2003年7月28日
岩手県知事 増田 寛也 殿
生活クラブ生活協同組合
理事長 熊谷 由紀子
公開質問状
私たち生活クラブ生活協同組合は、食の安全と安心を可能な限り追求し、自分達が現時点で納得できる「材」で生活をしたいと活動を進めてきました。10の都道県で約25万人もの組合員が、産直を基本に共同購入を続けています。食品添加物の排除から、環境ホルモンの排除、そして遺伝子組み換え食品は、その原材料のみならず微量原料や家畜の飼料まで使用しない事を貫いています。それは、いまだ遺伝子組み換え食品の安全性が検証されていない事実もさることながら、種子をも支配してしまう企業に、生命の源である「食と農業」をも支配されることに対するNOの態度です。ましてや遺伝子汚染として環境を破壊するかもしれない恐怖を、いまや実感するに至っています。
そんな中、北上市にある(財)岩手県生物工学研究センターが開発した、遺伝子組み換えイネSUB29系統の屋外実験を知りました。これに重大な関心を寄せておりますので、ここに質問をいたします。
1.遺伝子組み換え食品に対する認識についてお伺いいたします。
平成14年度「銀河系いわてモニターアンケート」の「食の安全及び安心の確保に関するアンケート」によりますと、「食品の安全性で特に不安を感じている事柄について」調査を行っています。その結果として有効回答数96の中で、不安に思っていることとして「化学物質(食品添加物、農薬、抗生物質など)使用の安全性」について57.3%「食品中の化学物質(農薬や抗生物質など)の残留」45.8%「輸入食品の安全性」42.7%「遺伝子組み換え食品の安全性}19.8%となっています。
このアンケートに見られます、遺伝子組み換え食品に対する消費者の不安についてどの様にお考えですか。
2.遺伝子組み換え作物が、今後、岩手県内で栽培されることに対する認識についてお伺いします。
遺伝子組み換え作物の栽培を行った場合の自然環境への影響については、現在までのところ追跡研究が十分におこなわれているとは言えない状況におかれています。その顕著な例が、2000年に検出された「食品として未承認の遺伝子組み換えトウモロコシ・スターリンク混入」事件でした。これは、花粉を媒体とした遺伝子の汚染をもたらした結果の出来事でした。
『このように交雑がおきて世代が進むと、外見だけでは判断できない形で遺伝子組み換えの遺伝子が広がってゆく。この様な事態を単なる混入とは区別して、遺伝子汚染と呼んでいる。有機の認証を取るためには、遺伝子組み換え作物の栽培をすることは認められていない。そのため、種子汚染が起きた場合、有機農家への不安は大変に大きいものになる。・・・在来品種の喪失が加速的に進むことが大変に心配されている。』遺伝子組み換えイネの襲来/緑風出版/第4章/生物特許と第三世界/杉田史郎より抜粋
2002年8月、1400万人が飢餓に瀕するアフリカにおいて、アメリカからの緊急援助として供給された遺伝子組み換えトウモロコシを拒否するという事態が起こりました。自国民に健康被害が起こる可能性と、種子として作付けされた場合に自国の種を汚染する可能性への懸念からこの様な動きとなったものと言われています。国連食糧農業機関と世界保健機関が間に入り交渉を重ねた結果、モザンビークとジンバブエでは受け入れたものの、ザンビアだけは拒否の姿勢を最後まで崩しませんでした。
同じく2002年12月、山形県藤島町の定例議会において、遺伝子組み換え作物の栽培規制と有機農業生産の奨励を盛り込んだ「人と環境にやさしいまちづくり条例」が全会一致で採択されました。この議論の中で阿部昇司町長は次の通り答弁しています。「遺伝子組み換え種子については、法的には規制されておらない状況です。それを栽培することによって産地に与える風評被害、これは非常に計り知れない大きなものがあるというふうに考えております。町といたしましても、栽培に関する規制なども設けながら、町民、あるいは消費者の不安解消に務めていきたいと考えております。」
