参考資料
遺伝子組換え品種同士を掛け合わせた品種6品種についての安全性審査
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/06/s0612-5.html
パブリックコメントの募集
http://www.mhlw.go.jp/public/bosyuu/p0613-1.html
GM交配品種の安易な認可は問題
遺伝子組換え情報室 河田昌東(03・6・25)
03年6月12日、「厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会衛生バイオテクノロジー部会」(以下、厚労省部会)は、モンサント社とジュポン社から出された新たな遺伝子組換えトウモロコシ及び綿について、審査の結果問題なし、として新たに6品目を認可する決定を行った。しかし、この認可には多くの問題があり、このまま認可された品種がアメリカから輸入・流通され、食品として消費されることには反対である。
1)認可された遺伝子組換え体
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ラウンドアップ除草剤耐性トウモロコシ(GA21)と害虫抵抗性トウモロコシ(MON810)の交配種
A ラウンドアップ除草剤耐性トウモロコシ(NK603)と害虫抵抗性トウモロコシ(MON810)の交配種
B ラウンドアップ除草剤耐性トウモロコシ(NK603)と害虫抵抗性トウモロコシ(MON863)の交配種
C ラウンドアップ除草剤耐性綿(1445系統)と害虫抵抗性綿(15985系統)の交配種
D ラウンドアップ除草剤耐性綿(1445系統)と害虫抵抗性綿(531系統)の交配種
E グルフォシネート除草剤耐性トウモロコシ(T25)と害虫抵抗性トウモロコシ(MON810)の交配種
2)認可の考え方
上記の組換え体を認可した「厚労省部会」の根拠は以下の3点である。(1)いずれの交配種も親株の性質を安定に保持している。(2)交配した親株は何れも同じ種同士である。(3)消費者による交配種の摂取量、食用部位、加工方法も親株と同じと考えられる。(4)個々の親株の安全審査はすんでいるのだから、それ同士の交配種も安全である。
3)問題点1:論理のすり替え
今回の安全審査で具体的に検討されたのは上記の(1)〜(3)のみである。しかし、最も肝心なのは(4)の基本的考え方が妥当かどうかである。(4)について、審査報告書では6件のいずれについても「・・・・(親株については)それぞれ安全性の審査の手続きはすでに終了しており、いずれも人の健康を損なう恐れがあると認められないと判断されていることを踏まえ、・・・以下の3項目について検討・確認した」と記載されている(アンダーライン:河田)。即ち、(4)については、その妥当性を具体的に検討したわけではない。
個別親株の組換え体の安全審査についても、我々が既に指摘しているように多くの問題があるが、それはさておくとしても、今回の安全審査は、その交配種について個別に安全性を確認することを放棄したものである。こうした詭弁がまかり通るならば、今後さまざまな外来遺伝子を併せ持つ組み換え体が無批判に認可されるおそれがある。この考え方を援用すれば、いくら沢山の遺伝子を組み込んでも、その親株の安全性が確認されている以上その子株も安全、という論理が成り立ち際限がない。今回のような、組換え遺伝子の複合体は、改めて個別に安全審査を行うべきである。以下にその理由を述べる。
4)問題点2:遺伝子の相互干渉が考慮されない
細胞内に数万個ある遺伝子は、それを制御する短鎖RNAや遺伝子の作るタンパク質、代謝産物などが複雑に相互作用しあっている、というのは既に専門家の間では常識である。ラウンドアップ耐性大豆においてリグニン(木質成分)の合成が強化され、高温や乾燥に弱くなったり、組換え前の親株より収量が減少するといったことや、アレルギー対策でグルテリン(タンパク質)の合成を抑制したコメで別のさらに強いアレルゲンであるプロラミン(タンパク質)の合成が盛んになる、等といったことは外来遺伝子と宿主遺伝子、それらの生産物の相互干渉の結果である。今回認可された除草剤耐性遺伝子と害虫抵抗性遺伝子の共存が、それそれの親株との形質の違いをもたらさないかどうか、新たなタンパク質が出来ていないかどうかなど最低限の分析は必須である。複合された遺伝子がそれぞれ単独で機能する、という証拠はどこにもない。
5)問題点3:カリフラワー・モザイク・ウイルス・プロモーターとNOS3’ターミネーターの問題
