金属探知器The metal detector)

2002年2月4日
タイムス(ロンドン)
アンジャナ・アフジャ
訳 山田勝巳

 

アンジャナ・アフジャはBSEとvCJD(新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病)は、関係がないという男性と話した。 ディビッド・ブラウン博士は、そこら辺の異端科学者とは違い、ケンブリッジ大学などまともな大学で生化学者として籍を置き、自分の業績が公になるかには頓着しない。 

しかし、彼の考えは物議を醸すものだ。 かれは、BSEに罹った牛の肉を食べてvCJDに掛かるという一般的学界の定説に組みしない。 一年以上も前にvCJDとBSEのリンクはほぼ疑いがないと結論を出した学会、政府の95%を敵に回している。 ベス大学でプリオン研究センターを運営するブラウンは、マンガンが関与していると考えている。 彼の言っていることには誰も耳を貸さないのは知っているが気にしない。 「マンガンが原因だと言っていないが、頭の柔らかい学者は、検証する必要があると言っている。」

彼の仮説は間違いであるということになるかも知れないがチャールズ皇太子の理解と六桁の政府研究費を獲得している。 この分野の研究では既にkの一匹狼の科学者によって革命が起こっている可能性があることに力づけられているのかもしれない。 1982年にカリフォルニア大学の生化学者スタンレィー・プルシナーは、バクテリアやウィルスではなくプリオンという蛋白質が感染源になっているのではと言って嘲笑されている。 その15年後に生理医学ノーベル賞を受賞している。 今ではプリオンは、生物学的に毒物の仲間入りをしている。

プリオンはvCJDやBSEなどの病気の中心的存在で、蛋白質の折り畳み異常があり、隣接する蛋白質に対し危険な型の役割を果たし、脳を健康に保っている生物学的オリガミを壊してゆく。 その結果脳の成分に穴が形成される(BSEやCJDが海綿状脳症といわれる所以)。 英国では104人がこの破壊によって亡くなって居り、9人が病気と闘っている。

BSE専門家はBSEがvCJDをおこす状況証拠は沢山あるという。 どちらかを感染させたマウスでは、脳組織に全く同一の致死的損傷が発生する。 小さな地域で多発する場合には、特定の肉供給源に辿ることが出来る。

それでもブラウンは納得しない。 「BSEがvCJDを起こすとは考えられない、政府が取った対策でBSEを根絶できていない。これは感染牛を人間が食べることによるとする理由付けでは生物学的に欠陥がある事を示している。新たな理論を考える必要がある。」と話す。

彼によると、状況証拠がどれほど強くても証明にはならない。 それを証明するのは不可能だ。 つまり人を故意にBSEに感染させてvCJDが起こるかを見ることは不可能だ。 環境、食糧・地方庁(Defra)は、20万ポンドの資金をブラウンに与えた。 正統派の科学者は、彼の理論は根拠がないと取り合わない。 

では、ブラウンがマンガンをvCJD捜査に於いて悪玉だと決めつけたのはどうしてだろう。 彼は去年孤発性のCJD(100万人に一人の割合で発生する別の型のCJD)で亡くなった9人の脳を、別の死因で亡くなった人の脳と比較してみた。 sCJDで亡くなった人の脳は正常な脳の10倍ものマンガンが含まれていた。 これを神経化学ジャーナルに発表した。 権威ある週刊雑誌ネーチャーは掲載を拒否したが、その理由は正当性に欠けると彼は言う。 Defraの研究費は、vCJD犠牲者の脳にも高濃度のマンガンが検出されるかを見るのに、より大規模な研究を可能にする。

ブラウンの理論によると、この病気に負ける人は、脳がマンガンを適切に処理できなくなっているという。 この金属は脳組織と結合して何らかの理由で防御機構を奪う。 酸化ストレスを排除できなくなった脳組織は死んでしまう。 マンガンは環境中、土壌、野菜に沢山あるので除外すべきではないと言う。

