遺伝子組換えした企業
ザ・エコノミスト
2002年8月15日
訳 河田昌東
山積みの疑惑
モンサントは1990年代後期の混乱から教訓を得たのか? 「因果応報」というのは、本当は農薬と種子ビジネスにおける何かを意味する聖書風の教訓である。このビジネスで利益をあげるには、タイムリーな播種と豊かな収穫に決定的に依存する。しかしながら、それは竜巻の後始末をするよりはよっぽど良いことを知っている企業がある。遺伝子組換え作物の主導者、モンサントである。
2年前モンサントは噂では世界で最も矛盾に満ちた会社だとされていた。一方で、環境にやさしい農業やハイテク作物で健康な食品を作る将来性のある会社だと賞賛され、他方では、生態系と世界の食糧供給の協調体制破壊を促進する、と非難された。反GMの抗議者たちからの攻撃と53億ドルの買収騒ぎによる負債を抱え、モンサントはアメリカの製薬会社ファーマシアの屋根の下で、一時的なシェルターを見つけた。ファーマシアは、医薬品部門の成功を目指して四面楚歌の企業シーレ社(モンサントの子会社)を買収したのだった。ところが、2000年にファーマシアはモンサントの持株の15%
を株式市場に売りに出し、今年中に残りの株も売却する予定だと発表した。先月、ファーマシア自身がアメリカのライバル会社ファイザー社に買収され、モンサントの売却はさらに促進された。今週、ファーマシアは残りのモンサント株を投資家達に譲渡し、そのまま保持するかそれとも売却するか希望にまかせた。
こうした状況に直面し、新しいモンサントは昔のモンサントとは全く変わってしまった。2000年に同社のベテラン、ヘンドリック・ベルヘイリーがロバート・シャピロに代わってボスになった。 ベルヘイリーは、宣教者のようなシャピロと違ってもっと現実主義者のようだ。シャピロは「ライフサイエンス」のゴスペルを歌い、農業と食糧、医薬品を一緒にした相乗効果を説いてまわった。しかしその結果、モンサントは医薬品部門の腕を失ったばかりでなく、栄養補助食品部門にもかげりをもたらした。農業部門では4種類のキー作物、大豆、トウモロコシ、小麦、綿、に関心を狭めることになった。
モンサントの筆頭理事ヒュー・グラントが言うには、ファーマシアはモンサントに喉から手が出るほど欲しい余裕を与えてくれた。おかげで負債の大部分を肩代わりし、その分を経費の節減にまわし、1990年代後半に買収した多くの種子会社を統合できた。 その結果、モンサントは今再び流動的な企業になった。モンサントは今年の終わりまでに、少なくとも40億ドルのフリー・キャッシュ・フローを持つと予想している。ベルトを締めてかかっているのはモンサントだけではない。シンジェンタやジュポンのようなライバル会社も経費を節減し、収益優先を目指している。作物保護ビジネスではそうした傾向が特に顕著である。即ち、世界の農薬販売は2004年までに10%以上縮小し、118億ドルまで減ると予想されている。
ドイツ銀行のジョン・モーテンが指摘するように、農薬と種子企業には、食品の持続的な低価格化や企業合併を含むいくつかの面でプレッシャーがかかっている。
とくに後の問題は農薬部門でさらに大きな競争者を作り出す。もう一つの要因は、農薬の巨大な消費者であるアルゼンチンにおける経済の崩壊である。今年の第2四半期に、モンサントはアルゼンチンで1億5400万ドルの不渡りを出した。 他のライバル会社と同じく、モンサントもそれ以来クレジットをやめ、現金または穀物だけの商品代金支払いを行ってアルゼンチンのリスクを減らしている。
農薬は今でもモンサントの収益の70%を占めるが、その将来の見通しは暗くなりつつある。 なぜなら、モンサントのヒット商品ラウンドアップのパテントが切れたからである。 モンサントはその将来を高級な(fancy:訳注:気まぐれと言う意味もある)種子とジェノミクス(訳注:遺伝子ビジネス)に見出そうとしている。モンサントのこの信条は以前のように高らかに鳴り響きはしないが、それは多額の資金で裏打ちされている。即ち、昨年のモンサントの研究開発費5億5千万ドルの83%は、種子とバイオテクノロジーに投入されたのである。 企業平均では29%に過ぎない。 近く商品化される予定の作物には根きり虫に抵抗性のGMトウモロコシ、除草剤耐性の小麦、栄養を改善した家畜飼料などがある。
ヨーロッパの嫌悪
ヨーロッパではGM食品に対する人々の反対が最も強く、GM作物の商業栽培が事実上凍結に追い込まれている。 「フランケンシュタイン食品」は問題を引き起こすかのように聞こえるせいかもしれない。しかし、ベルフェイリー氏はヨーロッパ以外では、GM作物の利用で農薬を減らし、農家の収益が増えるので、GM作物は速やかにに採用されつつある、と指摘する。グラント氏は、農薬削減による環境上のメリットその他の生態学的有利度は―――これらはいずれも反GM派からは激しく反論されているのだが―――ヨーロッパの消費者を助け勝利するだろう、と推測している。1990年代の終わりに、モンサントは優れた科学(の結果)は自明のことであり、一般の懸念は心配に及ばない、と言う思い込みで失敗した。ベルフェイリー氏は同社が外部の世界との付き合い方がそれまで横柄で、秘密主義的で、己の技術的成功で盲目的になっていたことを認めた。
今回のラウンドでは、同社は一般の人々の意見を良く聞き、消費者とも話し、透明性と技術シェアリングを大切にする―――これらはどれも2年前にベルフェイリーが導入した誠実な約束(「ニュー・モンサントの誓い」)に盛り込まれている。ベルフェイリーは、ヨーロッパにおける同社の長期的見通しについてはどちらかと言うと楽観的である。彼はやっぱりベルギー人なのだ。現在モンサントは人々に良く話しかけている。しかし、彼らの懐疑的な気持ちを打ち破るには、同様に彼らの声を良く聞かなければならない。