アメリカの会計検査院がGM農産物の輸出低下に懸念の議会報告書
6月15日、アメリカ会計検査院(GAO:General Accounting Office)は議会上院に一つの報告書を提出した。タイトルは「Concerns Over Biotechnology Challenge U.S. Agricultural Exports」である。 現在アメリカがGM作物輸出で直面している困難などが率直に書かれている。今後の推移を考える上で大いに参考になると考えられるので、以下にその抄訳を載せる(河田)。
アメリカの農産物輸出にバイオテクが直面している問題
(抄訳)河田昌東
遺伝子組換えを中心とするバイオテク農産物の輸出は海外市場で困難に直面している。特にアメリカの大豆とトウモロコシはGM化が著しいが、次第に国際貿易の場で規制が厳しくなり、先行きが懸念される。
1998年以来EU諸国は新たなGM農産物の認証を止め、表示義務や追跡可能性など新たな規制やガイドラインを決めてきた。たとえばEU、日本、韓国はバイオテク農産物とその加工品に表示義務化をしいた。その他の国々も同様の規制を敷こうとしている。EUはGM農産物と加工品の流通経路全般にわたって追跡可能性を要求し、結果的に輸入を制限しようとしている。その他、各種国際機関も何らかのガイドラインを決めようとしている。アメリカはWTOの場で参加各国が決めたガイドラインや規制との整合性を取ることに苦労している。
アメリカのコーンと大豆はGM化が一番進んでいる分、もっとも輸出低下の脅威にさらされている。今のところ大豆はそれほどではないが、コーンはEUで認証されていない品種をアメリカの農家が栽培したために、EUの市場から大幅に削減された。大豆も将来各国の規制が厳しくなり、GMと非GMの分別を要求されるようになればコスト増加に見舞われるだろう。
アメリカのバイテク農産物の輸出は、国際市場からいくつかの重大な問題を突きつけられている。第一に世界で唯一の生産国であるという事情から、市場へのアクセスにおいて孤立している(同調者がいない)こと、第二に世界的な規模で消費者のGM農産物にたいする安全性への心配が増大し、それらの国々で規制強化を余儀なくされ、結果としてアメリカの輸出が落ち込んできたこと、である。また、別の要因として分別コストが高いという理由で、アメリカにおける穀物の分別が不完全になったため、アメリカ製品全般に対する信頼が低下し、輸出に影響を与えていることがある。最後に、コーデックス委員会その他における国際的な議論が重要性を増し、アメリカ政府のバイテク製品の貿易に携わる省庁間の調整とスタッフを増員が必要になっている。
(背景)
近代的な科学技術を背景にした植物や動物、微生物の遺伝子組換えは、特定の遺伝的形質を異なる種に導入することに成功した。遺伝子組換えで従来の品種改良に比べて所要時間が大幅に短縮できるようになった。無関係な生物種同士の遺伝子を組替えることが出来ることも大きなメリットである。
今日、市場流通が行われている組換え体は主に、コーン、大豆、綿である。2000年にはアメリカのコーンの25%、大豆の54%、綿の61%が組み換え体で栽培された。アメリカ以外でGM作物を大規模に生産しているのはアルゼンチン(大豆)と、カナダ(菜種)である。
(輸出に影響を与える国際的な動き)
アメリカの主な市場である諸外国における近年の変化は、アメリカの農産物のバイテク化に対する懸念である。たとえばEUでは1998年以来新たなバイテク産物の認証はとまったままである。その他いくつかの国々で表示義務化が進んでいる。EUではGM産物の生産と流通経路の各段階でGMが含まれるかどうか追跡し、書面での証明が義務付けられようとしている。
(認証プロセスの変化)
アメリカでは認められているバイテク産物のあるものは他国では認められていない。コーデックス委員会も各国が独自の規制方針を定める際のリスク分析のガイドラインを作りつつある。