正統派理論には、納得できない点が多々ある。 例えばvCJDはBSEより何年も遅れて起きている。 彼は、「年表は意味がない。」と言う。 最初のBSEは1980年代後期に発見され、最初のvCJDは1995年に確認されている。 人は非常に長い潜伏期があり、人にも牛にも同時に散発的に起きていたとブラウンはいう。 もう一つ理解できないのは何故5人のvCJD犠牲者がベジタリアンなのかということだ。 

5人中4人が同じような処理をしている肉屋からの肉を食べた多発地を発見した研究者がいる。 何故5人中5人じゃないのか? 同じ肉屋というだけでは説明できない。偶然かも知れない。 もし、50人中45人というように数が多いのであれば、そこに何かあると考えられる。」とブラウンは続ける。 

このような議論は一般の研究者には受けが悪い。 エジンバラ家畜衛生研究所の神経病理学のモイラ・ブルース博士は、マウスの脳にBSEとvCJDが全く同じ損傷を起こすことを示した最初の研究者の一人だが、ブラウンの忠告を否定する。 「こういうのは根拠に乏しい議論で、生物学で何かを証明するのは常に不安材料がつきまとう。 でも、この研究をしている学者の95%がvCJDはBSEによって起きた方の証拠が多いと考えている。 独善的な人は、人がvCJDを、牛がBSEをそれぞれ別の原因で発生していると言うのだろうが、 BSEに罹った牛は非常に多い。 それが人の感染源の主たるものといえる。」と言い、更に、猫や鹿科の2種(クードゥーとニャラ)に同一のマーカーが見つかっており、そのどれもが感染牛の一部が入った餌を食べていると話す。

だが、ブラウンは環境中の高いマンガン濃度が何らかの方法でvCJDを起こしていると考えている。 掛かった人の数が少ないのは、作用が微妙だからだろうと言う。 しかし、もし特定の地域でマンガンレベルが土壌や水で高ければ、地域的多発地があると想像できるのではないだろうか。

「そうとは限らない。 と言うのは最近、人は移動が多い」とブラウンは言う。 例えば、エジンバラに2週間来てvCJDの原因物質に曝される可能性もある。 エジンバラがそのような悪質な危険をはらんでいるとすれば、スコットランドの首都に長く暮らす人は、広範に影響を受けているといえないか。 そうかも知れないとブラウンは言う。 だが、環境中のマンガン分布が分からないので、地理的な広がりがどうかはいえない。 影響は非常に微妙なものであるだろうから別の要因が絡んで発生するだろうという。

アイスランドでは、スクレイピー(羊のBSE)が発生する地域では、マンガンが病気のない地域の1000倍もの濃度で植物に見られる。「スロバキアでは、マンガン鉄の製鉄場が操業しており、孤発性CJDは5倍もの発生率を示している。」

ブルースはブラウンの統計を一蹴する。 スロバキアの群発は遺伝的なもので地域性のものではないし、スクレイピーはアイスランドに羊の一群によってもたらされたものだという。

「感染した場合発症しやすくなると言う環境要因はあるかも知れないが、スクレイピーが突然降って湧くという証拠もない。」と彼女は強調する。

ブラウンは、BSEがウシバエ対策に使う有機リンと関係があると言うサマーセットの農家マーク・パーディと共同活動をしている。 このウシバエ対策には高濃度のマンガンが入っている。 パーディは、ブラウンがケンブリッジ大学にいた当時マンガンが正常な蛋白質と結びつき、マンガンが過剰であれば異常プリオンに変えるということを示したとき連絡してきた。 「私のやっていることがくだらないという人もいるが、今では少なくなってきている。 私が一緒にやっている人達は私がおかしいという人はいない。」とブラウンは、自分の理論が受け入れられないのは気にしていない。

anjana.ahuja@thetimes.co.uk

 

 

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