記者の目 記事への意見
Date: 2004年11月8日 10:52
vision21安田節子
11月2日小島正美記者の「遺伝子組み換え作物への不安」記事について
この記事は、小島記者が遺伝子組み換え栽培を推進する立場の米国農務省の招きに同行した結果の記事であることを強く感じさせられました。記者はこの同行に際してすべての費用は毎日新聞が出して行ったのか、あるいは米国側の招待を受けたものか、知りたいものです。
記事で、米国でトウモロコシからエタノールを取り出す組み換え品種を申請する動きを紹介し、「石油資源のない日本こそ」と、まことに安易に同調しています。米国では工業用、医療用の成分を含む組み換えとうもろこしについては、食用トウモロコシへの遺伝子汚染、混入の問題が避けられず、難問となっています。医薬品成分を生成する遺伝子組み換えトウモロコシは食用品種への交雑、混入によって回収命令がでて栽培中止命令が出されています。
また、食料不足の時代がくるというのに、食用のものを工業用として栽培することへの批判もあります。
まだこのエタノール生成組み換えとうもろこしについて安全性と環境影響に加え、経済的、社会的評価がされないうちに「日本にも」というのは、ジャーナリストとしての基本である情報収集、分析、批評するというプロセスを欠いた、米国での聞いた話をそのままに受け売りする、あまりにもお粗末な安易すぎる論です。
また、「現時点では、安全が確認された・・6作物59品種の流通を認めているだけだ。」というくだりですが、59品種もこんなにたくさん認めている国は生産国米国以外では日本くらいなもので、輸入国では突出しているのです。遺伝子組み換え作物の最大の消費国であることから、日本の消費者はモルモットにされているという危機感を抱いているのです。安全確認が済んだものといっても、書類審査だけで、後からデータの改ざんや導入遺伝子が分断して見つかったりなど問題が指摘された大豆の場合、追試、再評価が必要なのに、そのまま流通しています。長くこの問題を取材されている小島記者なら、そもそもいまの安全審査の中身についても多くの問題が指摘されているのをご存じないはずはないと思います。
自治体が風評被害に配慮し、条例で栽培を規制しようといることを批判し、「逆効果」と見出しをつけていますが、どう逆効果であるのかの具体的な説明がありません。批判のことばだけでその理由がないのはおそまつです。
自治体が条例規制をしようとしているのは、現状では、組み換え栽培者に、交雑、混入に対する(罰則を伴った)防止義務と風評被害・交雑、混入への賠償責任体制がないからです。地元農産物と生産者を守るために規制しようとしているのです。さらにいえば、現状回復は不可能といえるからです。生産者が現実直面しているこの重大な問題をそのままにして、自治体は規制などせず、作付けを認めよというのでしょうか。
米国との競争に勝つためというニュアンスで研究をすすめ、「栽培特区」を設けて検証をと締めくくっていますが、日本にあった組み換え品種を開発し、生産すれば、果たして米国に勝てるのでしょうか。米国農業は1軒の農家の農地面積が日本の150倍以上、ガソリンも土地もずっと安い、円高という為替もからみ、さらに不足払いなどの手厚い保護を受けているのです。自由貿易体制のもとで日本農業が米国産と競争する場合、組み換え品種の栽培で勝てるというというなら、その論拠が必要です。それを示さないままのこの記事は、まったく説得性を欠いています。
消費者の7,8割は食べたくないという日本で、売れない作物を生産者が作るメリットがどこにあるのでしょうか。
組み換え大豆を生産した場合、JAなどから集荷も受け入れてもらえず、したがって大豆交付金も受け取れません。割に合わない、売り先を見つけるのも困難、消費者や地域での反対にあう、一度内緒で生産した北海道の農家が、収量が著しく低かったのでその後は生産を止めたということが10月に発覚しています。収量も低いこともわかったのです。
日本の生産者にはなにひとつメリットがないのです。
招待された農家の角田さんや長友さんが、地元の反対を押して組み換え大豆を作付けしたのは、裏に米国企業(モンサント社)のバックアップがあればこそではないでしょうか。
米国農務省、バイオ企業群が狙っているのは日本で一日も早く、遺伝子組み換え作物の栽培を実施させ、日本の消費者に、もはや国内でも栽培があり、混入、交雑は避けられないという認識(あきらめ?)を持たせることにあるのではないでしょうか。
「記者の目」にはたいへん優れた記事が多くいつも目を通しますが、この記事については中身がなく、大いに失望しました。