アメリカとEUはすでにバイテク農産物の認証の枠組みにおいて相当違った立場に立っている。アメリカは既存の食物安全や環境保護の法律をバイテク農産物にも当てはめ、それらがバイテク農産物であるかどうかには関係無く、産物そのものの性質にもとづいて認証している。しかし、EUでは1998年以来バイテク農産物の認証にあたって別の規制の枠組みを確立し、それ以来新たな遺伝子組換え農産物の認証は行っていない。EUは「予防原則」の立場に立って、新たなバイテク作物の認証を、もし潜在的なリスクにおいて科学的に「不充分で、決定的でなく、不確定性のある」場合は新たな認証は進めない、という立場を維持している。アメリカの規制当局は新たなバイテク作物の評価では十分科学的でリスクの予防を考慮していると主張しており、政府はEU諸国が認証を政治的に利用していると考えている。
EUが認証しないためにバイテク貿易に影響を与えている例として、アメリカの大豆生産者はEUで認められていない新たなGM大豆品種導入に慎重になっている。同様にEUにコーンを輸出しているアルゼンチンはラウンドアップ耐性コーンの栽培を延期している。
(表示義務の採択など)
国際的なガイドラインの制定に先だって、EU、日本、韓国はすでにバイテク農産物と加工品に対する表示義務を課している。これら三国はアメリカの農産物輸出の主要なマーケットである。その他の国々(オーストラリア、ニュージーランド、メキシコ)も表示義務化に動いている。アメリカ政府はそうした規制は生産コストを上げ貿易を破壊するものだと懸念を表明してきた。アメリカの生産者は、表示が消費者によって警告表示にされようとしており、これら生産物のニーズを妨害するものだ、と主張している。結局、生産者がそうした表示を排除すれば、穀物商社がバイテク農産物の分別をせざるを得なくなり、相当コスト上昇を招くことになろう。
表示要求はまたバイテク製品の混入レベルの問題を生ずる。アメリカ政府当局によれば、混入ゼロの要求は多くの食品にとって表示を困難にするだろう。原因は主に在来種とGM種を同時に扱うアメリカの穀物取り扱いシステムによる。日本の場合、混入5%以下は表示の必要がないので、アメリカ農務省はその新たな表示義務には応ずることが出来よう。種子油のような更に加工の進んだ製品の場合は、遺伝子組換えの検出が出来ないので日本の表示義務から逃れられる。
(生産過程での追跡)
トレーサビリティ(追跡可能性)はアメリカのバイテク農産物輸出に影響するEUの規制の根幹をなす概念である。この規制では、農産物の生産の各段階でバイテク製品の追跡を証明する文書を要求される。現在はどの国もトレーサビリティは承認していない。
EC委員会は2001年後半にもバイテク由来の製品を含む食品と家畜飼料のトレーサビリティと表示の義務化を採択する予定である。こうした新たな規制のもとでは、たとえば大豆油から作られたマーガリンは、それが在来大豆から作られたのか、それともGM大豆由来のものかを証明する書類が必要になる。もし大豆油がGM品種から作られたものであれば、かりに大豆油に組換え遺伝子やその蛋白質が検出されなくても、マーガリンは遺伝子組換えの表示が必要である。EC委員会が採択すればEU加盟国が最終的に承認し、1年かそこらで発効する。
EUはトレーサビリティ原則をコーデックスのガイドラインと穀物のバルク輸出におけるバイオ安全プロトコールの未決ルールにも盛り込むよう後押している。アメリカは多国間協議でこうしたトレーサビリティ原則を含ませることに反対している。アメリカ政府は、トレーサビリティがGM製品が健康にたいする懸念がないにもかかわらず貿易を破壊するものだという主張を維持している。また、アメリカ産業界もこうした新たな規制がアメリカの穀物取引や食品生産システムに与える影響を警戒している。なぜなら、この二つが効力をもてば、バイテク作物と在来作物を分別しなければならなくなるからである。
