OIE/BSE新基準に合意の報 骨なし肉の未知のリスクは黙殺

農業情報研究所(WAPIC)

05.5.27

 国際獣疫事務局(OIE)の年次会合でBSEや鳥インフルエンザなどの関する家畜貿易の新たなガイドラインが合意されたようだ。WHOの年次会合では会議の進行状況はウエブサイトで逐次発表されたが、OIEについてはこのような迅速な情報伝達がない。従って、わが国の関心がとりわけ高いBSEに関する基準について、合意内容に関する様々な報道がされているが、今のところ、正確な合意内容を知るのは不可能だ。

 日経は、「国別の危険度の分類を現行の五段階から三段階に簡素化することなどが柱。焦点の「骨を取り除いた肉」も汚染防止措置の実施を前提に原則として検査なしで輸入を認める方向を確認した」と言う。ここに言う「検査」とはBSE「テスト」のことだろうが、輸入に際して「テスト」を要求する条項など、最初からない。これが「新」基準と言うなら、意味不明だ。

読売は、「OIEは、脳などの危険部位を取り除いた骨なし牛肉を「無条件で輸出入できる」とする事務局の改正原案を提示していたが、日本などが基準の大幅な緩和に反対。事務局案に<1>BSEへの感染や感染のおそれのある牛は除く<2>危険部位への接触防止措置を取る――肉は、脳や脊髄(せきずい)などの特定などの条件を付けることでほぼ合意した」と言い、朝日もほぼ同様に「BSE感染牛でなく、骨から外した牛危険部位に触れていない、などの条件で輸出入を認める」と言う。また、日本食糧新聞は、農水省が発表した概要として、「無条件に貿易できる品目に骨なし肉を追加したが、「ピッシングなどを行わない」ほかに@患畜や疑わしい牛由来でないASRMによる汚染防止が行われていない(?)B30ヵ月齢以下の牛由来である、を必須条件として加えた」と言う。

 現在は全頭検査でもすべての感染牛を見つけることはできないのだから、検査で感染が確認されたものや診断でBSEが疑われるものは除くとしても、それですべての感染牛や疑わしい牛が排除されるわけではない。このような牛すべてが排除されるかのような書き方は恐らく正確ではないだろう。そんなことが可能ならば、SRMでも無条件に貿易できる。

 この点に関しては、AFPの報道は次のように伝える(World animal agency sets new guidelines on mad cow, bird flu,AFP via Yahoo!,5.26)。

 「BSEの発生がある国では、一部牛肉製品はリスクを呈さないと見なされ、輸出できる・・・。

 これら製品は、”脱骨骨格筋肉”であり、肉が脳組織またはBSE病源体の宿主と疑われる他の組織に接触しなかったと畜場または加工工場に由来するものと証明されねばならない。

 さらに、この肉は、30ヵ月以下の牛に由来するものだけでなければならず、動物はと畜の前後に獣医のインスペクションを受けねばならない」。

 これがどこまで正確かは分からないが、意味はよく分かる。感染牛や疑わしい牛は、この「インスペクション(検視)」(テスト=BSE検査ではない)を通じて排除するということだ。それでも見逃される牛からの人間の感染リスクは無視できると考えられたのだろう。農水省がこの「インスペクション」をもって「患畜や疑わしい牛由来でない」ことが保証されると解釈したのだとしたら、明らかに間違った解釈だ。米国のジョハンソン農務長官は新基準合意を歓迎、とりわけ「OIEは国のBSEステータスと無関係に貿易できるリスクのない製品のリストに骨なし肉を含めることを公式に認めた」のは最も重要という声明を出した(Statement By Agriculture Secretary Mike Johanns Regarding The OIE'S Adoption Of Changes To The International Animal Health Code Chapter On BSE,5.26;http://www.usda.gov/wps/portal/!ut/p/_s.7_0_A/7_0_1OB?contentidonly=true&contentid=2005/05/0189.xml)。「患畜や疑わしい牛由来でない」ことを確認する最も確かな方法は、「インスペクション」ではなく、飼料規制の有効性やこれを確認するための適切なサーベイランスの結果などを中心的考慮要因とする国(または国内地域)のBSEリスク評価である。これが最初から除外されているわけだから、農水省が「患畜や疑わしい牛由来でない」ということが保証されたと解釈するならば、そんな解釈は通用しない。

 このような解釈をして日本が基準改訂に同意したのだとすれば、この解釈は間違っており、甘すぎる。しかし、こんな解釈は通用しないことは承知の上、国内向けの説明のために考え出したとも考えられる。実のところ、肉のSRM汚染さえ回避できれば十分として改訂を飲んだのではないかと疑われる。日本が改訂反対の第一の理由として掲げたのが、肉のSRM汚染の恐れであった。さらに、米国産牛肉(だけでなく内蔵まで)の輸入再開の条件に関する食品安全委員会への諮問では、飼料規制の有効性の評価を除外しているのだから、本音では牛肉・内蔵が「無条件物品」と考えていると見る方が「合理的」だ。

 日本の反対理由には、「感染牛は完全に処分すべきという規定を他の部分に含むBSEコード改正案そのものや同様のWHO勧告(96年)と整合性を欠く」、「これら組織の感染性に関してなされた試験は限られており、リスク管理措置の変更につながるような新たな知見はない」というものも含まれていた。さらに、「わが国で発見された感染牛の特定危険部位(SRM)以外の組織(10例目の緊急と殺牛の大腿、腰の末梢神経、11例目農場死亡牛の座骨神経、頚骨等の末梢神経組織、副腎)に微量の異常プリオン蛋白質が検出された事実」への留意も求めていた(⇒農水省、OIE/BSEコード改正案へのコメント提出 具体性欠くリスクステータス決定の「厳格な要件」,05.5.12)。これらの未知のリスク要因は完全に無視されたわけだが、これについて何も言わないところを見ると、こんなことに本気で拘るつもりも最初からなかったと考えることも「合理的」だ。

 国内向けの「建前」を通すことよりも、米国産牛肉の輸入再開の条件を整えることを優先した、というよりも関心はそこにしかなかったというべきだろう。

 ただし、米国の全面勝利とも言えない。無条件物品となった肉は「骨なし肉」に限られる。内蔵を含むその他の肉の無条件輸出のためには、米国がBSE「清浄国」であることを証明せねばならない。もしそれが証明できなければ、骨なし肉についてさえ、他の諸条件を満たすことを立証せねばならない。原案のようにスタンニングやピッシングを受けていないことだけが条件ならば、米国は簡単に立証できただろう。しかし、合意案では、骨なし肉が由来する牛が30ヵ月以下であり、かつSRMとの接触がなかったと畜場・加工工場かのものであることを立証せねばならない。個体識別・追跡システムも不完全な現状で、これをどう立証するのだろうか。米国にも新たな壁が立ちはだかっているはずである。

 

 

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