くらしを問いなおす旅
NONE(なん)主催
遺伝子組み換え食品の講座
2003年6月21日
村上 悠
第2回「遺伝子組み換え食品とは?」
0、前回のまとめ
@
真核細胞の遺伝子は、核の中にあり、DNAという物質で出来ている。
A
DNAには4種類の塩基(A・T・G・C)があり、それぞれA−T、G−Cが向かい合った二本鎖となっており、らせん構造をとっている。
B
DNAは3つの塩基(コドン)で1つのアミノ酸を指定し、DNAの塩基の並びに従ってアミノ酸をつなげていき、タンパク質を作る。
C
DNAの配列に従って作られたタンパク質は、筋肉やコラーゲンなどの体を造るもととなるほか、酵素として様々な生命の働きを担う働き手になっている(DNAから、タンパク質を作る過程にもたくさんの酵素が関わっている)。
D
DNAの配列は、まずmRNAに読み取られる。mRNAは核を出てリボゾームにくっつく。すると、mRNAと相補的な塩基配列(アンチコドン)を持つtRNAが特定のアミノ酸を運んできて、アミノ酸を並べていき、次いで結合されていきます。こうしてつなげられた、アミノ酸のネックレスが、正しく折りたたまれる事で機能のあるタンパク質となります。
E
細胞が分裂する時には、DNAの複製が行われるが、その際にはDNAの二本鎖がはがれ、一本鎖となる。そして、それぞれの鎖の塩基配列をもととして、二本鎖が復元される。これを半保存的複製といい、これにより単細胞生物では次世代、多細胞生物では新しい細胞に正確なDNAの情報が伝わっていく。
F
細胞に核を持つ真核細胞生物では、DNAの配列中にイントロンと呼ばれる無意味な(タンパク質に読み取られない)配列があり、イントロンによりタンパク質に読み取られる部分が寸断されていたりする。
G
(追加事項)DNAの情報に変化が起きることがある(突然変異)。しかし、それがすぐに生物の形質を変えるわけではない。(1)DNAには変異を修正する機構がある。(2)コドンの3つ目の塩基の変化は、同じアミノ酸を指定する事がある。(3)イントロンに生じた変異は、通常何の影響もない。
H
ゲノムとは、生物の全てのDNA配列。遺伝子とは、そのうちのタンパク質の情報として使われる部分。
1、遺伝子組み換えってどんなもの?学ぶ前のイメージ。
@
「遺伝子組み換え」に、どんなイメージを持っていますか?
A
「遺伝子組み換え作物」には、どんなものがありますか?
B
「遺伝子組み換え作物」の混入率はどの程度だと思いますか?
2、遺伝子組み換えってなにすんの?
遺伝子組み換えとは、要するにある生物の遺伝子を他の生物に挿入する事で、生物に新たな性質を持たせようというものです。
たとえば、馬(の卵細胞)に「羽を作る」という遺伝子を入れることで、ペガサスをつくるとか・・・。
※本当はこんな事はできません!
