茨城県鹿島港周辺の遺伝子組換えキャノーラ・ナタネの自生について
遺伝子組換え情報室 河田昌東
(2004年6月29日)
6月29日、農水省が記者会見で公表した、茨城県鹿島港周辺のGMナタネの自生事件は、従来から懸念されていたことがついに日本でも起こったことを示す。商業栽培が行われているアメリカやカナダでは恐らく多数の事例があると思われるが、輸入国側でのGM汚染、特に輸入港周辺でのGM汚染が明らかになったのは世界でも恐らく始めてである。農水省によれば、鹿島港は国内最大の加工用ナタネ輸入港で、ナタネの種子が小さく周辺への飛散が心配される。このたび成立したカルタヘナ条約関連でも、調査の必要があった、という。
問題点1:2002年から2004年にかけて行われた農水省の調査では、鹿島港の半径5Km以内の48地点でナタネを採種し、外来種かどうか調べた。その結果、含まれる油の種類などから、23地点(48%)のサンプルがセイヨウ・ナタネであった。採種された種子20点のうち19点がキャノーラ・ナタネで、その結果この自生セイヨウ・ナタネは輸入されたものが環境中で自生したものと判断された。即ち、種子が小さくて輸送や荷役取り扱い中にこぼれたり、風などでも飛散しやすいナタネは容易に港周辺に拡散し、自生したと見られる。これまでも、港周辺では、一般に外来植物の自生が多く見られ、国内の生物多様性には一定の影響を与えてきた事実からすれば、セイヨウ・ナタネも例外ではない。
問題点2:採種された種子で、20検体のうち6検体、植物体7検体のうち2検体が遺伝子組換え体であった。即ち、種子で30%、植物体で28.5%が外来遺伝子を持つ遺伝子組換え体であった。大まかに言えば、鹿島港周辺の自生ナタネの約半数がセイヨウ・ナタネ(その多くはキャノーラ・ナタネ)でその30%がGMである。全体からすれば、自生ナタネの14〜15%がGMナタネということになる。これは、GMトウモロコシの汚染で問題になっているメキシコの汚染レベルに匹敵する。メキシコでは、在来種と野生トウモロコシの約10%がGM汚染と報告されている。
問題点3:発見された組換え遺伝子は、モンサント社のEPSPS(除草剤ラウンドアップ耐性)とアベンテイス社(バイエル社)のPAT(除草剤グルフォシネート耐性)、それにアベンテイス社のMS-RF(雄性不稔と除草剤グルフォシネート耐性の複合)の3種類であった。ナタネに組込まれている別の除草剤耐性遺伝子BXN(米国Pedigreed社)は検出されなかった。現在、農家の自主規制で商業栽培は行われていないが農水省が栽培認可しているのは、EPSPS遺伝子を持つモンサント社のRT73(又はGT73)ナタネのみである。アベンテイス社のPAT遺伝子を含むナタネ品種(HCN10,HCN92,Phy14,Phy35,Phy36,T45)は食用、飼料用としては認可輸入されているが、国内での栽培認可は下りていない(平成15年3月時点)。また、雄性不稔とグルフォシネート耐性の両方の形質を持つ、MS1‐RF1,MS1‐RF2,MS8×RF3はいずれも食用、飼料用には認可されているが、栽培認可は下りていない。
ちなみに、日本で栽培認可されているRT73(GT73)はイギリスでは、環境に対する有害性(即ち近縁野生種との交配など)が高いという理由で認可されていない。また、つい最近6月16日、安全性に問題があるとして、EU委員会ではGT73の食用としての輸入さえも承認されなかった。こうして見ると、日本が認可しても海外では問題になり認可されていないものや、日本でさえも栽培認可が下りていないものが、堂々と港周辺の道路沿いに生えていることになる。カナダのシュマイザーさんの懸念は日本でも現実のものになった。
問題点4:農水省は、このセイヨウ・ナタネが今年新しく輸送中にこぼれたのか、それとも昨年以前に自生したものの種子が再び発芽した、前の世代の種子によるものか判別がつかなかった、としている。しかし、汚染頻度からして過去にも自生していた可能性は高く、毎年新たな種子を周辺にばら撒いている可能性が有る。更に徹底的な調査が必要である。
問題点5:ナタネは他家受粉性で、花粉による遺伝子汚染が広がりやすい。オーストラリアでの大規模な実験によれば、花粉飛散による汚染は2〜4Kmにも及ぶ。また、近縁の野菜や野生種が多く、生物多様性の面から見て、放置すれば自生種が更に外側に拡散する可能性が高い。従って、現在確認されている自生セイヨウ・ナタネを早急に処分する必要がある。農水省の報告書ではこの点が全く触れられておらず、放置するがごとき姿勢は許されない。
問題点6:鹿島港が国内最大のナタネ輸入港だとしても、東京港、名古屋港、神戸港など他の輸入港周辺でも(ナタネの輸入があれば)同様の事態が起きている可能性がある。環境や取り扱い方によっては輸入規模が小さくても、汚染が広がっている可能性があり、全国的な調査が必要である。
問題点7:ナタネの多くは、搾油のために製油工場に運ばれる。港からの沿線、製油工場周辺の汚染もあるだろう。現在、全国に広がっている「菜の花街道」などで栽培されているナタネが汚染しないよう注意する必要がある。菜の花街道など大規模に密集して栽培されていれば、汚染は起こりやすく、ひとたび汚染が起これば、非GM種子とGM種子を選別するのは不可能で、毎年汚染が継続することになる。
問題点8:モンサント社とアベンテイス社はそれぞれ、グリフォサート耐性遺伝子とグルフォシネート耐性遺伝子に特許を持っており、理論的にはこれら自生したGMナタネは同2社のものである。パーシー・シュマイザーさんの裁判でカナダ最高裁は特許遺伝子をもつ植物は特許権をもつ企業のものだと認定した。アメリカの特許法では早くから、植物体を特許の対象としている。 従って、同社らは責任をもってこれら自生GMナタネを回収・撤去しなければならない。カナダの農家パーシー・シュマイザーさんがモンサント社に裁判を起こされ、最高裁でも敗訴したのは、まさにこの点が争点だったからである。同2社の対応が注目される。