岩手県においてはこれまで、安全な農産物として「純情野菜」のイメージのもと「食糧供給基地宣言」により首都圏への供給をはかってきました。また同時に、環境行政を先進的に実施する「環境首都」宣言も行われ、岩手を自然豊かで安心安全な県土として未来へ守り育てていくことに官民力を合わせて取り組んでいる現状です。
このようななかで、今後、岩手の大地において遺伝子組み換え作物の栽培申請が行われた場合には、県知事としてどの様に取り扱う所存でしょうか。方針をお聞かせ下さい。
3.岩手生物工学研究センターで研究開発中の遺伝子組み換えイネ(SUB29系統)について
2003年5月、岩手県が100%出資する岩手生物工学研究センターにおいて、遺伝子組み換えイネ (SUB29系統)の屋外栽培実験が発表され、消費者や生産者の不安を巻き起こしています。
冷害常習地帯である岩手において「冷害に強いイネ」を栽培することが、一つの課題となっていることには一定の理解を示すことは可能です。しかし、1993年の大冷害においてさえ、有機栽培を実践してきた農家においてはその被害程度を概して少ないものに留めることが出来たと伝えられています。農業を生業として向き合うことが困難な現在の農業環境(減反や後継者不足、農業経営の難しさなど)が冷害の被害を一層深刻にさせたとも言われています。この様ななかで、自然法則にはなじまない遺伝子組み換え技術で栽培されたイネに対して、はたして生産者や消費者の歓迎が得られるものでしょうか。
2002年12月愛知県議会では、愛知県とモンサント社が6年間にわたって協同研究を行ってきた遺伝子組み換えイネ「祭り晴」の開発中止が明らかになりました。これは全国からの「遺伝子組み換えイネ反対署名58万筆」に対して出された結論と言えます。愛知県農林水産部長は議会の質疑に対して「作付けした遺伝子組み換えイネについては消費者等の不安もあり、商品化に必要な厚生労働省への安全性審査の申請は行わない」と答弁しています。
2003年6月14日、北上市の生物工学研究センターにおいて行われた、「いわて遺伝子組み換えイネ監視ネットワーク」の質問状に対する説明会では、遺伝子組み換えイネ(SUB29系統)に対する岩手県拠出の研究費は、平成15年度で14、602千円となっていることが明らかにされました。
岩手生物工学研究センターにおける遺伝子組み換えイネの研究開発の意義について、岩手県としてはどの様にお考えですか。知事としての見解をお聞かせ下さい。
以上の3点をお聞かせ願います。なお、回答は文書を持ってお願いいたします。
この質問に対する回答は、私たち生活クラブ生活協同組合の組合員のみならず、一般にも公開をいたします。
【この件での問合せ先】
生活クラブ生活協同組合
専務理事 大木敏正
〒023−0889 水沢市高屋敷162−2
п@0197−24−3320
生活クラブ生活協同組合
理事長 熊谷 由紀子 様
岩手県知事 増田 寛也
公開質問状及び屋外圃場における遺伝子組み換えイネ試験栽培の即刻中止を求める申入書への回答について
平成15年7月28日付公開質問状及び平成15年8月1日付申入書につきまして、以下のとおり回答します。
記
1. 公開質問状に対する回答
(1) 遺伝子組み換え食品に対する認識について
平成15年1月から2月にかけて実施した「平成14年度第5回銀河系いわてモニターアンケート」において、「食品の安全性で特に不安を感じている項目」を調査(2つまで選択回答)したところ、19.8%の人が「遺伝子組み換え食品の安全性」に不安を抱いている結果となりました。また、農林水産省農林水産政策研究所が本年2月から3月に実施した調査によれば、「従来の食品よりかなり安い遺伝子組み換え食品を購入するか」との問いに、約68%の人が「購入を差し控える」との回答でした。
