消費者リポート03年12月号原稿
遺伝子組み換え作物による抗生物質耐性菌
―――――懸念から現実に?――――――
遺伝子組み換え情報室 河田昌東
抗生物質耐性菌の出現は、当初病気治療における抗生物質多用が原因とされ院内感染が問題になった。しかし、いま畜産や農漁業現場における抗生物質耐性菌が問題になっている。抗生物質は病気の予防や肥育効果があるとして、早くから家畜飼料に混入されてきた。それが細菌の突然変異を誘発し耐性菌を増加させたと考えられている。アメリカでの調査(アメリカン・ジャーナル・オブ・メデイシン:2001年10月号)によれば、市販の食肉は平均20%の割合で、抗生物質耐性菌で汚染されている。研究者らは一刻も早く家畜飼料から抗生物質を排除するよう警告している。事情は恐らく日本でも同様ではなかろうか。そうした汚染状況を反映し、同じ雑誌の別の論文では病院の外来患者の便に平均23%の割合で抗生物質耐性菌が検出された、と報告している。こうした人間の院外感染は「コミュニテイー感染」とも呼ばれ生活の場における耐性菌が原因である。今、アメリカの食卓は危険である。こうした状況に、アメリカの疾病予防センターは、食肉の放射線照射による殺菌を提案している。
一方、今我々の生活の中では新たな抗生物質耐性菌の危険性が現実のものになりつつある。遺伝子組み換え作物による耐性菌の出現である。遺伝子組み換えには現在、カナマイシンやアンピシリンなど家畜飼料にも使われている抗生物質の耐性遺伝子が使われる。分離した目的遺伝子を大腸菌などで増やし、植物細胞に挿入したあとで組換え体と非組換え体を選別するために必要で「選択マーカー」と呼ばれる。これらの耐性遺伝子は、作物によって抗生物質耐性タンパク質を直接作っているものもあれば、作物内では機能せず眠っているものもある。しかし、そのどちらも同様の危険性がある。そのことを示す実験が、昨年7月英国のニューカッスル大学の研究で明らかになった。使われたのはモンサント社の除草剤耐性大豆だった。これを人工肛門をつけた人間に食べさせ、小腸を通過したあとで30分おきに人工肛門から試料を採取し分析した。その結果、除草剤耐性遺伝子が最大3.7%まで未分解のままで消化管を通過すること、その遺伝子を腸内細菌が取り込んで除草剤耐性になる、ということが明らかになったのである。幸い、モンサント社の除草剤耐性大豆には抗生物質耐性遺伝子はない。しかし、この実験は、もし食べたものの中に抗生物質耐性遺伝子が存在すれば、同じように体内に耐性菌が出現するリスクがあることを示す。
こうした現象は専門的には遺伝子の水平伝達(種間伝達)と呼ばれる。家畜の場合、餌に抗生物質とその耐性遺伝子を同時に含めば、家畜の体内自体が遺伝子組換えとその選択の場と化すことになり、耐性菌の出現は加速的に増加するだろう。
日本政府が現在認可している遺伝子組換え食品には、害虫抵抗性のポテトやトウモロコシ、綿などにカナマイシンやアンピシリンの耐性遺伝子が含まれ、除草剤耐性トウモロコシと高オレイン酸大豆にはアンピシリン耐性、除草剤耐性テンサイ、ナタネにはカナマイシン耐性、除草剤耐性綿にはカナマイシン耐性やストレプトマイシン耐性の遺伝子を持ったものがある。これらの遺伝子組換え食品や家畜飼料による耐性菌出現はすでに始まっている可能性がある。政府による早急な調査と対策が必要である。