とはいうものの、実際にはどういう事が行われているのでしょうか?まずは、遺伝子組み換えの技術について学んでいきましょう。
@制限酵素
前回お話したように、ウィルスという奴は、タンパク質の殻と遺伝情報としてのDNA(SARSウィルスや、エイズウィルスなどはRNA)のみから出来ています。酵素などのタンパク質合成装置を持っていないので、自分で増える事は出来ず、他の細胞に取り付いてDNAをその中に入れて、自分の分身を作らせることで子孫を残します。
しかし、細胞側も黙ってやられてはいません。特に、細菌類のような単細胞生物では、免疫系のようなシステムを持っていない上、ウィルスへの感染は即ち死につながります。
そこで、細菌類は特有な配列を認識し切断する酵素を持っています。この酵素を、ウィルスの増殖を制限するという意味で「制限酵素」と呼びます。
図1;EcoRIの切断部位 |
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G |
AATTC |
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CTTAA |
G |
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例えば、EcoRIという制限酵素は右図のような切断を行います。
こうして、細菌はウィルスのDNAをバラバラにしてしまいます。
しかし、そんな事をして細胞自身のDNAは大丈夫なのでしょうか?実は、
制限酵素を持つ細胞は、メチル化と呼ばれる方法で自分のDNAにはマークをつ
けており、制限酵素はマークのついたDNAには働かないようになっています。
この、制限酵素を利用する事で必要な遺伝子を切り出してきます。
A遺伝子を入れ込む パート1 アグロバクテリウム法
さて、必要な遺伝子をいよいよ組み込むわけですが、これには4通りの方法があります。まずは、そのうちのアグロバクテリウム法です。
ですが、その前に「プラスミド」というものについて説明しましょう。
図2;細菌のプラスミドDNA 赤丸;ゲノムDNA 青丸;プラスミドDNA |
細菌の仲間は、主要なDNAであるゲノムDNAの他に、プラ
スミドDNAと呼ばれるものを持っています。細菌にとって
必須な遺伝情報はゲノムDNAに、抗生物質耐性のような生
きていくのに必ずしも必要ではない遺伝情報はプラスミド
にあります。同じ種類の細菌であれば、ゲノムDNAは必ず
同じですが、プラスミドDNAは持っているものも持ってい
ないものもいます。プラスミドは環状の小さなDNAである
ため遺伝子操作が簡単に行えます。
プラスミドDNAは、自力で増える事が出来(葉緑体やミトコンドリアにもDNAはあるが、核からの指示が無いと増えられない)、しかも、接合という方法により、他の細菌に感染する事が出来ます(次ページの図を参照)。
近年問題になっている、抗生物質耐性菌はこのプラスミドをどんどんと受け渡していく事で一気に耐性菌が広まったのです。
さて、アグロバクテリウムですが、この細菌は植物の根に感染してコブを作ります。このとき、自分の持つプラスミドを植物の細胞に感染させ、しかも感染したプラスミドが植物のゲノムに取り込まれるという現象が起こります。
図3;プラスミドDNAの伝達 抗生物質耐性菌 抗生物質耐性を持たない菌
接合 |
この性質を利用し、アグロバクテリウムのプラスミドを取り出し、切り取ってきたDNAの断片を貼り付けます。このとき、DNAを貼り付けるのに使う酵素をDNAリガーゼと呼びます。この、切り取ってきたDNAを含むプラスミドをアグロバクテリウムに戻します。
この、アグロバクテリウムを植物の細胞に感染させて、DNAを植物に組み込むのです。
※別紙の図4参照
B遺伝子を入れ込む パート2 トランスポゾン法
植物には、トランスポゾンと呼ばれる、ゲノムから遺伝子の一部が切り出され、別の細胞に移ってその細胞のゲノムに組み込まれるという、浮遊するDNAがあります。
このトランスポゾンに、切り取ってきたDNA断片を貼り付けて植物細胞に組み込みます。
C遺伝子を入れ込む パート3 エレクトロ・ポレーション法、パーティクル・ガン法
残り二つは一気に解説します。
エレクトロ・ポーション法はDNA断片を、環状にしてこれを植物細胞の中に電気ショックで強引に入れ込みます。細胞内に取り込まれたDNAは、最初は細胞質内にありますが、稀に核内に運ばれ、ゲノムに導入される事があります。
パーティクル・ガン法では、環状にしたDNAに金属粉をまぶして、空気銃で細胞に打ち込みます。打ち込まれたDNAの行方はエレクトロ・ポーション法と同じです。
これら、遺伝子組み換えの技術はかなり未熟で、特に最後の二つの方法では、切り出してきたDNAが植物に取り込まれるかどうかは、運次第となっています。
前者の、生物学的手法を用いても、実際に組み込まれる確率はかなり低く、しかもどこに組み込まれるか分からない為、植物の生存にとって必要な遺伝子を分断してしまうかもしれません。
組み換え成功率は、数万分の一程度です。この、成功率の低さが遺伝子組み換え作物の大きな問題点のひとつとなっています。これについては後でお話します。
この時点で、遺伝子組み換え技術へのイメージはどう変わりましたか?
