全日本農民組合連合会より

岩手生物工学研究センターに出された質問に対する回答

 

■遺伝子組み換え稲屋外試験中止に関する要請書

 

 来年から実施される新たな米・減反政策によって生産者米価の下落に拍車がかかる懸念が強まる中、岩手県生物工学研究センターが遺伝子組み換え稲屋外試験を実施したことは、環境保全型稲作を推進して、水田農業の維持発展をはかろうとする生産者に大きな衝撃を与えています。

 貴センターが実施した屋外試験の目的は、耐冷・多収品種の開発にあるとされていますが、これまで、多くの研究機関で開発されてきた当該性質を有する品種の実用化・普及が何故されなかったのか、その原因、理由を顧みることなく行われる試験研究は無意味と思われます。

 また、大手食品メーカーであるキッコウマン醤油が、加工原料に遺伝子組み換え大豆を使用しないことを明らかにしていますように、遺伝子組み換え農産物・食品に対する消費者の反発・拒否感は国内外を通じて無視しえない段階まで広まっています。

 とくに、貴センターが栽培している遺伝子組み換え稲には、ネオマイシン耐性遺伝子やハイグロマイシン耐性遺伝子が組み込まれており、耐性菌によって人類の存亡が取り沙汰されている今日、食用に供するには極めて不適格なものと考えられます。

さらに、屋外試験から実用化のあらゆる段階で、一般圃場稲と交雑する可能性があり、組み換え遺伝子汚染などの風評被害によって、近隣農家はもとより岩手県全域の米や農産物が売れなくなる恐れが強いことは、BSEによる風評被害で野菜まで売れなくなった一昨年の北海道の経験に照らしても明らかです。

 

  こうした懸念を払拭するため、遺伝子組み換え稲屋外試験を即時中止するための所用の措置を取るなど、すみやかに左記事項の実現をはかるよう要請します。

   

 

一、一般農家圃場の稲との交雑の懸念を払拭するため、開花出穂期前に屋外試験稲を鋤込むなど速やかに屋外試験を中止すること。

 

二、遺伝子組み換え稲屋外試験に至った経緯、試験目的、及び生産者や消費者、地域経済への影響など、遺伝子組み換えによる新品種稲開発に関する貴センターの基本的考え方を明らかにすること。

 

 二〇〇三年七月九日

 

全日本農民組合連合会 会 長 谷本 たかし

岩手県農民団体連合会 会 長  小野寺 藤雄

岩手県生物工学研究センター 所 長 日向 康吉様

 

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平成15年7月31日

 

全日本農民組合連合会 会長 谷本たかし 様

岩手県農民団体連合会 会長 小野寺藤雄 様

財団法人岩手生物工学研究センター 所長 日向 康吉

 

遺伝子組み換え稲屋外試験中止に関する要請書に対する回答

2003年7月9日付け、7月17日受領)

 

Tまず第二の項目について回答します。

 

1 Sub29系統を開発した経緯

 岩手県の稲作はしばしば冷害に苦しめられ、それに対する対策が求められておりました。そして、財団法人岩手生物工学研究センターに対する県からの委託問題においても、耐冷性について研究することが求められていました。

この問題に沿って、われわれが独自に各種ストレス耐性の遺伝子を深索している中で、GST遺伝子を発見しました。そして、この遺伝子が活性酸素を消去する能力があり、低温ストレスを軽減するのに有効な遺伝子ではないかと判断されました。そのため、このGST遺伝子をとりだし、そのプロモーター部分を改変してこの遺伝子をふたたびイネに導入して、その働きを強めた系統、Sub29系統を作ったものです。

 

 わが国では、遺伝子組み換え食物を作った際には、その安全性を評価しながら、特性を評価することが、いわゆる「指針」によって、義務づけられております。この「指針」にしたがって、われわれは、閉鎖系温室、非閉鎖系温室と各段階ごとに安全性を評価し、この、特性を評価してきました。

そして非閉鎖性温室における試験でも、花粉の飛散程度などは普通イネと同様であり、安全性が確認されたので、次の段階に進むこととしました。すなわち、屋外でもその特性を発揮するかどうかを確認するために、模擬的環境利用の試験を本年から始めたものです。

 

2 試験目的

 この模擬的環境利用と言うには、国(担当は農林水産省)から施設等の整備状況に関して確認された屋外の隔離ほ場においてSub29系統の遺伝子的特性と環境安全性を調査するために行う、基礎研究の一つでもあります。これを持って直ぐに実用化するというものではありません。