今回審査されたものの親株で、除草剤耐性トウモロコシGA21を除き、他の全てのトウモロコシと綿の組み換え体親株には、プロモーターとしてカリフラワー・モザイク・ウイルスの遺伝子(以下CaMV35S)が使われている。特にBt綿(15985と531)ではもともとプロモーター機能を強化するために複数個のCaMV35S配列が組み込まれている。交配によって、CaMV35S配列は倍化し、もともとそれをもっていなかった除草剤耐性トウモロコシGA21も、GA21/MON810の交配株となることで、CaMV35Sを持つことになる。ところで、これまでの研究によりCaMV35S配列は、宿主遺伝子のなかで突然変異のホットスポットとなることが知られている。それはCaMV35Sの塩基配列の特性に由来する。交配種では、親株に比べてさらにこの配列が2〜3個以上に増加することから、さらに頻繁な変異の増加が起こる可能性がある。また、これら複数のCaMV35S配列同士の組換えも起こる可能性がある。CaMV35Sプロモーターは、本来カリフラワー病原ウイルスの遺伝子プロモーターだが、ウイルスのみならず、細菌、植物、動物を含む(人間も)全ての遺伝子の発現を可能にすることが知られている強力なプロモーターである。交配種の細胞内において挿入外来遺伝子だけでなく宿主遺伝子の発現に影響を与えないかどうか、調べる必要がある。また、交配種のなかで、両親に由来する組換え遺伝子のカセット構造とDNAの塩基配列が、そのまま保存されているかどうか確認の必要がある。
除草剤耐性トウモロコシT25と害虫抵抗性綿531を除いて、他の全ての親株の組換え遺伝子は終止信号(ターミネーター)としてNOS3’配列を使っている。これは本来植物のクラウンゴール病を起こす土壌細菌、Agrobacterium tumefasiens のTi プラスミドの配列である。既に多くの組み換え体でこの配列が使われているが、最近になりこのターミネーターの信号読み取り終止機能が不完全で、組換え遺伝子から出来るmRNAがNOS3‘信号で終止せず(リードスルーという)、さらに長いmRNAが出来ることが分かっている(安全審査ではこれを「2次転写物」と読んでいる)。当初、こうしたリードスルーが起こらないことが安全審査の上で強調されてきた。それはリードスルーが起これば、本来の遺伝子が作るタンパク質より長い、異常タンパク質が出来る恐れがあるからである。最近の安全審査では、「2次転写物は出来るものの、それから出来る長いタンパク質が検出されていない」として安全性を強調している。mRNA同様、今後検出感度が上がれば異常タンパク質が検出される可能性も考慮し、安全性を考えるべきである。なぜなら、今回のような安易な審査で認可されれば、検出された時点では既に多くの人々が食べてしまっている、という事態が起こるからである。CaMV35Sプロモーター同様、NOS3’を持たない親株も交配種となることによって、NOS3’配列を持つことになり、将来のリスクは親株より大きくなると考えられる。
6)問題点4:抗生物質耐性遺伝子の拡散
これまで多くの組み換え体作出において選択マーカーに抗生物質耐性遺伝子が利用され、食物として摂取した際に体内で抗生物質耐性菌の出現が懸念されている。その中で、モンサント社の除草剤耐性遺伝子GA21とNK603、害虫抵抗性遺伝子MON810は、抗生物質耐性遺伝子を排除することに成功し、それを一つのメリットと主張してきた。今回交配に利用された他の全ての親株にはカナマイシン、ネオマイシン、アンピシリンなどの抗生物質耐性遺伝子が組み込まれている。今回の交配で、すべての交配種が抗生物質耐性遺伝子を持つことになる。これもまた、交配種がさらに安全性を低下させたことを意味する。交配によって不必要に抗生物質耐性遺伝子を拡散させることは、大きなマイナスである。
7)問題点5:アレルゲンの問題
現在、遺伝子組換え食品のアレルギー性については、既知アレルゲンタンパク質とのアミノ酸配列の比較によってチェックされている。その際、既知アレルゲンの抗体結合部位(エピトープ)と8個以上のアミノ酸配列が同じである場合にさらに詳しく検査する、という手続きを取っている。最近、ピーナッツ・アレルゲンのエピトープがアミノ酸4〜6個の配列で可能という研究が発表されたのに伴い、オランダのG.A.クレーターとA.A.ペイネンバーグは、これまで安全とされたGMタンパク質のエピトープを見直した。その結果、今回認可されたジュポン社の除草剤グルフォシネート耐性作物にはエビ・カニのアレルゲンのエピトープと同じアミノ酸配列KVLENRが含まれ、モンサント社の除草剤グリフォサート耐性作物にはハウスダストのアレルゲンと同じエピトープのアミノ酸配列、VKSEDGが含まれていることから、さらに血清との反応性など生化学的検査が必要と指摘した。また同論文では、今回認可されたBt綿15985株及び531株に含まれるCry1Ac遺伝子の作る殺虫タンパク質は、スギ花粉症のアレルゲンに含まれるエピトープ、GNAAPQ--GSTGITIが含まれることを示した。
