環境経済へ移行を!

人類は毎年2500兆ドルに相当する自然の生息地を失っている

 

ScienceVolume 297, Number 5583, 9 Aug 2002, p. 950.に関するOCAの論評

訳 山田勝巳

 

OCA 注: この記事は、西洋諸国が世界の構造を変えるのに使っている経済論「新自由経済」に重大な欠陥のあることを指摘している。その主張するところは、限界のないガン細胞のような経済成長を目指している。(地球が無限の再生能力があるという前提に立っている。)アメリカの支配するIMF、WTO、NAFTA,その他の貿易条約による圧力で、多くの国が新自由政策を採るよう強要されている。 新自由経済学は留まるところを知らぬ勢いで地球を破壊し続けている。この記事にある代替案、環境経済学は、破壊を食い止めたり、再生するための重要な第一歩である。 残念ながら環境経済学を教えている大学は極めて少なく、西洋諸国の政府からは殆ど見むかれていない。 OCA支持者には是非とも環境経済学を自習して、これを採用する圧力団体を作って欲しい。

 

 

ワシントン、8月9日、2002年 ENS 

 

   自然のエコシステムの価値は、それを生産農場や宅地その他の人間が利用するために変えて得られる価値を凌駕している。 今日発行の「サイエンス」誌にある研究では、 棲息環境の破壊は、毎年2500億ドルに相当する損失だという。 この研究チームは、地球的自然のもたらすものを商品やサービスで換算すると人の利用に転換した場合よりも少なく見積もって400兆ドル/年多いという。 これを損益で言うと100対1で保全する方に歩があり「驚異的に有利な投資」だと研究者は書いている。

 

「経済性はまさに驚異的だ。保全の方が有利だとは考えていたがこれ程とは思わなかった。」と、主筆者であるケンブリッジ大学動物学部のアンドリュウ・バームフォードは話す。

 

生息地破壊は、世界中で衰えることなく続いているが、増え続ける証拠から見るとこの傾向は下手な経済政策と言える。 「サイエンス」の研究によると、熱帯雨林から珊瑚礁までエコシステムを自然な状態から人の利用に変換した場合、全経済価値の約半分近くが失われるという。

バームフォードらは、比較的無傷のエコシステムとこれを転換した場合の経済性について比較している。 このような状況のケースを300例以上調査したが、彼らが設定した厳密に恩恵を比較できる基準に適合したのは5例しかなかった。

 

「生息地変換が人間の企業に掛かる単年度の費用は、初年度で正味2500億ドルオーダーになり、それが毎年毎年掛かってくる。」と研究チームは結論した。

 

エコシステムの経済価値測定は、「商品とサービス」として換算でき、その中には、エコシステムがもたらす気象制御、水の浄化、土壌形成、持続的動植物の生産がある。 これらには、通常の経済環境では売り買いしないものも多く、値段を付けるのは難しい。経済学者は、市場流通しないサービスの値付けに、製品を交換するのに掛かる費用の推定や個人や国家が払っても良いと認めるエコシステムサービスの値段など様々な方法を使っている。

 

バームフォードのチームは、カメルーンの熱帯雨林を小規模農業と商業的プランテーションに変換した場合のケースと、タイのマングローブ生態系をエビ養殖場にした場合、フィリピンの珊瑚礁で漁をするためにダイナマイトで発破をかけた場合を分析している。 どの場合も嵐や洪水防止、大気中二酸化炭素吸収、持続的猟場でツーリズムなどエコシステムのサービスが、変換して得る市場利益を上回っていた。

 

無傷のエコシステムの経済価値総額は、変換した場合よりも14−75%多い。 例えば、カナダでの調査地では、淡水湿原を最も生産性の高い農業地帯に変換した場合、研究チームは、湿原を保全した場合の方が狩猟や捕獲、漁業などによる社会利益の方が約60%高いとはじき出した。

 

バームフォードのモデルによると、マレーシアの熱帯雨林の持続的林業の価値は、集中的伐採によって得られる利益よりも洪水防止、炭素蓄積、絶滅寸前の種保存などで14%高かった。

 

このような数値にも関わらず、保護することの公共正味利益は、変換する場合私企業が得る短期的経済利益の為に無視されていると研究チームは書いている。 「自然の価値を考慮しないという方法で長い間帳簿をごまかしてきた」と話すのは、「サイエンス」の研究を記述したメリィランド大学の環境経済学者ロバート・コスタンザである。コスタンザは、自然生息地をドルに換算する概念に注目を引きつけた最初の研究者の一人で、1997年に彼のチームが世界の自然の価値を推定した額は33兆ドル/年だった。その彼でさえ今回の新たな研究結果には驚いているという。「我々は、開発するよりも自然を維持した方が少なくとも100対1で地球の損益比があると結論した。だれもこれ程とは思っていなかった。毎年生息地を変換し続けているが、開発して得る利益に掛かるコストは2500億ドルになる。」とコスタンザは言う。

 

エコシステムの経済価値についての情報がないこと、市場がこれらのサービスを捉え値段付けをしないこと、土地変換を奨励する補助金や助成金など全てが自然破壊につながっていると「サイエンス」の筆者らは言う。

 

「この3つを解決、それも3つ同時に解決する必要があるが、即金ということになれば、補助金制度を直接廃止するのが経済効率と環境の両面を改善する良い方法だ。」 研究者と政策立案者は、自然を市場に持ち込む様々な方法を検討しているとバームフォードは話す。 炭素税やクレジット、認証付き環境に優しい商品にプレミアムを付けたり、地球的に重要な保護区に住む人達への直接払いなどが検討されている。

最後の提案は、議論を呼びそうだが、エコシステムの資源を利用できない地域の人々を保存による地球的規模の大きな利益を反映して保証するものだとバームフォードは説明する。 「本当に求めているものが保存による恩恵であるならば、それに対し直接支払うことも時には必要だという認識が生まれてきている。」 今回の研究で、毎年450億ドルを陸上や海の自然生息地として保護すれば、自然による正味サービスの見返りは400−520兆ドルになると見積もっている。 現在65億ドルが、地球全体で自然保護のために払われている。 その内半分はアメリカが支出している。

 

「自然の我々にとっての資源状態を監視し続けなければいけない。破綻状態を続けていながら費用として計上していなかった。環境と経済は緊密な依存関係にある。」とコスタンザは言う。

 

「サイエンス」の研究は、地球規模のエコシステム損失が減少してきている兆候があるので、自然の経済価値に関する更なるデータが必要であることを強調している。

 

南アフリカのヨハネスブルグでの持続的開発世界サミットを前にして、自然生態系は前回リオデジャネイロ地球サミット以来年1.2%又は10年で11.4%の割合で手つかずの状態から変化してきている。 「自然が浸食されてきていると言うことはずっと耳にしているけれども、私にでさえそれが腹に落ちるのに時間が掛かる。 私が子供の頃に保護という言葉を初めて聞いて以来既に世界の自然が1/3失われてきている。 そのことで夜も眠れない。」とバームフォードは言う。

 

オリジナルのScience論文は:http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/297/5583/950/DC1

 

 

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