件名 : 北海道のGMイネ 監視市民センターより

日時 : 2003年5月15日

 

時事情報

低温耐性イネ 開発中品種

農業研究機構・北海道農業センター・北海道グリーンバイオ研究所

 

イネのAPX遺伝子は、幼苗時の高温によりスイッチが入り、低温に強くなる特性を示す。このAPX遺伝子を高発現ベクターにつないで、ユキノヒカリに組み込む。その結果、低温耐性、乾燥耐性がみられた。(http://www.cryo.affrc.go.jp/kikaku/info/press/20010928.html)

イネを高温にさらすと逆に低温に強くなる性質に着目し、その性質が常時発現するようにしたイネを開発。あわせて乾燥耐性を持つことが判明。(北海道新聞02年1月19日)

 

活性酸素消去遺伝子で低温に強いイネを作る

 

◆要旨

 熱帯原産のイネは、コムギなどとは異なり、低温に慣れて強くなる能力を持っていません。しかし、高温に曝されると低温に強くなることを私たちは発見しました。そこで、なぜそのようなことが起こるのかを遺伝子の発現レベルで調べてみました。すると、低温ストレス下で発生して細胞を傷つける活性酸素を消去する酵素遺伝子のスイッチが、熱ショックによってONになり、その結果、低温に強くなることが分かりました。この遺伝子を常に高いレベルで発現するように遺伝子操作した組換えイネを作ったところ、このイネは低温に強くなっていました。

 

◆研究開発とねらい

 熱帯・亜熱帯原産の植物の多くは、12℃以下の低温に長く曝されると著しい低温傷害を受けます。中には低温馴化により耐性が増すものもありますが、イネはこの能力を持っていません。ところが、イネの幼苗を高温処理すると、低温耐性が大幅に強化されることが分かりました。そこで、イネ幼苗が高温処理で低温に強くなるしくみを明らかにし、そこで重要な働きをする遺伝子に遺伝子操作を施した組換えイネを作ることによって、イネの低温耐性強化法の開発を試みました。なお、この研究成果は、(株)北海道グリーンバイオ研究所との共同研究(高温誘導性遺伝子によるイネ幼苗への耐冷性付与に関する研究)によって得られたものです。

 

◆結果の概要

1)イネの幼苗は高温で低温に強くなる。

イネの幼苗(播種後7〜10日、草丈10cm前後)を42℃で6時間以上処理すると、低温耐性が著しく向上しました。24時間処理で最大の効果が得られました。

 

2)高温処理で、活性酸素消去系酵素のひとつ、アスコルビン酸パーオキシダーゼ(APX)の活性が高まる活性酸素除去系酵素のうち、APXの活性が高温処理で向上することが分かりました。一度上昇した活性は、その後5℃で7日間低温処理した後でも高いままでした。

 

3)高温でAPX遺伝子のスイッチがONになる

APX遺伝子のスイッチに相当するプロモーターという領域の塩基配列を調べたところ、そこには、熱ショック転写因子(HSF)というタンパク質が結合するための配列があることが分かりました。すなわち、熱ショックによって作られたHSFが、この配列に結合することにより、APX遺伝子にスイッチが入るのです。ノーザン解析法という方法でAPX遺伝子の発現量(mRNAの量)の変化を調べたところ、実際にこの遺伝子の発現量が高温によって高まることが確認されました。

 

4)APX遺伝子を高発現させた組換えイネは低温に強い

イネから単離したAPX遺伝子を高発現ベクター(pMLH7133、Mitsuhara et al.,1996)につないで、アグロバクテリウム法でイネ品種「ゆきひかり」に導入し、組換えイネを作りました。このイネの低温耐性を調べたところ、原品種の「ゆきひかり」の生存率が0%になるような厳しい低温処理を行っても、組換えイネは、30%以上が生き残ることが分かりました。

 

 以上のように、高温処理でイネの低温耐性が向上するのは、APX遺伝子のスイッチが高温でONになり、活性酸素を消去する能力が高まるからであることが分かりました。さらに、遺伝子組換えにより、APX遺伝子をイネで高発現させると、低温耐性が向上することも分かりました。また、この組換えイネは、乾燥耐性も大幅に向上するなど、低温以外のストレスにも強くなっていることを示す実験結果も得られています。本法を用いて、イネの生育初期における低温耐性を改良することができれば、北海道のイネの直播栽培の安定化などに役立つのではないかと期待しています。

 

連絡先 独立行政法人農業技術研究機構北海道農業研究センター 

地域基盤研究部冷害生理研究室(佐藤 裕)

062-8555 札幌市豊平区羊ヶ丘1番地

Tel 011-857-9312 Fax 011-859-2178

 

<共同研究機関>

(株)北海道グリーンバイオ研究所

069-1301北海道夕張郡長沼町東5線北15号

北海道グリーンバイオ研究所 (猿山晴夫・谷田昌稔)

Tel 01238-9-2046 ・ Fax 01238-9-2641

 

 

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