急がれる抗生物質耐性対策

メイ・ワン・ホー

The Institute of Science in Society
PO Box 32097, London NW1 OXR
 http://www.i-sis.org/

 

抄訳 山田勝己

 

抗生物質耐性は根本対策が必要

世界中で抗生物質耐性感染症による公衆衛生の危機が起きています。これまでの還元主義的対応では上手く行きません。 サム・バーチャーとメイ・ワン・ホーが伝統的健康管理システムと、何百年も使われ、記録された在来植物の中で抗菌性があり安全で効果が確認されてきた多くのものを復活させるべきだと主張している。

 

感染症は、世界の死因の第2位で全体の1/4を占め、循環器病に続いて多い(1)。 過去25年以内に出現した新種のバクテリアやウイルスと関係しており、薬や抗生物質に強い抵抗性を持っている。 感染期間、症状の悪化、快復までの長期化、費用の増大と共に、感染の処置が難しくなってきており、重傷例も多くなっている。

 

薬や抗生物質に抵抗力のある感染症は、世界中で公衆衛生の危機を招来しており、これが1988年に開かれた世界保健総会(World Health Assembly )や「細菌の脅威(The Microbial Threat)」ヨーロッパ会議など高官レベルの国際会議の議題となった。

 

イギリスでは、上院科学技術特別委員会と特別医療諮問委員会(SMAC)がそれぞれ抗菌薬抵抗性について特別報告書を提出している(2)。 この結果、抗菌薬抵抗性対策と行動計画が2000年6月に作られ(3)、その後の2年間の活動と新たに発足した抗菌薬抵抗性専門家諮問委員会が助言することになった。

 

この対策には以下のものがある、

 

  1.. 調査−耐性株とそれによる病気と抗菌薬の使用状況の調査と監視データの作成。

 

  2.. 慎重な抗菌薬の使用ー医療行為、獣医療、家畜飼育、農業、園芸で不必要/不適切な抗菌剤の使用で細菌を抗菌薬に曝す機会を減らして抵抗力の獲得を遅くする。

  

  3.. 感染防止−一般的感染の広がりを食い止め、抗菌薬の使用を減らし、抗菌薬抵抗細菌の拡散を防ぐ。  

  4.. 病院や地域での感染防止−EUとWHOの協力を推進する。 

 

  5.. 抵抗性の基本的仕組みを研究する−抵抗性がどのように拡がるのか、どうやって新たな薬剤・技術で防ぎ、治療し克服するかを見いだす。.

 

これらの対策は当を得ているようだが、既にこれでは抗生物質耐性に対抗できない兆候がでている。 例えば、抗生物質の多用、乱用が、病気を起こすバクテリアに高い抵抗力を獲得させるのに一役買ってはいたが、抗生物質を全面的に止めたり使用を減らしたからといって必ずしも状況が好転していないという確たる証拠が増えてきている(4)。 基本的に、遺伝子機能は複雑なので、一つの遺伝子が一つの機能を受け持つという単純な想定の下に予測しようとしても無理がある。 多くの異なる遺伝子が一つの抗生物質に対する耐性獲得に関与しているものもあれば、抗生物質耐性遺伝子のあるものは単独で色々な抗生物質に抵抗力を持つものもある。 今では、抗生物質耐性遺伝子の拡散は、異なる菌株のバクテリア間の水平伝達によることを示す動かし難い証拠があり、これを制御することは殆ど不可能だ。

 

また、バクテリアを退治するためにもっと強い毒性の薬品を作出するのは、もはや財政的にも医療的にも可能な選択肢ではない事が広く認識される所になってきている。

新薬への耐性獲得が加速度的に早くなってきており、発売後1年以内という事も珍しくない。 抗生物質を開発する企業にとっては、見返りがわずかか全くない。 その上、バクテリアに毒な薬は人間にとっても毒な場合が多く、治療効果よりも副作用の方が強い場合もある。

 

研究者の中にはバクテリアが抵抗力を付けるにつれて、新たなより強力な抗生剤で病原菌を殺すこれまでの方式を考え直している者もいる(5)。 そして、殺すよりも、生理学的にバクテリアを「飼い慣らす」方向で薬を設計している。 微生物の柔軟な適応性を示す文献の多さを認める重要なアプローチである。 バクテリアは環境によってすさまじく変化する。 外見が違ってくるだけでなく振る舞いも違う。 特にバクテリアは、適当な環境条件下では、増殖を止め毒性を無くして生き続ける。 この論理的延長上で薬を設計すれば、バクテリアが決して伝染性を持たないように生理学的に飼いならすには、生態的均衡をどう回復するかが分かればよい(6)。自然に闘いを挑むのを止める時が来たのだ。