3、現在、どんな組み換え作物があるか。
別紙の表1参照
では、どんな組み換えが行われているのでしょうか?
有名なものは、除草剤耐性を持たせた大豆や、殺虫毒素を出すスターリンクと呼ばれるトウモロコシがあります。
まず、除草剤耐性大豆ですが、これにはラウンドアップという除草剤に耐えるための性質を遺伝子組み換えで持たせてあります。ラウンドアップは、モンサント社の販売する非常に強力な除草剤で、どんな植物でも枯らしてしまいます。
普通、除草剤を撒くときは、時期などに応じて何種類もの除草剤を使い分けなければなりませんが、ラウンドアップに耐性を持たせたものの場合、ラウンドアップさえ撒けば全ての雑草を枯らし、耐性を持つ作物だけが残るという寸法です。
また、殺虫毒素を出すトウモロコシでは、土中にいる細菌(バチルス・チューリンゲンシス)が出す昆虫を殺す毒素を出す遺伝子をトウモロコシに組み込みます。この、殺虫毒素は昆虫にしか効かないものなので、人間が食べても食中毒のような事は起きません。
この、除草剤耐性と殺虫遺伝子は他の作物にも広く応用されています。鉄分を多く含むレタスなど、栄養価を高めたものもいくつかありますが、現時点では生産者の手間を減らすようなものが多く作られています。
4、推進派の言っていることは本当か?
@品種改良よりも確実な遺伝子組み換え
品種改良は、より性質の良いもの同士を掛け合わせるものだが、その性質が本当に伝えられるかは不確実。それに対し、遺伝子組み換え技術は必要な遺伝子自体を組み入れるのだから、確実である。
しかし・・・
前述のように、遺伝子組み換え技術はまだまだ未熟。
文章を編集するように、望む遺伝子を、望む部分に入れるということは出来ない。
A遺伝子は食べても吸収されない
「遺伝子」なんて物を食べても大丈夫なの?と思うかもしれませんが、普段食べているものにも遺伝子は含まれている。また、遺伝子は胃や腸で分解されるため、人体に影響を与える事はない。
しかし・・・
こんなこと言ってる人は聞いたことが無い。問題なのは、新しく導入された遺伝子から作られるタンパク質である(これについては、アレルギーの所でまた話します)。
また、胃潰瘍など消化器系に何らかの病変を持つ人の場合、DNAが完全に分解されず腸内に達し、そのDNAが腸内細菌に移行する恐れがあるという報告もある。
B農薬が減る、収穫量は増える
今までは、何種類もの除草剤を使わなければならなかったが、除草剤耐性のものなら1種類だけでよい。また、殺虫毒素を持つものを使えば、殺虫剤がいらず農薬が減るし、雑草や害虫から守れる為、収穫量が増える。
しかし・・・
別紙の図5を見ても分かるように、農薬使用量は減っていない。
モンサントという会社は、ラウンドアップ耐性大豆の栽培実験を行い、その耐性大豆の申請書類中で「ラウンドアップの残留基準地を上げるべき」と述べている。その後、日本の厚生省は1999年10月、食品中のグリフォサート残留基準を改定した。大豆中のそれは6ppmから20ppmに、トウモロコシは0.1ppmから1.0ppmに、さとうきびは0.2ppmから2.0ppmに、綿実は0.5ppmから10ppmに引き上げられた。いずれもラウンドアップ耐性遺伝子組換え体の栽培がアメリカで盛んになった品種である。さらに、オーストラリアやニュージーランド、イギリスなどでも大豆中グリフォサート残留基準はそれまでの0.1ppmから軒並み20ppmに基準値が200倍にも引き上げられている。
モンサント社は、ラウンドアップ耐性大豆と、除草剤ラウンドアップの両方を作っている会社であり、その目的は明らかだ。
また、収穫量についてもむしろ減っている(図6;ベンブルック報告)。
C実質的同等性(組み換えた遺伝子以外は全く同じ)
