ニューヨーク・タイムス

2003年1月14日

アンドリュー・ポラック

訳 河田昌東

 

広範囲に使われている除草剤が雑草に効かなくなっている

 

世界で最も広く栽培されている遺伝子組換え作物、除草剤耐性の大豆と綿、コーンが長期間にわたる除草剤使用によって新たな問題に直面している。ラウンドアップとして知られている除草剤が雑草に対する効力を失いつつあるのだ。過去数年間に、ラウンドアップ耐性の雑草がデラウエア、メリーランド、カリフォルニア、西テネシーやオハイオ、インジアナのコーン・ベルト地帯の周辺で発生しているのである。

 問題は、作物学者の言うには、遺伝子組換え作物、特に合衆国で栽培されている全大豆の4分の3にもなった組換え大豆の成功自体にある。農家はラウンドアップ・レデイーというブランドの遺伝子組換え作物を好むが、その理由は除草剤ラウンドアップを畑の作物の上に直接散布し、作物を残して雑草だけを殺すことが出来るからである。しかし、組換え作物の人気が上がるにつれてラウンドアップの使用量が急上昇し、除草剤があるときに繁茂する珍しい雑草が生き残ってしまう「適者生存」の条件を作り出す結果になった。

その結果、専門家によれば、農家は遺伝子組換え大豆やその他の作物を長期間利用しようとすれば、除草剤の散布を減らさなければならないだろう、という。

 耐性雑草はラウンドアップとその耐性作物を開発したモンサント社にも問題をもたらす。ラウンドアップはBear, Stearns(訳注:アメリカの開発投資銀行) によれば02年度の推定売上46億ドルの約40%を占めるモンサントの主力商品である。ラウンドアップ・レデイー作物は、モンサントの農業バイテク事業の要であり、昨年度約4億7千万ドルの利益があった、とBear, Stearns は言っている。

 ラウンドアップ除草剤を化学物質名で呼び、デラウエア大学の作物学者マーク・J・ヴァン・ゲッセル は次のように言った。「ラウンドアップ耐性作物の出現で、我々はグリフォサートだけを使うようになってしまった。長期的に考えれば、やらなければならない事はラウンドアップの継続使用を避けることだ」 現在見つかっている 耐性雑草は数種類に過ぎないので、農家は他の除草剤を使えばその雑草を容易に殺すことは出来る、と作物学者は言う。しかし、何人かの科学者は耐性が広がってラウンドアップ除草剤が役に立たなくなってしまうことを懸念している。それは農家にとっても大問題だ。なぜならグリフォサートはこれまで世界で最もポピュラーな除草剤だからだ。それは環境的にも比較的害が少なく、ホームガーデンの利用でも安全だと考えられていて、農家が土壌の侵食をもたらす土起しをせずに除草できるからである。

 雑草問題の専門家によれば、この代替品を見つけるのは難しいだろうという。なぜならラウンドアップの成功自体が他の除草剤を追放し、農薬会社が新たな除草剤開発を減らしてきたからである。「我々を救ってくれる新たな除草剤はそうない」とイリノイ大学の雑草専門家のクリスチー・スプラグは言う。

 モンサントの首脳は、耐性はたいした問題じゃない、という。「実際のところ、まず、第一にグリフォサートに対する耐性は少ないし、第二に世界のどこで起こってもちゃんと対策は可能だ」というのはアメリカ市場担当の副社長ケリー・プレーテである。同社によればラウンドアップ耐性作物とグリフォサートの使用はまだまだ増えるだろうと期待している。

  しかし、来月開かれる年次大会でアメリカ雑草科学学会は、もしこのままラウンドアップが多用され続ければ使用制限を勧告することになるだろう、と同学会の除草剤耐性植物委員会委員長のイアン・ヒープは言った。モンサントの競争企業にとってはモンサントの代替品開発のチャンスがきている。シンジェンタはラウンドアップ耐性大豆をまだ作りたいなら、ラウンドアップ耐性コーンの栽培とラウンドアップの使用は減らしたほうが良い、と農家に対して広く呼びかけている。「一つのことがうまくいっても、別のことが上手くいくとはかぎらない」と同社のある広告にはホットドッグとフレンチフライ、それにアップルパイにケチャップをかけた絵を載せて宣伝している。モンサント社によれば、大豆以外には綿の65%、トウモロコシの10%がアメリカ国内でラウンドアップ耐性遺伝子を持っている。ラウンドアップ耐性キャノーラ菜種もカナダでは広く栽培されている。モンサントはラウンドアップ耐性小麦、アルファルファ、ゴルフコース用芝も開発中である。

 モンサント社のラウンドアップも商品登録されていないものもあわせて、グリフォサートの使用量は1996年に最初のラウンドアップ・レデイー作物が導入されて以来2.5倍に増加した。アメリカ中西部ではこの除草剤の使用はもっと多い。除草剤耐性問題はモンサントにとっては厳しい時代に直面することになる。