また、アメリカのビル・フリーズ氏の研究(Friends of Earth:2001年9月、EPA提出書類)によれば、モンサント社のMON810のCry1Ab遺伝子の作るタンパク質について、モンサント社は安全審査申請書において、既知アレルゲンとのアミノ酸配列相同性チェックを行っていない上、アレルギー性が問題になったアヴェンテイス・クロップ・サイエンス社の「スターリンク」のCry9Cタンパク質同様、消化酵素に対する分解抵抗性が認められる。
こうした事例を考えれば、個別の組換え体のアレルギー性が持つ問題点は、GM同士の交配によって引き継がれるだけでなく危険性はさらに倍加する、と考えなければならない。従って、親株の安全審査が済んでいるからといって交配種の安全性も確保されるとはいえない。
8)問題点6:意図しない栽培の危険性
今回の認可は、食用としての流通を可能にするものだが、こうして出回ったトウモロコシや綿の種子が農家段階で栽培され、あるいは流通過程でこぼれた種子の発芽などにより、在来種や野生近縁種にたいして予想しなかった遺伝子汚染をもたらす危険も存在する。現在、農水省においてはこうしたGM種同士の交配種の栽培認可は行われていない。にもかかわらず、意図せずこうした汚染が起こることは、栽培認可の前提を崩し、国内在来種の純粋性確保に大きな障害となる危険がある。今回認可された6品種のうち4品種が他家受粉性のトウモロコシであることは、こうした懸念をいっそう深める。実際、GMトウモロコシの栽培が禁止されているメキシコにおいて、野生種トウモロコシに組換え遺伝子が入り込み、種の多様性の観点、原種保存の観点から大きな懸念材料になっている事実は、日本においてもこうした懸念が現実的な脅威であることを示すものである。
さらに、個々の親株においても、除草剤耐性や害虫抵抗性を発現させるために、プロモーターやターミネーター、シグナルペプチド形成、選択マーカーなどの目的で複数の異種生物の遺伝子または、遺伝子断片を連結した「遺伝子カセット」が用いられている。二つのGM種の交配によって、これらの遺伝子の複雑性はさらに増大し、本来の宿主作物とは大幅にかけ離れた遺伝子構成を持つことになる。例えばラウンドアップ除草剤耐性トウモロコシ(NK603)と害虫抵抗性トウモロコシ(MON863)の交配種では、土壌細菌Bacillus thuringiensisの Cry3Bb1、カリフラワー・モザイク・ウイルスのプロモーターとターミネーター、小麦葉緑体、小麦熱ショックタンパク質、大腸菌抗生物質耐性、土壌細菌Agrobacterium tumefaciens のCP4EPSPS、同細菌のNOS3’、コメ・アクチンのプロモーター、シロイヌナズナの葉緑体のシグナル・ペプチドなど10種類に及ぶ生物・ウイルスの遺伝子が交配種トウモロコシの染色体上に同居することになる。厚労省部会によれば、交配種の形質は安定しているので、上記の遺伝子は全て優性遺伝子として遺伝し子孫に伝えられる。こうした自然界にない遺伝子構成の植物が、野生種と交配すればこれまでの進化とは全く異なる遺伝子を植物の世界に持ち込むことになる。個々の親株においても同じ問題はあるが、交配種によって遺伝子カセットの複雑化はさらに加速される。これは現存生物の遺伝子保存と生物多様性に対する大きな脅威である。
9)問題点7:遺伝子汚染の追認と輸入のための事前承認
今回の認可はアメリカにおける遺伝子汚染の現実を追認するものである。実際、アメリカ国内においては、除草剤耐性や害虫抵抗性の遺伝子を持つGMトウモロコシの栽培面積の増加に伴い、それぞれの品種の純粋性を保つことが すでに難しくなっている。実際、日本国内栽培のためにアメリカから輸入された「非組換え」トウモロコシの種子を民間団体の「ストップ遺伝子組み換え汚染種子ネット」が検査したところ、約半数の種子ブランドから組換え遺伝子が検出された。その際、本来別個に認可されている除草剤耐性同士や、除草剤耐性と害虫抵抗性が一つのブランドに同居している例が少なくなかった。中には3種類の組換え遺伝子が同居している例もあった(別添資料参照)。即ち、アメリカでは「非組換え種子」といえども既に複数の組換え遺伝子による汚染が起こっており、「食用組換え種」(栽培用種子でなく)ともなれば、この傾向がさらに強まるのは避けられない。今回の認可はこうしたアメリカにおける遺伝子汚染の現実を追認し、輸入の際に起こりうるトラブルを避けることが目的と考えられる。これは本末転倒であり、国民の健康を守る厚生労働省の取るべき立場ではない。
以上