組み換え作物は、組み換えた遺伝子以外には今までの作物と何ら変わらない。
しかし・・・
別紙の図7を参照
大豆を生で食べた事がある人がいるでしょうか?ダイズには、実は毒素が含まれているのです。といっても、そんなに大げさなものではなく「トリプシン・インヒビター」と呼ばれる消化酵素の働きを邪魔する酵素です。酵素蛋白ですから、熱をかければ壊れてしまい、普通は大豆を食べていても何も起きません。
このグラフは、そのトリプシン・インヒビターと、もうひとつウレアーゼと呼ばれる酵素の働きを生ダイズと、加熱ダイズでそれぞれ比べたものです。実は、このグラフの値はモンサント社が厚生省に出した販売許可申請書のデータのものです。
このダイズは、人間が食べるものではなく飼料用のダイズです。
グラフの見方ですが、一番左の水色がもとのダイズ。その隣のピンク色のものが、除草剤耐性を持たせた大豆です。黄色のグラフも組み換え体ですが、とりあえず無視してください(全てデータがそろっていない為)。
生ダイズで比べると、トリプシン・インヒビターも、ウレアーゼも大して変わりません。しかし、加熱ダイズで見るとトリプシン・インヒビターで約1.5倍、ウレアーゼに至っては10倍以上の開きがあります。
つまり、普通のダイズでは加熱をすると酵素は壊れてしまい、働きを失うのに対し、組み換え体では酵素が壊れにくくなっているのです。
このときの加熱条件は、110〜120℃、10分程度という、家畜飼料を作るときの一般的な条件でした。ところが、モンサントはこれを加熱不十分として220〜230℃、25±2分という、非常に激しい加熱条件を指定しました。それが、再加熱ダイズです。皮肉な事に、再加熱ダイズでは、トリプシン・インヒビターは約3倍、ウレアーゼでは30倍という差が出来てしまいました。
もう一度確認しますが、この二つのダイズは、A5402と呼ばれる大豆に除草剤耐性を持たせただけのものであり、トリプシン・インヒビターもウレアーゼもいじってはいません。それなのに、何の関係も無い二つのタンパク質に影響が出ていることが見て取れるのです。
こうした結果からは、実質的同等性に対して疑いが出てきます。
この他にも、組み換え体が免疫作用を抑えてしまうというような報告もあります。
D厳しい安全性チェックをしている
さて、先ほどのダイズの販売許可申請書には続きがあります。モンサント社は、再加熱ダイズでもまだ加熱不足と勝手に断定し、更なる加熱を行い、その上で二つには統計的な差は無いという結論を出している。
この報告書では、他にも組み換え体の除草剤耐性遺伝子からの作られる蛋白質(CP4EPSPS蛋白質)を動物に食べさせる実験を行っているが、これについても大豆から取り出したCP4EPSPS蛋白質を食べさせるのではなく、除草剤耐性遺伝子を大腸菌に作らせたものであり、真核生物と原核生物の場合DNAからタンパク質を作る過程に差があることが知られており、科学的に有効な実験とはいえない。
その他、動物実験での用いた動物の数が少なすぎるなどの欠陥がある。
であるのに、厚生省はこの組み換え体を認可しているのだ。とても厳しいチェックが行われているとはいえない。
しかも、情報公開の問題もある。
このデータは、名目上は公開ということになってはいたが、実際には週に3日だけ、時間も10時〜12時、13時〜16時の計5時間のみ。資料の持ち出しやコピー等は不可というもので、厚さが1mにもなる申請書をチェックするのは事実上不可能だ。
この申請書をチェックするに当たっては、4回にわたり延べ約40名によって、江戸時代さながらに必要な部分を筆写するという方法をとった。
僕の行った大阪支部ではさらにひどく、データはスキャナでパソコンに取り込まれたもののみ。時間は、週2日で10時〜12時、13時〜16時であり、パソコンも2台しか置いておらず、コピーガードがかけられている。これでは、筆写も出来ない。
