ISIS 号外 2002年8月7日

水平遺伝子伝達のセンスとナンセンス

訳 山田勝巳

現在あるパラダイムがひっくり返りそうになると科学者は一体どうするだろうか。 発見を正確に記述しても、正しく判断ができず、その意味する現実的な内容を話し合うことを避け、自分に不利な証拠を退けてしまう。 Dr.メイ・ワン・ホーは、このような研究者や社会に対し真実を受け止めるよう求める。

水平遺伝子伝達−種の壁を越えた遺伝子の伝達−は、近代遺伝学や進化論に逆行する。 別々の生命体は共通の先祖が変化したものという一般進化論と、偶発的突然変異による自然淘汰で進化するというネオダーウィニズムのどちらの進化論も脅かされている。

1859年は、チャールズ・ダーウィンの種の起源がビクトリア王朝に嵐を巻き起こし、同時にダーウィンの支持者によるとダーウィンの説では説明がつかない部分を補完するというジョージ・メンデルの研究が発表された年でもある。 メンデルの研究が遺伝を物質として研究を始めるために再発見されるのに1900年代初めまで40年以上経っている。 この研究の頂点はDNAの二重螺旋発見であることはご承知の通りだ。

ネオダーウィニズムにとってDNAの重要性は、遺伝情報はDNAからRNA、そして蛋白質という一方向にしか流れず、逆は起こらないという分子生物学のセントラル・ドグマを出したフランシス・クックの言葉に凝集されている。

  • 遺伝子は、一つの遺伝子=一つの蛋白質=(類推的に)一つの特性という具合に追加的に直接特性を決める。 環境影響があるとすれば、明確に遺伝と区別できる。
  • 遺伝子とゲノムは、ランダムに起こる稀な突然変異以外では安定しており、次の世代へ変わりなく受け継がれて行く。
  • 遺伝子とゲノムは環境に反応して直接変わることはない。
  • 獲得特性は遺伝しない。

最初の仮定は、近代遺伝学が始まって以来厳しい批判に曝されてきた。 リチャード・ゴールドスミスや最近ではC.H.ワディントンなどの生物学者の中には、進化に対する環境の影響が大きいと言う者も多く、遺伝子と環境は分離できないと指摘している。 しかし、遺伝子と蛋白質の複雑な関係やゲノムの流動性が分かってきたここ20年ほどでこの仮定は文字通り吹き飛んでしまった。

水平遺伝子伝達−流動ゲノムの鍵となるプロセス−は、ネオダーウィニズムを支持できなくするものでは最もはっきりしたものだろう。 この意味するところは、遺伝子もゲノムも安定ではない、つまり、形質即ち遺伝子によって暗号化されたものが特定の環境下では(新たに外部から)取り込まれ、受け継がれるということだ。 最近発行された(水平遺伝子伝達、シバネン・M、カド・CI・エド、第2版、アカデミック・プレス、2002,ロンドン)では、すべての生物の境界を越えて水平遺伝子伝達の例がたくさん出てくるのに、このことの歴史的重要性が触れられてもいない。

この本では一番短い章で、水平遺伝子伝達から遺伝子組み換え生物の解放に至るまでの関係を説明すると約束している。 二人いる編集者の一人シバネンはGM作物が最初に承認されたとき、抗生物質耐性が拡散する恐れがあるとの懸念に対し、如何にFDA(アメリカ食品医薬品局)がそんなことは起こらないと否定したかを回想している。 彼自身は、しかし、丁度その時水平遺伝子伝達が生物界の間で起こるのは自然であることを彼の同僚達に必死で説明していた。

「もしこれらの仮定が正しいとすれば、遺伝子伝達は起こらないと議論するよりも、自然現象であるといって組み換え作物業界を擁護した方が(斜体は筆者)納得がいく。」 続けて、「この本に良く収録されているように、ゲノム配列研究全体から種を越えた遺伝子伝達がたくさんあることが推察できる。 しかし、圃場で遺伝子伝達が起こりうるほどには伝達頻度は高いと言うことにはならない。」