 

イギリスでは未だ検討されていない別の方法としては、伝統的、代替医療をより広範に国立衛生サービスに組み込むことである。特により効果的でリスクが少なく費用の少ない抗生剤を探すのであればなおさらだ。 他の国では、総合医療を国の医療に取り込む真剣な努力をしているところもある。 特に中国では注目に値する成功を収めていて、伝統医学と西洋医学が共に実践され教育されている。(7)

 

中国では1950年代から伝統医学を国の健康管理に取り入れている。 近代医療の訓練を受けた医療関係者は、伝統医学と実証研究を中心にした西洋の科学的近代医学との両立を模索してきた。 このアプローチは伝統医学を犠牲にしたとか改善の余地があると感じているものもいるが、全体としてはよい結果になっている。 伝統医学を行っている病院では年間延べ20億人の外来と300万人の入院患者を扱っている。 95%以上の一般医院で伝統医療部門を持ち、一日に20%の外来患者を受け持っている。 総計では一日4000万人にもなる。(8)

伝統医療と西洋医療が並行して別々に行われている韓国やインドのような国では、互いの軋轢と敵対があり質の管理が出来ていない。 両国とも伝統・近代医療のどちらが上というのではなく、適切な統合が必要だと感じるようになってきている。

 

インド医療機関の中央協議会は、治療法の評価を行う研究所を監督している。 インド政府は、一部世銀の資金を受けて家族福祉計画に10の伝統医薬を加えた。 これには、貧血、栄養不良、児童の下痢等が治療の対象となっている。 2000年7月には新たな規則が導入され、製造基準、品質管理、原料の真正度、不純物がないことを確立して薬草医療の改善を目指している。 政府は新たに薬品検査所を10カ所設け、既存の試験所を近代化して薬草医療の安全性と品質に関して許可機関が厳密性を持つようにした。 ランダムに処方を選んで治験を行うことも始められた。 こうすることで処方の安全性と効果が記録され、単なる補助食品としてではなく国際的に薬として認可する根拠を持つことになる。(10)

 

これまでずっと何百、何千もの西洋科学研究のテーマだった感染に対する抵抗力を向上する抗菌薬や医薬品が、伝統医療では、実証済みのものが多くあり(11,12)、その中には、朝鮮人参、レンゲ属植物、オオアザミ、甘草、エキナシア、ニンニクがある。

 

伝統医療に使われている抗菌植物の記録が作り続けられている。 インドの酪農の研究者は、感染症に用いられる植物の苗が新鮮な牛糞や分解中の牛糞で優性であることに気付いた。 植物は通常何よりもバクテリアが沢山住んでいるので牛糞には育たない。 研究者は、牛糞に育つ植物はバクテリアの攻撃から自分を守る抗菌性を持っていると推測した。 そして、種子を直接8株のバクテリアと3つの細菌株で確かめた。 こうして糞に育つ植物の種は抗菌活性が極めて高いことが分かった。(13)

 

別の調査ではインドで伝統的に使われてきた82種類の植物を試験して、56種類が一つ以上の病原試料に抗菌活性を示した。 中でも5種類は病原試料に対して強く広範な活性を示し、別のアルコール抽出した5種類は最も強力な抗菌活性を示し、それを羊の赤血球に対する毒性試験をしたところ、無害であった。(14)

 

マーディヤ・プラディッシュのバスター地区の部族が使っている27種類の重要な薬草を調査したところ、糖尿病、衰弱、偏頭痛、皮膚感染などに使われているのが分かった(15)。

 

西洋では補完又は代替医療(CAM)と呼ばれているものは、色々な文化の伝統的保健慣習から導かれている。 アメリカでは42%の人がCAMを使っている。 保健でCAMが大事な役割を果たしていることを認めて、議会は国立保健研究所(NIH)の中に2000万ドル(現在は6800万ドルに増額)の予算で国立CAMセンター(NCCAM)を新設した。NCCAMの目的は基礎と応用研究、研究訓練、保健情報の普及。 CAMの発掘、調査、有効化をするための事業が設置され、診断と予防法、学部と制度を5カ年計画で確立する。 ピッツバーグ大学の医学部は、1999年に老人性痴呆を防ぐ銀杏の葉の効能を調べる6年計画のために1500万ドルが与えられた。 この調査では3000のグループを擬似薬を使う対照グループと比較することになっている。(16)

