"種子のGM汚染"

Nature Biotechnology

Vol 19:7 pp. 613

アレクサンダー・ハスルバーガー

2001年7月

抄訳 山田勝己

 

編集者へUS連邦検査官による11月以来の検査でスターリンクが11万検体の10%近くに現れたと米国農務省が発表しました。 食品として未承認のスターリンクが、作付け面積に比して大幅に蔓延していることが次第に明らかになってきている。

 

ここ数ヶ月、種子のGM汚染やヨーロッパのトレーサビリティ、改訂GM規制に盛り込まれた表示義務化が、アメリカの重大な貿易問題になっている。 Cry9C蛋白を含む種子の回収要請でショックを受けた全米種子貿易協会は、種子の現実的なGM閾値を取り入れるよう呼びかけている。

 

現在欧州委員会では、それぞれの品種の受粉特性や種子の寿命に基づいて、提案された種子生産におけるGMOの暫定的・空間的条件と汚染許容範囲を検討している。 同時に、汚染の広がり、汚染の結果どうなるのか、また汚染のレベルや種子生産対策で本当に問題が解決するのかといった検討も別に進められている。 遠く離れた場所への花粉の飛散は複雑で、従来の種子生産の方法では汚染のない種子を得るのは現実的に不可能と思える。

 

500m地点で最大0.75%の花粉飛散、そして蜂によるトウモロコシ花粉の移動、気象条件によっては長距離に達する移動が、英国花粉研究班の調べで分かっている(3)。

 外部交配、優勢選択(selective advantages)、そして自然や農業生態への遺伝子流出については良く分かっていないので、GMによる種子汚染がどれほど生態系に影響があるのか分からない。 遺伝子の流出はその空間に遺伝子ドナーがどれくらい存在するかで違ってくる(4)。 EU植物科学委員会は、汚染は避けられないと結論している。 特に第3国からの未承認GM種子が全く入らないということは事実上あり得ないので、GM野外試験やGMの新品種評価(5)に重大な影響が出る。 その上、国際的なDNA配列のデータベースや強力(robust)な分析法がないので、第3国からの未承認GMが全く検出できない可能性があり、対策は非常な困難を伴う。

 

種子汚染によるリスクは殆ど理解されていない。 GMのリスクと恩恵はケースバイケースで異なる。 しかし今のところ種子のGM汚染が環境リスクを伴うというデータはまだない。 少なくとも最近の組み換え手法によるものは、雑草性や浸潤性においては在来種と変わらない(6)。 GM植物によっては、農業生態系に恩恵をもたらすものもあると報告しているエコ調査もある。(7)。

 

 また、承認されたGMで汚染された種子による食品や飼料にはリスクはない。 殆どの国の規制では、GMOの承認は在来植物体と比較して毒性やアレルギー性成分が実質的同等性の原則に則って厳密に検査されている(8)。  その上、種子の汚染許容値では、試験圃場からの未承認GMによる種子汚染で起こるアレルギーには対応していない。 つまり、もともとナノグラムレベルの蛋白量だが、「汚染の許容レベルより低く」とも、理論的にはアレルギー反応をひきおこす場合もある。 更に、種子の汚染許容値をいくら小さくしても食品中の遺伝子組み換え成分表示とは連携していない。 つまり、種子の生産管理と食品加工現場では、食品表示での最大限の許容範囲(例えば、ヨーロッパの新規食品の規制)と種子の汚染度との相関が殆ど無い。 

 

問題は、世界中の市民や消費者がGMフリーの食品や飼料を求めていることだといえる。有機農業ではGM作物が禁じられ(9)、特別に貴重な自然生態系では、GM品種が入り込むと害を起こしうる。

 

種子生産に暫定的かつ距離的制限による許容レベルを設定するだけでは不十分だろう。 自然な遺伝子の拡散による人工遺伝子の流出や今後も続くGM育種、ターミネーターの廃止、農民による種子の伝搬等を考えると、環境や食品の汚染は拡がるばかりだろう。 これらのことを考えると、可能な解決策は、GMを全く取り入れていない地域、少なくとも類縁種を作っていない地域で種子を生産することだろう。 

従って、自然保護と種子生産のためのGMOフリー地域という、最近ヨーロッパで話し合われている考えは、注目に値する。

 

References

 

  1.. Haslberger, A.G. Science 287, 431-432 (2000).

  2.. http://www.amseed.com/documents/index.html

  3.. A report from the National Pollen Research Unit (2000).

http://www.soilassociation.org/

  4.. Wolfenbarger, L.L. & Phifer, P.R. Science 290, 2088-2093 (2000).

  5.. http://europa.eu.int/comm/food/fs/sc/scp/outcome_gmo_en.html

  6.. Crawley, M.J., Brown, S.L., Hails, R.S., Kohn D.D. & Rees M. Nature

409, 682-683 (2001).

  7.. Johnson, B. & Hope, A. Nat. Biotechnol. 18, 242 (2000).

  8.. Nowak W.K. & Haslberger, A.G. Food Chem. Toxicol. 38, 473-483 (2000).

  9.. http://www.codexalimentarius.net/Reports.htm

 

 

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