実は、ルッセル・ドゥーリトルが自分で書いた章には、我々の過去の進化において水平遺伝子伝達を過剰評価することに警告している重要な章がある。 人のゲノムが初めて発表されたとき、解読者は人のゲノム中の少なくとも200の遺伝子はバクテリアから伝達したものだと主張した。 ドゥーリトルは、これを全て否定した。 事実、これらのバクテリアの遺伝子は、”低級”なネマトーダ(線虫)や粘菌・変性菌のような動物にあるものであることがすぐに判明した。 ドゥーリトルは、水平遺伝子伝達は変化を伴う継承という一般進化論を変えるほど我々の進化ではさほど頻繁には起こっておらず、それぞれの種はほぼ遺伝的に独立しており、ごく稀に遺伝子を水平的に交換していると指摘している。

しかし、遺伝子工学はこれとは違う。 先ず、種の壁を克服することから、つまり、水平遺伝子伝達が起こるようにすることから始まる。 大きな懸念は抗生物質耐性マーカー遺伝子を病原性のバクテリアに移すことだ。 シバネンは、組み換え作物飼料を与えられたネズミの糞に抗生物質耐性マーカー遺伝子がないか調べたが、一つも見つからなかったと言う。 しかし、この結果は発表されていないし、同学の専門家が見てもいない。 思うに、これも彼にとっては、蜂の幼虫の腸内細菌である酵母やバクテリアに組み換え花粉の抗生物質耐性遺伝子マーカーが伝達しているのを見つけたというドイツ研究者の報告をにべもなく排除したように片づけて然るべきものなのだろう。 

シバネンは、組み換え野菜でバクテリアへの遺伝子伝達は起こっていないと主張する報告は引用しているが、本当はこの報告が実験室では高い頻度で遺伝子伝達が記録されているのに言及せず、勝手な’自然条件’を想定してほとんどゼロにまで減らしている。(これとその他の誤った引用や水平遺伝子伝達の証拠を誤って解釈したものは、他の所で扱っている。)

シバネンは、組み換え植物から精製したDNAで遺伝子伝達が見られる実験は“高頻度再組み換え”によるものだと言っており、まるで心配がないように述べている。 このような高頻度の組み換えが配列の相同性(DNA塩基配列の類似性)によるものであること、組み換えDNAが沢山の寄せ集めであるため広範な品種のバクテリアやウィルスと相同性があり得、従って、これだけでも水平遺伝子伝達に最適化されていることを説明していない。

同じ調子で、ネズミに与えられた組み換えDNAがネズミの細胞に移行しているという発見も無視している。 植物の組み換えDNAが土壌からのバクテリアのバッチ培養で見つかっている重要な圃場モニター実験も引用していない。

同じ著者と共著者が、他の本ではネオダーウィニズム理論の古典的難問−独立した系統で起こる平衡進化−を如何に水平遺伝子伝達で説明できるかを想像逞しくまくし立てているのは全くの驚きだ。 「主要な地質年代を特徴づけている変態がどんな遺伝子によるのかは全く特定できていない。」と、シバンネンは認めている。 にもかかわらず、彼は「一般進化論を変えかねないほどに、水平遺伝子伝達理論が、説得力があることを述べた一連の仮説」を提示することをためらわない。

私は、形態を生み出す一般的ダイナミックなプロセスによってしか形態を理解できないと論ずるダクライ・トンプソンやアレン・トゥリングを初めとするネオダーウィニズムを批判する一人だった。 私には、このような心ない空論は、ネオダーウィニズム生物学がいかに退廃した研究課題で知的堕落の兆候を示す証拠であるとしか見えない。

「平衡進化の唯一可能な説明は、」とこの章は続けて「遺伝的に孤立した群に掛かる淘汰の圧力の類似性である。」という。 他にもっと適切な説明があり得るということが、彼らの脳をかすめていないことは明らかだ。