 

抗生物質耐性に関するイギリスの上院報告書を受けて、統合医療基金の議長ウォルトン卿は、「統合医療を開発するためにNHSが非常に強力な役割を担うべき正当な根拠がある。」と話した。 国立保健サービスが補完医療を増やすことでコストが下がり、患者中心の方向が出ると考える人が最近は増えている。

17)またより安全で効果的治療につながる。 現行薬品による医原病(18)は、病気の還元主義モデルを共有しているアメリカや他の工業国の死因の第3位を占めている。

 

我々は、単に抗生物質耐性感染症を解決するためではなく、根本的保健を行うために、総合的パラダイムの変更が必要である。(19) 

 

  1.. World Health Statistics, 1999.

  2.. Department of Health The Path of Least Resistance 1999, Seewww.doh.gov.uk/smac1.htm

3.. Department of Health UK Antimicrobial Resistance Stratagy and Action Plan June 2000Published by the NHS Executive. See www.doh.gov.uk/arbstrat.htm

  4.. "Phasing out antibiotics will not reduce antibiotic resistance ? the irrelevance of natural selection" by Mae-Wan Ho, ISIS News 6, September 2000, ISSN: 1474-1547 (print)

ISSN: 1474-1814 (online)

5.. Heinemann, J.A., Ankerbaner, R.G. and Amabile-Cuevas, C.F. (2000). Do antibiotics maintain antibiotic resistance? Drug Discovery Today 5, 195-204.

  6.. See Ho, M.W. (1998,1999). Genetic Engineering Dream or Nightmare? Turning the Tide on the Brave New World of Bad Science and Big Business, Gateway, Gill & Macmillan, Dublin, Continuum Books, New York, final chapter.

  7.. Gerard Bodeker, Lessons on integration from the developing worlds experience. BMJ 2001; 322:164-167 Jan.

  8.. The State Administration of Traditional Chinese medicine of the People’s Republic of China.Anthology of policies, laws and regulations of the people’s republic of China on traditional Chinese medicine. Shangdong Univ.1997.

  9.. Bagchi GD. Singh AA. Khanuja SP. Bansal RP. Singh SC. Kumar S. Wide spectrum antibacterial and antifungal activities in the seeds of some coprophilous plants of north Indianplains. Journal of Ethnopharmacology 1999 Jan; 64 (1): 69-77.

  10.. Ahmad I. Mehmood Z. Mohammad F. Screening of some Indian medicinal plants for their antimicrobial properties. Journal of Ethnopharmacology 1998 Sep; 62 (2): 183-93.

  11.. Sharma DC. Chandra U. Prophylactic uses of some medicinal plants in Bastar District of Madhya Pradesh. Ancient Science of Life 1998 Apr:17 (4):284-9.

  12.. Cho HJ. Traditional medicine, professional monopoly and structural interests: A Korean case. Soc Sci Med 2000:50: 123-135 (medline)

  13.. Department of Indian Systems of Medicines and Homeopathy.

 Annual Report 1999-2000.

Department of Indian Systems of Medicines and Homeopathy2000, Http://mohfw.nic.in/ismh.

  14.. Steven Taormina, December 1999, Top Ten Best Researched Herbs. See www.all-natural.com/top-ten.html

  15.. Royyn Landis and Karta Purkh (1997) Singh Khalsa, Herbal Defence against illness and aging ? A practical guide to healing, ISBN 07225 36550

  16.. Linsa W Engel and Stephen E Straus (2001). Rigorous Research, Sound Policy-Key to integration of CAM and Conventional Medicine. Global Health & Environment Monitor, Vol 9, Issue1, p 8

  17.. Lords back integrated medicine, Positive News, Spring 2001, No 27

  18.. Starfield, B. (2000). Is US health really the best in the world? Journal American Medical Association 284, 483-5.

  19.. See "The human genome ? A big white elephant" by Mae-Wan Ho, ISIS Report June 9, 2001

 

 

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