同社は2002年度の最初の9ヶ月間での売上が42.5億ドルから34.5億ドルまで18%以上下落し、17.5億ドル失った。社長のヘンドリック・A・ベルヘイリーは先月辞任に追い込まれた。株価低迷でモンサントは買収のターゲットと考えられている。アイダホ州サンドポイントの農業バイテク・コンサルタントのチャールス・A・ベンブルックは、モンサントが買収できるか、あるいは細分化して売却されるかどうかを調査している二つの投資銀行から意見を聞かれた、と話している。「問題はラウンドアップと除草剤耐性品種に価値があるかどうかだ」とモンサントに批判的なベンブルックは言う。そして、ラウンドアップが何時まで雑草に効果的に効くかどうかによる、と彼は付け加えた。

 遺伝子組換え作物に批判的な人々は長いことそうした作物は近縁雑草と交配し、除草剤に抵抗力を持つ「超雑草」や抵抗力のある害虫を生み出す、と警告してきた。しかし、今懸念されているラウンドアップ耐性雑草はこうした仕組みで出現したのでなく進化によって発生したと科学者はいう。問題を最初に見つけたのはデラウエアの農民たちで、通称「牝馬の尻尾」とか馬雑草などとよばれている雑草である。デラウエアのシーフォードのレックス・ミーアが言うには、自分は数年間ラウンドアップ・レデイー大豆を栽培してきたし、全て上手くいっていた。ところが2000年に彼はこの除草剤で死なない牝馬の尻尾があることに気が付いた。昨年はこの雑草を殺そうとして何回もラウンドアップを散布した。「とても高くついたよ」と彼は言った。

  デラウエア大学のヴァン・ゲッセル博士は、今蔓延っている雑草は、デラウエア州・メリーランド州・東バージニア半島からニュージャージー州南部まで広がっている、といった。この雑草は昨年夏の厳しい乾燥と重なって、畑によっては全く作物の収穫が出来なかった、と彼は言った。

  ラウンドアップ耐性の「牝馬の尻尾」はテネシー州とケンタッキーなど近隣の州の綿畑や大豆畑にも見られた。これによって50万エーカーが被害を受けた、と言うのはテネシー大学植物科学のロバート・M・ヘイズ教授である。作物科学者達はまた、コーン・ベルト地帯に沢山ある雑草の一種ウオーター・ヘンプ(麻の一種)がグリフォサートで殺しにくくなっている事実にも注目している。また、ラウンドアップ耐性のライグラスが北カリフォルニアのアーモンド畑やオーストラリアの小麦畑の多くでも見られるようになった。耐性は最終的には全ての除草剤と殺虫剤に現れようが、それでも多くの製品は広く使われつづけるだろう。

驚くべきことは、ラウンドアップが過去30年にわたって使われてきたにもかかわらず、耐性は最近になって発生してきた、という事実だ。 「これは驚くべき除草剤だった。 永年世界中で使われてきたが、そうした耐性雑草はこれまで見たことが無かった」というのは 雑草科学学会のヒープ博士で、彼はオレゴン州コルバリスで世界中の除草剤耐性雑草の調査を続けてきた人である。

 これまで耐性はほとんど無かったという事実は再確認されている、と科学者達はいう。なぜなら耐性はある雑草から他のタイプの雑草に速やかに広がることはないからである。今でもラウンドアップは頻繁に使われていて以前とは違ったやり方でも使われるようになっている。除草剤にたいする耐性が出来ないようにするには色々な除草剤を変えて使う必要がある、と科学者たちはいう。しかし、農家は今グリフォサートしか使わない。輪作をすれば通常耐性を避けることが出来る。なぜなら様様な除草剤が作物ごとに使われるからである。 ところが、今では農家によってはラウンドアップ耐性大豆とラウンドアップ耐性綿やコーンを輪作する。その結果年中同じ除草剤を使うことになる。ラウンドアップ耐性作物に関して言えば、除草剤は播種前と発育中にも使われる。

 他のタイプの遺伝子組換え作物、例えばBTとして知られている害虫耐性の遺伝子を持つものを農家が植える際には、政府はBT遺伝子が作る毒素に昆虫が耐性を持つのを遅らせるために、畑の一部に非BT作物を植えるように指導する。しかし、ラウンドアップ耐性作物に関しては、政府は何も規制していない。

モンサント社は雑草は害虫のように動き回ることがないから、ラウンドアップ耐性作物をやめても耐性問題は解決しない、といった。同社は耐性雑草が生えないようにラウンドアップを適切に散布するように農家にアドバイスしてきた、という。 ラウンドアップ耐性の「牝馬の尻尾」についてモンサントは農家に対してラウンドアップに加えて他の除草剤も使うようにアドバイスしている。

 耐性問題がもっと深刻になるまで農家がラウンドアップ除草剤とラウンドアップ耐性作物の利用を減らすことは難しいだろう、と作物専門家は言った。「耐性の可能性についてモンサントの科学者達は分かっているんだ」というのはカリフォルニア大学デービス校の雑草専門家ジョセフ・ヂ・トマソである。「真の問題は農家だ。ラウンドアップで除草するのは彼らにとってとても安易なやり方だから」と彼は言う。

     

 

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