このように、遺伝子組み換え食品に関して消費者の不安は大きく、理解を得られている状況にないと考えられることから、情報の公開を更に進め、社会全体で議論を深める必要があると考えます。
(2) 遺伝子組み換え作物が、今後、岩手県内で栽培されることに対する認識について
遺伝子組み換え作物の一般ほ場における栽培は、国のガイドラインに基づき、国に一般ほ場での栽培を申請し、認可を得る必要があります。
また、食用に供するものは、食品衛生法に基づき、食品としての安全性について国の承認を受ける必要があります。つまり、国内における遺伝子組み換え作物の栽培等についての認可は、国が所管しています。
遺伝子組み換え作物については、国内外において様々な議論がなされているので、科学的に安全とされた遺伝子組み換え作物であっても、消費者の方々から受け入れられないままに、一般ほ場で栽培されることは好ましくないものと考えているので、仮に、本県において、遺伝子組み換え作物の一般ほ場での栽培の動きがある場合は、関係者や消費者の意見も踏まえ、慎重に対処していきます。
(3) 岩手県生物工学研究所で研究開発中の遺伝子組み換えイネ(SUB29系統)について
水稲における耐冷性やいもち病等の耐病性に関する研究は、冷害常襲地帯である本県にとり、極めて重要な課題です。
このために、岩手生物工学研究センターにおいては、有用遺伝子を独自に探索し、その機能を解明すすとともに、より短期間で効率的に品種改良するための基礎的研究をおこなっているものです。
これまで、岩手生物工学研究センターでは、遺伝子組み換えイネの研究開発を通じて、耐冷性に有用と考えられるGST遺伝子(これは本来イネが持っている遺伝子です)を見出したこと、また、病気に感染したときに防御のために働き出す遺伝子の探索など、外界の刺激に対応して、植物体内でどのような遺伝子の働きが活発化しているか把握する技術、つまりSAGE法を世界で初めて植物に応用可能にしたことなど、研究成果が着実に得られています。
本県にとって、激化する産地間競争に打ち勝つために、商品性の高い独自の品種を開発していくことは極めて重要な課題です。こうして得られた基礎的研究の成果は、従来の交配育種の効率化等に役立つもので、イネ以外の作物にも応用が可能であり、本県農業の振興に大いに貢献するものと期待しています。
2. 申入書に対する回答
今回の遺伝子組み換え技術を活用したイネの研究については、隔離ほ場試験をもって、すぐに実用化するものではありません。
まず、目的とする遺伝子が屋外においても正常に機能し、その機能が屋外で栽培したときにも、利用価値があるのかどうかを試験する基礎的研究です。
水稲は、ほとんどのもみが自分の花粉で受粉するので、10〜20m離れれば、花粉飛散による交雑はないとの知見が一般に認められています。今回の場合、一般の水田まで約120m離れていますので、交雑の可能性はないものと考えています。
また、遺伝子組み換え作物については、国内外において様々な議論がなされているところから、隔離ほ場試験に至るまで、安全性の確認を目的とした国のガイドラインに基づく各段階における厳正な試験を行い、国の承認を得た上で、今回の隔離ほ場試験を実施することとしたものです。
今後においても、研究のねらいや取組み状況などを公開し、国のガイドラインに基づき、細心の注意を払って進めていきますので、隔離ほ場試験継続に御理解をお願いします。
なお、すべての食品は、消費者の十分な理解を得ずして商品化することはあり得ないものと認識しており、仮に実用化するのしても、消費者に受け入れられることが前提と考えています。
担当 岩手県農林水産部農業普及技術課(1(1)以外) 主任技術調査主査 吉田 力 岩手県環境生活部環境生活企画室(1(1)) 主任食の安全安心推進主査 西村 豊 電話 農業普及技術課 019−629−5654 環境生活企画室 019−629−5322