まともな情報公開もなされていないという状況だ。
E世界の食糧事情〜食料配分の不平等〜
現在、世界で多くの人が貧困による飢えに苦しんでいる。今後も、人口はどんどんと増加すると考えられ、こうした世界的な食糧問題に対応するには遺伝子組み換え技術が不可欠である。
しかし・・・
FAO(国連食糧農業機関)によれば、世界で生産される利用可能な食料をカロリーに換算し、人口で割った、「一人一日当たり食事エネルギー供給量(DES)」は、世界平均で2720kcalである(1994〜96年の平均)。成人一人当たりの必要カロリーは約2500kcal/日であるから、実は世界では十分な食糧生産が行われている事になる。
問題は、それら食料が先進諸国に集中しているという配分の不平等の問題である。殊に、日本は先進国最大の食糧輸入国でありながら、大量の食料を捨てている。1995年の統計では、一人一日596kcal分もの食料を捨てている。成人一人当たりの必要カロリーは約2500kcal/日と比べてみれば、どれだけの食料の無駄が出ているかが分かるだろう。
また、アメリカが望む農作物=食料の自由主義市場が、農作物を投機の対象として扱わせ、安定供給よりも価格調整が優先されている。
さらに、肉食も大きな問題だ。現在、家畜を育てるにはトウモロコシなどの穀物を使った配合飼料が使われているが、こうして育てられた牛にはその10倍の穀物が必要とされている。つまり、1kgの牛肉のために、10kgの穀物が消費されていえるのだ。
こうした問題を放置して、遺伝子組み換え技術にて食糧危機を救うというのは欺瞞に過ぎない。
また、遺伝子組み換え技術を使った農作物は非常に高価であり、貧困にあえぐ国の農民が買えるものではない。
5、その他の問題
@遺伝子組み換え作物の割合〜どのくらい食べているか〜
別紙の表2を見ていただきたい。
これは、不分別大豆に遺伝子組み換え体がどれだけ入っているか表したものです。このデータは、東京都の予備調査によるものです。
この数値は、アメリカにおいてダイズの作付面積の75%が遺伝子組み換えダイズである事と見事に符合しています。因みに、現在の日本の大豆の自給率は6%未満で、輸入品の90%以上をアメリカから輸入しています。そして、そのほとんどが不分別なのです。
現在、遺伝子組み換え品に対する表示義務がありますが、ダイズの最も多い利用先である大豆油や、しょう油、味噌などの発酵食品には表示義務がありません。これらの食品は、遺伝子組み換え体があっても検出できないというのがその理由です。
また、発酵食品であっても納豆には表示義務がありますが、他の食品と同じく違反に対する罰則規定は無く、まともな検査も行われていません。
また、非組換えを名乗れるのは混入率が5%未満とされており、これはEUでは「組み換え品」と表示しなければならないレベルです。
A抗生物質耐性の問題
先ほどお話したように、現時点では遺伝子組み換え技術は未熟であり、成功率は数万回に一回というレベルだ。しかし、何万個の種を作って、そのうち1個が成功品ということでは商品にならない。
そこで、遺伝子操作とした細胞の段階で組み換えが成功したかどうかを確認する。必要な遺伝子(例えば、除草剤耐性遺伝子)と一緒に、抗生物質耐性の遺伝子(これを、マーカー遺伝子と呼ぶ)も組み込むのだ。そうして、抗生物質をたっぷり含んだ培地で細胞培養を行うと、組み込みが上手くいったもののみが成長してくる。これを使って種を作るのです。
しかし、この抗生物質耐性遺伝子が大きな問題となっている。現在、抗生物質耐性細菌による感染症が大きな問題となっています。実は、遺伝子組み換え作物の抗生物質耐性遺伝子が、家畜や人間の腸内細菌に移っていく危険性が指摘されています。