(海外の規制で輸出制限される商品)
コーンと大豆は海外の新たな規制でもっとも脅威を受けるアメリカの主要商品である。両者主に家畜飼料として輸出されるが、海外市場では注目すべき変化に直面している。コーンの輸出はすでにかなり落ち込んでいる。EU諸国に対するアメリカの1990年代半ばの平均的な年間輸出額は3億ドルであったが、近年は1千万ドル以下に落ち込んでいる。この下落は主に新しいバイテク・コーン品種がアメリカで生産されたが、EUでは未承認だったためである。 EU市場で未承認の品種がわずかでも検出される可能性があるため、輸出商はヨーロッパへのコーンの輸出を取りやめる選択をしたのである。
EUは世界におけるアメリカのコーン輸出のシェアが5%を超えていないが、アジアとラテンアメリカの国々はアメリカのコーンの4分の3以上を輸入している。これらの地域での最大の市場である日本、韓国、メキシコは最近バイテク食品に表示義務化を採用した。アメリカ産業界の代表らはこれらの国々における表示義務化はアメリカのコーンの輸出に広範なインパクトを与えるかもしれない、と注目している。
コーンと違って、アメリカの大豆輸出はまだ破壊を経験していない。上記のように大豆は主に家畜飼料用である。アメリカにとってヨーロッパへの大豆輸出はコーンよりもはるかに重大である。アメリカの大豆生産者はEUで未承認のGM大豆品種を導入することを抑制してきた。現在、アメリカでは唯一のGM大豆品種が生産されており、それはEUやその他の大部分の市場でも承認されている。しかしながら、アメリカ政府当局は現在ヨーロッパで進行中の表示とトレーサビリティの規制が将来の大豆の輸出にとって大きな脅威になるかもしれない、と注目している。なぜならこれは人間の食品と同じく動物飼料にも適用される最初のケースになるからである。
(アメリカのバイテク輸出が直面する問題)
アメリカはバイテク農産物に由来する作物や食品の市場へのアクセスを維持するために多くの挑戦に直面している。これらの挑戦には、EUが行おうとしている表示とトレーサビリティの確立、各種国際機関での「予防原則」の認識を広めようとする動きである。アメリカ政府と産業界代表は発展途上国がバイテク農産物の規制を作成するにあたってEUの規制の枠組みを採用することに懸念を表明している。彼らはまた、こうした新しい技術の規制経験のない外国政府が、WTOの義務に添わない形で輸入を制限するルールをアメリカの押し付けないかと恐れている。アメリカはGM商品を輸出している国が少数派であるためにバイテク商品の貿易問題では孤立している。政府関係者によれば他の国はバイテクを一義的にはアメリカとEUの二国間貿易問題とみる傾向がある。さらに、アメリカは生物多様性に関する国際条約に参加していないので、農産物のバルク輸出問題に関するバイオ安全プロトコールの議論で将来アメリカの参加は限られたものになるだろう。
バイオテクノロジーの安全性に関する消費者の心配、特にヨーロッパにおけるその増大が、海外政府にバイテク貿易を制限する行動を取らせている。EUとアメリカの政府は最近の食品安全問題は、狂牛病やダイオキシン、それに対するEU参加国のいくつかの政府の対応の悪さがヨーロッパの消費者の食品安全規制に対する信頼を失わせた、と考えている。その結果、ヨーロッパの消費者は規制当局の食品安全確保に対する能力に疑問を持ち、こうした恐怖感がバイテクと関連していないにもかかわらず、バイテク食品に対するヨーロッパの態度が広範に影響を受けている、と指摘している。いくつかの消費者グループはバイテク食品のリスクと利益は不確かであり、現在のアメリカの健康と環境安全の規制には満足していない。
その上、第一世代のバイテク生産物は、消費者のメリットではなく、主に生産者の利益を重視してきた(たとえば病虫害対策コスト削減や収量増加など)。こうした事情を考え、バイテク産業は現在次世代生産物を消費者の利益、特に栄養素の改善などに向かっている。しかしながら、そうした製品は未だに市場に出回っておらず、今後何年もかかるであろう。したがって消費者の利益は未だにはっきりしていない。
