機物が減り、有益な微生物を養う栄養が失われます。 微生物を養う有機物を追加しなければ、10−15年で居なくなり、病気がわんさか出てきます。 肥料の塩で微生物がどんどん殺されてゆけば、そして耕して有機物が掘り出されてしまえば、有益な微生物が死に病気が深刻な問題になります。 そうして、病気を打ち負かすために更に農薬が必要になってくるのです。 

 

1955年頃のカリフォルニアでは、これらの病気の問題が大変深刻になり、農業生産が出来なくなるのではないかと懸念された。 カリフォルニア大学は、病気を起こす菌を殺すために臭化メチルという効果的方法を編み出した。 病原菌も殺す変わりに他の全ても殺してしまう。 カリフォルニアの農業土壌では自然な病気抑制は殆ど無い。 年に2,3回臭化メチルを14年間撒き続けたらどれほどの生命体が残っているだろうか。 微小節足動物は皆無、有益な線虫も皆無で根を食害する線虫だけが生き残る。 原生動物はどれくらい残るだろうか。 養分の循環が出来ない。 窒素を可給態に出来ない。 ではどうするか。 肥料を撒く、そのように自分達がやってきたのだ。 この土で作物を育てるには他に方法がない。 

 

 

どれほどの糸状菌が残っているか。 有益なのは居なくて、病原性糸状菌だけが残る。 バクテリアはどうだ。 1グラムの土に100個。それ以外は全て居なくなる。本来茶さじ一杯に6億居なければならないのに、100個しか残っていない。 窒素を保持する何者も残っていない。 だから肥料を撒く。 肥料はどうなるか。 植物の根に触れる肥料は事実吸収されるがそれ以外は地下水に入り、川に入ってゆく。 カリフォルニアのサンタマリア川で考えてみよう。 この土地は年に2,3回臭化メチルを14年間以上散布されてきている。 イチゴ栽培には肥料が即効性施肥として使われる。 散布2週間後の川の窒素濃度は、150ppmに上がる。 人の窒素許容量はというとEPAによれば10ppm、かつては3ppmだったのが上げられた。 サンタマリア渓谷の水が飲めますか。 死にたいのならどうぞ。 この水を飲めば、直ぐにも腎臓を痛めます。それほど窒素濃度が高いのです。 非常に毒性が強く、植物にかけても焼け死ぬほど濃度が高いです。

 

この問題の解決は簡単です。まともな微生物とまともな数の微生物を土に再生し、本来の機能を果たせるようにしてあげることです。 生き物の食物を土に戻し、微生物を戻す。 簡単なことです。 土のサンプルを送ってもらえれば、あなたの土に食物連鎖があるかどうか調べてあげます。 食物連鎖がなかったらどうするか、それもお手伝いしましょう。 農薬が必要なくなるときが来るのです。 4年に一度それもほんの僅かの肥料を撒くだけ。 持続可能な農業に移れるのです。 時間と努力が必要ですが、可能です。

 

この記事は、1998年7月18日の第一回遺伝子工学による生命破壊市民集会での講演

を素に作成した物です。

  ホームページ:  http://www.purefood.org/ge/klebsiella.cfm

 

 

 懸念する科学者連合の見解 

「クラブシエラ・プランティコラの土壌生態系と砂質土壌での麦の成育への影響」

   M.T. Holmes et al., 応用土壌生態学326: 1998年1-12

 

最近報告のあった遺伝子組み換え微生物の予期せぬ環境への放出は、広範な生態系への害を起こす可能性のあることを示している。 この実験の主要な発見は、遺伝子組み換えバクテリア クレブシエラ・プランティコラ(SDF20)を砂質土壌と麦の苗を植えてある小さな微生物圏に追加すると作物が死ぬということと、 組み換えていないクレブシエラ・プランティコラの親株(SDF15)では死なないということだ。

 

SDF20は乳糖発酵バクテリアで、農業廃棄物をエタノールに変換し、発酵剤中のエタノール濃度をふやすために組み換えされている。 この(ドイツで開発された)方式は、組み換えバクテリアも一緒に発酵残滓として有機土壌補助剤として利用することを想定していた。 この報告は、組み換えバクテリアが植物を殺すというのは、これを使った圃場では作物を殺すか傷害する可能性のあることと、一度定着するとクレブシエラは除去できない可能性が高いことを示している。 報告ではどうして植物が死ぬのか解明していない。 原因がどうであれ、組み換え微生物は、取り返しのつかない甚大な影響のあることを示している。

 

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