この本に出てくる経験的証拠を使ってもっと合理的なシナリオを一つここでご披露しよう。 他にもたくさんあるがそれはこの本のたくさんの著者の宿題としておく。

ファーガソンとハイネマンの書いた章で「最近の生物界を越えた交接の歴史は」、GM作物を解放する事への深刻な懸念を抱かせる証拠であるが、彼ら特有の脳天気でこれを問題視していない。

クラウン・ゴール病を引き起こす土壌菌アグロバクテリウム・ツメファシエンスは、組み換え植物を作るための主要な遺伝子挿入ベクターとして開発された。 外来遺伝子は、通常T-DNA(Ti−腫瘍形成−プラスミドの一部)に挿入され、植物のゲノムに組み込まれたというのは少なくとも1980年から分かっていたが、更に分析した結果、アグロバクテリウムは植物細胞にアグロバクテリウムを注入する過程がバクテリア細胞間の接合と酷似していることが分かった。

バクテリアのプラスミドによって仲介されるこの接合には、移行されるDNAに移行元(oriT)と呼ばれる配列が必要だ。他の全機能(traと呼ぶ)は、関連のないもの(トランス作用機能と呼ぶ)からでも良い。 このようにトランス作用機能がない停止したプラスミドでも”ヘルパー”プラスミドによって移行できる。 これが複雑なベクター法の基盤で、アグロバクテリウムT-DNAによる様々な組み換え植物の製造法である。 

だが、T-DNAの左右の境界にoriTの特性をもつ配列があり、かつこれと入れ替われることが直に分かった。 更に、武装解除したT-DNA、トランス作用因子がない(ビルランス遺伝子)、が他の多くの病原菌の一部である類似の遺伝子によって補助され得る。 アグロバクテリウムの越界遺伝子伝達とバクテリアの接合方式は、共に巨大分子の移動に関わっていて、DNAだけでなく蛋白質も移動されるようだ。

つまり、T-DNAベクター方式でできた組み換え植物は、アグロバクテリウムを介した他の多くの病原性バクテリアの持つ接合メカニズムに助けられた出来合の水平遺伝子流出ルートがあることになる。

実は、この可能性は、ベクター方式で作ったアグロバクテリウムを組み換え後除去するのが極めて難しいことを示す英国政府後援の研究報告で1997年に提起されていた。 抗生物質を装備した処理と13ヶ月に及ぶ継代培養の繰り返しでも除去できなかった。 その上、残留した12.5%のアグロバクテリウムにはバイナリーベクター(T-DNAとヘルパー・プラスミド)があり、従って別の植物を組み換える完全な能力があった。

その他の観察もいくつかあり、アグロバクテリウム経由で遺伝子流出が起こる可能性がより高くなる。 アグロバクテリウムは、植物細胞に遺伝子を組み込むだけでなく、植物細胞からアグロバクテリウムへのDNAの逆組み込みの可能性がカドの章「アグロバクテリウム種による遺伝子の水平伝達」で提起されている。 高い頻度の遺伝子伝達が植物根システムの根圏で起こることが知られており、ここでは接合の可能性が非常に高い。 そこでは、アグロバクテリウムが、増殖し組み換えDNAを別のバクテリアに挿入したり、同じ土壌で栽培される次の作物へも挿入できる。

最後に、アグロバクテリウムは、色々な種類の人の細胞に付着し遺伝子組み換えを起こす。安定な組み換えHeLa細胞では、丁度植物細胞ゲノムに組み込まれたときのようにT-DNAの組み込みが右の境界で起こる。 これの意味するところはアグロバクテリウムは、植物細胞を変えるのに使われるのと似たメカニズムで人の細胞を変えることを示唆する。 

いつになったら、これらの研究者やその他の政府の行政官に助言している研究者は、水平遺伝子伝達の真実を自分自身、そして市民に言うのだろう。

 

 

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