この、抗生物質耐性が細菌のプラスミドという小さなDNAに乗って広まっていくことはお話しましたが、この移行は、近い種であれば違う細菌の間でも起きます。しかも、一度、抗生物質耐性を得ると、どんどんと違う抗生物質への耐性も得ていってしまう事が分かっています。
遺伝子組み換え作物の耐性遺伝子が、更なる抗生物質が効かない細菌感染症を広げてしまうのではないかという危惧がなされています。
Bアレルギーの問題
遺伝子組み換えにはいろいろなものがあるが、これまでにない性質を持たせるということは共通している。ということは、これまでに無いタンパク質を作らせるということだ。
こうなると、新たなアレルギーの問題が出てくる。
ことに、スターリンクなどの殺虫毒素はもともとは土中細菌が作っていたもので、人間がこれを食べるという経験は無い。組み換え作物を食品として認める過程では、アレルギーテストもしているが、これは(食品としては)未知の物質がアレルゲンとなるかどうかを完璧に発見できるものではない。先述の表示義務の問題と絡めれば事態はより深刻だ。
例えば、殺虫毒素にアレルギーが出た人は、どれが組み換え作物か区別できないため、トウモロコシやジャガイモ全般が食べられなくなってしまうのである。
C環境への影響、単一遺伝子の脆さ
組み換え作物の持つ遺伝子が、作物と類縁の雑草に移っていってしまう事が確認されている。新しい遺伝子を獲得した個体は、生存に有利になる為、著しく増えてしまう危険がある。こうした事態が、周辺、ひいては地球レベルでの生態系のかく乱になるおそれがある。
遺伝子は増えていくものである事を忘れてはならない。生態系がかく乱されてから「やっぱりまずいから回収しよう」といっても、完全な回収は不可能だ。
また、種子への汚染も深刻な問題だ。
2000年に、消費者団体が日本では認可されていない組み換え作物であるスターリンクが食品に混入しているということを発表し、大きな問題となったが、この混入は現在でも続いている。(図8を参照)
この混入は、トウモロコシを運搬する過程で起きた可能性もあるが、花粉の飛散により遺伝子が非組み換え体であるトウモロコシに移った可能性もある。もしそうなら、分別は組み換えトウモロコシが栽培されている限り不可能となる。これも、アレルギー問題と絡めると大きな問題となる。
また、組み換え作物がいくら有利な性質を持っているといっても、それは現在の環境においてだということを忘れてはならない。
ここ1万年は、地球レベルで気候が安定している事が知られている(右図参照 デジタルミュージアム2000
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/dm2k-umdb/publish_db/books/dm2000/index.html より引用)。
将来にわたり、地球の環境が安定しつづけるという保障は無いどころか、地球温暖化問題など、地球の環境は不安定に向かう事が予想される。
こうした環境の変化が不安定な状況では、遺伝子組み換え作物のような単一の遺伝型しか持たない作物は非常に脆い。
遺伝子組み換え作物は、将来の食糧問題の解決には向かないと思われる。
6、日本の食糧事情〜このままでは拒否しようにも・・・〜
表9のように、日本の食糧自給は先進国中ダントツで最低だ。このままで、いくら遺伝子組み換えは嫌だと叫んでも、輸出国側に「組み換え作物しか売らないよ」といわれれば終わりだ。
また、今後の地球環境の不安定を考えても食糧自給を高める必要がある。
7、伝統農業は進化する。
有機野菜を普段食べているという人はいるでしょうか?
最近の有機野菜は非常に虫食いが少ないと思いませんか?
