ISISニュース(情報源:サイエンス誌)

2002年10月4日

訳 山田勝巳

遺伝子治療 予測されていた危険

 

遺伝子治療でゲノムに外来遺伝子を挿入することや組み換えDNAに曝すことによる癌を警告したのは、ほとんどISISだけだった。 残念ながら、この警告が現実となってしまった。 Dr.メイワン・ホーは、遺伝子治療と組み換え技術は同様の危険を孕んでいるとして全面的見直しを求めている。

 

2000年に重い複合免疫不全症(SCID)の子供を治療して話題になったフランスの医師団が、遺伝子治療実験を中止せざるを得なくなった。 治療を受けた10人の子供のうちの一人が、白血病に似た症状を起こしたのだ。

 

CIDは、X染色体の遺伝子に突然変異が起こることによるとされている。 パリにあるネッカー病院のアラン・フィッシャーとマリナ・カベゼナ・カルボは、患者から取り出した骨髄細胞を、ゲノム中に遺伝子を挿入するために、突然変異遺伝子のコピーの正常なものを運ぶベクターを使って体外で組み換えするex vivo 方式を開発した。

 

この方法が、組み換え遺伝子を直接患者に導入する体内治療の持つほとんどのリスクを回避する遺伝子治療の画期的なものとして賞賛された。 それまでの方法では、患者がベクターの毒性に直接曝される危険性があり、1999年にはゲルシンガーという10代の子が死んでいる。 更に、感染性ウィルスがベクターから発生する可能性があり、またベクターをゲノムの間違った場所に挿入した場合には癌になる可能性があった。 動物や植物の遺伝子組み換えがそうであるように、人の遺伝子組み換えも組み換え遺伝子の挿入場所が精確に定められないという大問題がある。 患者の体外で細胞を変えることによって、患者が直接ベクターに曝されることがなくなり、癌を発生する細胞や感染性のウィルスが発生しても選択排除できると期待されていた。

 

残念ながら、この春の定期検診で、第4患者の血液中のT細胞数が高いことが分かり、8月には1リッター当たり200,000個になってこの子は入院した。分子分析の結果、このT細胞は無制限に増殖した一つの元の細胞から出来た一種類のクローンであることが分かった。 使用したレトロウィルスベクターは、マウスのモロニー白血病ウィルスで染色体11の遺伝子に侵入して、白血病という形で「劇的に発現」した。

 

フィッシャーの考えるところでは、このベクターは、勝手に組変わって「危険な遺伝子」に変わる「挿入突然変異」を起こし過剰発現したのだという。 この理論的危険性は「皆分かっていた」が、動物実験では出なかったと言ってその可能性が「極めて低い」と信じていた。

 

彼は、この2点とこれら以外についても間違っている。 「挿入発ガン性」は、癌文献では定説でないとしても認識されていた(規則性の網からこぼれ落ちる裸の自由核酸、TWNバイオテクノロジー・シリーズ2001で検討されている。ISISとTWNで入手可 online bookstore)。 全ての動物実験のうちの少なくとも一つのレトロウィルスベクターを使った実験では白血病が起きているし、癌の危険性はレトロウィルスに限ったことではない。 最も一般的なアデノ結合ベクター(AAV)を使った別の実験では、動物に効率的に癌が発生している(現在出ている「遺伝子治療の失敗例」Science in Society 16を参照)。 それに、今回使われたマウスのモロニー・白血病ウィルスベクターは、最も初期の遺伝子治療ベクターで、安全性に問題があるとしてほとんどの遺伝子治療医が使わなくなったものだ。

 

今回言及されていない点として、無制限に増殖したT細胞クローンへの組み込み位置がある。 SCID遺伝子治療の標的はX染色体なのに、何故染色体11に入ったのか。最初の組み換え骨髄細胞は、挿入片がどこに入ったのか確認されたのだろうか。 患者に戻される前に、「危険な遺伝子」に入っていないことを確認したのだろうか。確認されているとしたら、我々が予測したように、挿入片は組み換え細胞が患者に戻されてから移動したのだろうか。

 

アメリカの国立公衆衛生院(NIH)の研究者が計画していた同じ方法を使った臨床実験が中止された。 ロンドンの子供病院を含む別の4つのグループが同じ方法を使っていたり、似た実験を計画している。NIHの組み換えDNA諮問委員会は、この件に関して広範な検討を準備していると伝えられている。

 

遺伝子治療と農業・生医学用動植物の遺伝子組み換えを含むその他の組み換え技術は、使われる方法や構造が似ており、同じ危険性が付きまとうのだから、必要なのはこれら全ての見直しである( Science in Society 2002, 16を参照)。

 

 

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