イギリスの報告書、アメリカのGM作物に疑問を投げかける

 

02917

ロイター ロンドン

訳 中田みち

 

アメリカのGM作物は、これまでのところ経済的に大失敗となっている。そのために、これからGM作物に切り替えることが提案されている小麦に対して、猶予を求める生産者たちが出てきているというレポートが、火曜日に発表された。 イギリスの主要な有機農業団体である土壌協会(Soil Association) の調査によると、1999年以降、遺伝子組み換えされたコーン、大豆、菜種によって、補助金、価格の低下、主な輸出先の喪失、リコール費用など120億ドルが、アメリカ経済にコストとして降りかかっている。科学者達はこのような作物の登場によって世界の飢餓が解決されるだろうと言ってきた。しかしこのレポートによると、彼らが主張してきた「収量の増加」も、とうもろこしで若干の増加があったほかは、全般に実現されてはいない。また、このレポートは、農家はバイテク企業が約束したはずの利益増を達成しているわけではないことも示唆している。 その理由としてGM作物の混入が、食品産業、そして農業のあらゆるレベルで拡がったことによる、遺伝子組み換え食品市場の価格崩壊をあげている。 

GM作物が紹介されて数年の間に、年間3億ドルあったアメリカからEUへのコーンの輸出のほとんどがなくなってしまい、大豆市場のアメリカ産のシェアも減少した。」とレポートは指摘する。「GM作物による輸出の減少によって生産者価格が下がり、その結果政府の補助金が年間3050億ドル増加したと推定される。」と付け加えた。

 

モラトリアム

遺伝子組み換え作物に関する深刻な問題が明らかになるにつれ、アメリカの農家や有機農業組織のグループ200余りが、GM小麦の導入を猶予することを要求している。ここ数年、主要なバイテク企業であるモンサント社は、ラウンドアップ耐性小麦が農家にもたらす利益を強調してきた。

モンサント社によれば、現在彼らが認可をとろうとしている除草剤耐性の性質によって小麦の栽培はより効率的になり、農家の収量も増加するはずだという。しかしヨーロッパの世論は、狂牛病以来食の安全が脅かされる一連の恐怖を経て、遺伝子組み換え作物に対して用心深くなっている。 そして事実上、新たなGM作物の認可が3年の間禁止されているのである。

土壌協会のディレクター、ピーター・メルシェットによれば、3年間の実地試験プログラムに続き、GM作物の商業栽培を認めるか否かの決定期限を来年に控えているイギリス政府にとって、このレポートはタイムリーに注意を喚起するものであるという。「イギリス農業が未だ深刻な経済的危機にあえいでいる今、新しいテクノロジーを使うという誘惑は大きいのです。」とメルシェットは、このレポートを発表する会見でメディアに向けて語った。 そしてこのように付け加えた。「GM技術がアメリカで導入されたときも、農家が経済的に弱っている時期でした。 GM作物が利益をもたらすというバイテク企業の主張は当時幅広く受け入れられたが、結局今ではGM作物は経済的にかえって不利であることが明らかになったのです。」メルシェットは、このレポートによってより多くの情報のもとに公開の議論が行われ、イギリス国内のGM作物の商業栽培についての決定が、独立したもの、そして特定勢力による圧力の影響の少ないものになって欲しいと述べた。

 

イギリス政府は今年初めにこの問題に関する公式の議論を始めたが、バイテク企業グループが菜種の圃場試験でのわずかなGM混入を公開したことで、あやうくGM作物の環境に対する影響についての政府の圃場試験プログラムを頓挫させるところだった。 またその失敗によって、イギリスの環境大臣、マイケル・ミーチャーは「イギリスは、遺伝子組み換え作物の商業栽培を認めるよう、アメリカから圧力を受けている」と発言し、政府内に幅広く存在するGM賛同派と袂を別つこととなった。「有機農業と遺伝子組み換えを同時に推進することなど不可能だということを理解し始めた人が政府内部に出てきたということは、よいことです。」とメルシェットは語った。

 

 

 

遺伝子組み換え推進の動き、壁にぶつかる

 

BBC ワイルドライフ・マガジン

訳 中田みち

 

 収量と利益が減少し、農薬の使用量が増加する……。イギリスにとっての決断の時が迫るにつれて、GM食品の大きな賭けが明らかになっている。 新たに発表されたレポートは、GM作物は農家に利益をもたらすというバイテク企業の宣伝文句に挑戦を挑むものである。土壌協会が発行したSeeds of Doubt(疑惑の種子)によると、世界でGM作物の商業栽培が行われているのはわずか4ヶ国だが、そのうちのひとつ、アメリカでは収量や利益は増加してはいないし、農薬使用も減ってはいない。 遺伝子組み換えが収量に及ぼす影響を調べた唯一の独立した調査によると、実際には収量は6%前後減少し、その一方で農薬の使用は増加していた。生産者は作物が耐性を持っている除草剤を以前よりもたくさんまくためだ。 また「GMブランド」が国際的な市場を失ったために価格が下落し、それによって利益が目減りすることにもなった。

 土壌協会は、イギリスの有機農業の将来を危惧して、このレポートを送り出した。 これによってGM技術は有機農業と相容れないものであることがはっきりしたのである。最初にこのことが議論されたとき、閣僚達は有機農業がGM技術の導入によって危険にさらされることなどないと自信を持って言った。しかし、今では政府はどの程度のGM作物の混入なら受け入れられるかという、基準を探っているのだ。

 北アメリカから届く教訓は、不安なものだ。 カナダは有機菜種の産業全てを、GM作物混入のために、たった数年間で失ってしまった。 サスカチェワン州有機経営者会は、それを引き起こしたGM企業を相手取って訴訟を起こしている。

 このレポートは、イギリスにおけるGM技術の将来にとって、とても重要な時期に発表された。 政府は20036月までにGM作物の商業栽培を進めるかどうか決めなければならない。 それに先立ってこの問題に関する公の議論が始まってはいるが、トニー・ブレア首相は「商業栽培を推進すべき」との方向で、すでに心を決めているという見方が大勢だ。

 土壌協会は閣僚に慎重な検討を求めている。 土壌協会のディレクター、パトリック・ホールデンは明言する。「このレポートの証拠を見れば、この道をたどるのは全く愚かなことだとわかるでしょう。」

 

 

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