まずこの遺伝子が屋外においても正常に機能し、その機能が屋外で栽培したときにも、利用価値があるのかどうかを試験するものであります。

 

 実用化に向けたその後の展開には多数の選択肢があります。例えば、この機能をさらに変更するか、この遺伝子以外のいもち病耐性などをどうするのか、などが検討されます。そのためには、まずこの試験において、GSP遺伝子の特性を的確に確認する必要があります。したがって、仮に実用化するとしても、それまではまだ何段階かのハードルがあるのだ、ということをご理解頂きたいと思います。

 

 この種の模擬的環境利用の試験は、これまででも日本各地でいおいろな材料にたくさん行われておりますが、風評被害などは起きていません。

なお、この種の試験は、基礎研究の中でも重要な試験であり、この種の試験までも中止するということは、バイテク関連の基礎研究一般を中止することとほとんど同義になります。

 

3 試験の状況

 本試験にあたっては、岩手県と協議し、地元の人々や一般市民に公表・説明した上で実施したものであります。

試験材料は4月25日に藩種し、5月15日に田植えを行いました。ご覧になったように、隔離ほ場は東研究センター内にあり、人や動物が侵入しないようにフェンスで囲った面積10aの隔離された場所であり、その中に1m×5mのコンクリート槽2基があって、そこに植えたものが主体で、極めて小規模のものであります。そして、ここで試験することについては、試験実施計画を作成して、農林水産省からの安全確認を得ております。

 

4 生産者や消費者、地域経済への影響など

 先のも説明しましたように、この模擬的環境利用の試験は、すぐに実用化するというものではないので、生産者や消費者、地域経済に今すぐに直接的な影響を与えるものではありません。 

基礎研究の一つとして、耐冷性に関する知識を蓄積し、知識を深めることによって、これからの耐冷性研究のための踏み台にするものであります。

このような基礎研究が積み重なった将来には、冷害常襲地帯である岩手県の生産者、消費者地域経済などに大いに貢献できるものと考えております。

 

5 遺伝子組み換えによる新品種イネ開発に関するわれわれの基本的考え方

世界では現在すでに、日本の国土より広い面積で組み換え作物が栽培されております。 

遺伝子組み換え食物には多種多様なものが考えられ、その中から、リスクが低くかつ利用価値の高いものを選んで利用しようとしているのが、現代世界における潮流と理解しております。 

 このような状況下では、まず遺伝子を幅広く深索しながら、リスクが低くかつ利用性の高い遺伝子の正確な情報を広く集積することと、そして、そのリスクを評価する的確な視点と評価技術をわれわれ自身の手に所有すること、さらには想定されるリスクを最低にしてそれを利用する技術をわれわれも独自に開発することなどが必要であると考えます。 

われわれは、これらの諸問題について、地方でもまた日本全体でもおおいに研究・議論して、世界に向けて情報発信することが、われわれのリスクを減らすのに最も大事なことと考えております。

また、商品開発においては、遺伝子組み換え植物に限らず、すべての商品において、それを利用する人々あるいはその周辺の人々の十分な賛意を得て行うべきであると考えており、リスクコミュニケーションが大事であると思っております。 

 

U第一の項目に対する回答

 イネは、われわれ日本人が、東南アジアの一員として、とくに慣れ親しんでいる作物であります。それだからこそ、イネについては特に、われわれ独自の基礎研究を蓄積したいと考えておりますし、日本人誰もがそう思っていると信じています。

イネは自殖性作物と言われ、1〜3m離せば普通には交雑する可能性が極めて低く、また10〜20m離せば交雑する可能性はほとんど零というデータが一般に認められております。一方、この隔離ほ場は一般家庭のほ場とは120mも離れており、またその間には建物もあり、この花粉が一般農家のイネと交雑するリスクは全くないと判断できます。

 

 イネはわれわれの身の回りにたくさん栽培されているので、その実用化にあたっては、環境リスクと食用としてのリスクに十分に配慮せよということはたいへん良く理解できます。われわれも安全性プロジェクトを作って、鋭意この問題に取り組んでいるところであります。

 

 以上のことから、基礎研究の重要性について十分にご理解いただき、本模擬的環境利用試験についてもご理解いただきたいと存じます。

 

 

 

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