最近、昆虫個体群の動向がかなり研究されてきた為に、害虫の発生が予測可能になってきた。そのため、特定の時期にしっかりとした対処をすれば、農薬を使わなくても虫に対応できるようになってきているのだ。
同じように、病気などに対する研究も進んでいる。
農業は持続可能でなければ意味が無い。一時的に、人口増加に食糧増産が追いついても、持続できなければダメなのは当り前だ。そして、アメリカ型大規模農業が持続とは最も無縁な農業である事も知られている。
持続可能な農業とは、言うまでもなくその土地に根付いている伝統農業だ。この、伝統農業に最新の科学知識を組み合わせれば、食糧増産は可能だ。そして、この農業は長期的に持続可能な上、気候変動などの環境の変化にも対応可能だ。
現時点では、遺伝子組み換え作物よりも伝統農業の方が優れているといえるだろう。
8、(時間があれば)論理のすり替えに騙されない為に
図4;アグロバクテリウム法 アグロバクテリウム プラスミド+ 切り取ったDNA断片 DNA断片を貼り付けたプラスミド
+ アグロバクテリウム 植物細胞 感染 組み込み |
表1;現在、組み換えが行われている作物一覧 2003年5月23日現在
目 次 (品目名をクリックしてください。) |
|||||||||
アズキ |
アルファルファ |
イチゴ |
イネ |
カーネーション |
カリフラワー |
キク |
キュウリ |
コムギ |
ジャガイモ |
ダイズ |
タバコ |
テンサイ |
トウモロコシ |
トマト |
トレニア |
ナタネ |
ノシバ |
パパイヤ |
ブロッコリー |
ペチュニア |
ベントグラス |
メロン |
レタス |
ワタ |
|
|
|
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資料:農林水産省農林水産技術会議事務局技術安全課
表2;不分別大豆の遺伝子組み換え品の割合 |
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表@輸入ダイズからの GM遺伝子の検知結果 |
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検体 |
生産国 |
定性 結果 |
定量 結果 |
1 |
アメリカ |
+ |
49.8% |
2 |
アメリカ |
+ |
72.3% |
3 |
不明 |
+ |
76.1% |
4 |
不明 |
+ |
78.7% |
5 |
不明 |
+ |
57.9% |
6 |
不明 |
+ |
67.3% |
図5-1;アメリカでの遺伝子組み換え綿の栽培で農薬は減らず ・・・・WWF(世界野生生物保護基金)報告書発表(要約改訂版より)・・・ http:////www.pandaorg./livingwaters
|
図5−2;アメリカの農薬散布量
年度 |
大豆栽培面積 |
除草剤総量 |
除草剤使用量(トン) |
グリフォサート以外 |
グリフォサート |
|
||
1994年 |
43975 |
49385 |
22371.4 |
45909 |
3476 |
|
||
1995年 |
51840 |
56439 |
25566.9 |
50121 |
6318 |
|
||
1996年 |
50970 |
60629 |
27464.9 |
51942 |
8687 |
|
||
1997年 |
66215 |
78207 |
35427.8 |
63292 |
14915 |
|
||
1998年 |
65745 |
71437 |
32361.0 |
43314 |
28123 |
|
||
1999年 |
67840 |
70729 |
32040.2 |
32252 |
38477 |
|
||
2000年 |
71010 |
75164 |
34049.3 |
33317 |
41847 |
|
||
|
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米国農務省USDA AgChemical Usage Data より河田が作成
注:栽培面積は×1000エーカー、除草剤使用量は×1000ポンド
図6;ベンブルック報告
図7;組み換え大豆のタンパク質の変化
表9;世界の穀物自給率(%) |
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年 |
日本 |
アメリカ |
カナダ |
ドイツ |
イギリス |
フランス |
オーストラリア |
1970 |
46 |
113 |
126 |
71 |
59 |
140 |
231 |
1975 |
40 |
160 |
163 |
77 |
65 |
150 |
356 |
1980 |
33 |
157 |
176 |
81 |
98 |
177 |
274 |
1985 |
31 |
172 |
186 |
95 |
111 |
192 |
367 |
1990 |
30 |
142 |
223 |
114 |
116 |
210 |
309 |
1995 |
30 |
129 |
170 |
111 |
113 |
181 |
277 |
1996 |
29 |
137 |
191 |
117 |
125 |
196 |
365 |
1997 |
28 |
135 |
173 |
128 |
116 |
191 |
332 |
|
|
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|
出典:日本国勢図会 長期統計版 |