GMとノンGMを完全に分離しようという穀物商社の困難はさらに追加的な挑戦に出会っている。この問題は昨年、スーパーマーケットでスターリンク・コーン製品が見つかって以来脚光を浴びることになった。スターリンクはアメリカでは家畜飼料には認可されていたが食用には認可されていなかった。しかし、それが食品中に見つかり、未認可の韓国と日本にも輸出されてしまった。穀物業界代表によれば、アメリカの穀物取り扱いシステムの競争力は在来種とGM種をいっしょに扱う点にある。もし、何らかの規制で分別やトレーサビリティ証明が要求されれば、ハンドリング・コスト増大や効率と競争力低下を招くだろうという。一般に生産者はバイテク農産物を支持するが、農業分野のいくつかのセクター、特に輸出業者は、バイテク産業にたいして批判的である。
もう一つのバイテク輸出における困難は、アメリカ政府当局の、他国の新たなバイテク規制を察知し、バイテク貿易に影響を与えるような問題での多国間協議に際して、アメリカの利益を守る能力である。例えば、コーデックス委員会における膨大な国際的討論において、アメリカ政府はバイテク貿易専門のスタッフを増やす必要がある。政府関係者はまた、これらの討議に参加または独自の規制をしこうという国に対しては、深くかかわる必要があると指摘した。そのためには関係当局に負担を課すことになろう。最後に、バイテク関連に役割をもつアメリカの貿易と規制当局は、国内的であれ国際的であれ、効果的な協力が必要である。例えば、バイテク問題関係の国際機関にかかわるアメリカ政府機関には、USDR,USDA,FDA,国務省などさまざまある。これらの問題において、整合性のあるアメリカのポジションをはっきりさせ実行するためには広範な協力が不可欠である。
(省庁のコメントと我々の評価)
この報告書作成にあたり、合衆国商務省、衛生局および植物防疫局長官から口頭でのコメントを得た。また、農務省の海外農業サービス部門からもコメントを得た。これらの当局者は我々に必要な技術的なコメントを与えた。
(展望と方法)
(1)バイテク農産物の貿易に影響を与えそうな主要な国際機関とアメリカの貿易相手における進展を要約し、(2)バイテク輸出に対する外国の規制によって最も打撃をうけるアメリカの商品が何かを特定し、(3)海外市場へのアクセスを維持するに際してアメリカのバイテク輸出業者が直面している困難を明らかにする、という我々の目的達成のために、我々は連邦政府および外国政府の各種公式文書を研究した。
しかしながら、我々はバイテク輸出に影響を与えるすべての外国政府のルールや規制を独自にレビューはしなかった。我々は、関連する企業グループと非政府組織の意見を研究し、農業バイテク貿易にかかわる発言をした学術団体の意見も聞いた。我々は、関連する政府機関担当者にインタビューした。それには、USTR,USDA,FDA,EPA,国務省、商務省も含まれる。また、ブルッセルとジュネーブのUSTR,USDA、国務省担当者にも意見を聴取した。我々はまた、生産者、加工業者、輸出業者、食品製造業者、バイテク企業などの各界代表の意見も聞いた。更に我々はバイオテクノロジー関連の3つの会議に参加し、コーデックス委員会のアメリカ代表になった当局者にも話を聞いた。
我々の問題の焦点は、アメリカの農業バイテク輸出が直面している問題は何か、ということである。
バイテク由来の医薬品は除外した。更に、バイテク製品に関するアメリカと外国の規制基準が適切かどうかには言及しなかった。我々は、この仕事を一般的な会計検査基準に従い、2000年10月から2001年5月に行った。
(以下省略:この報告書の配布先など)
署名
Loren Yagier,
国際関係及び貿易局主任
(以下、統計やデータなど省略)