変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)に係る
感染経路について(概要)
|
平成17年2月4日にvCJDの確実例と判断して以降、御家族及び主治医等へのヒアリング調査、御本人のパスポート及び出帰国記録による渡航歴の確認、により、以下の主な調査結果が得られた。
○
|
1990年前半に、vCJD患者発生国である英国に24日間程度、フランスに3日間程度滞在。
|
○
|
国内の食生活及び英国での食生活ともに、牛由来食品の喫食があった。なお、英国において摂取したとされる食品の中に、vCJDの発生原因である可能性が指摘されている、MRM(機械的回収肉)を含有している食品に該当するものが含まれていた。
|
○
|
手術歴、輸血歴、歯科治療歴、鍼治療歴等は無かった。
|
vCJDの感染経路については、(1)BSE牛の経口摂取、(2)vCJD患者の血液による感染、(3)観血的な医療行為等に伴う感染、が考えられるため、以下の点について検証した。
1)
|
(2)や(3)については、考えられる主要な感染経路を調査した結果、これらを経路とした感染の可能性は、ほぼ無いものと判断された。
|
2)
|
(1)BSE牛の経口摂取の可能性
○
|
1990年当時のフランスにおける曝露の可能性、日本における曝露の可能性は否定できないが、vCJD患者発生の曝露リスクの一つの目安として、BSE牛の頭数が最も多い1990年当時の英国における曝露リスクは他国より相対的に高いと判断される。
|
○
|
BSE牛の経口摂取の可能性の検討については、vCJDの発症閾値の存在が考えられるものの、限られた情報の下で検討するため、BSE牛を経口摂取しうる蓋然性の検討となり、「牛由来食品の食事回数とその量」並びにその牛由来食品がBSE牛由来であるかは供給元である「BSE牛の頭数」と関係すると思料される。
このようなことから、英国滞在時の曝露の可能性が最も高い説明力を有する。
|
|
感染経路の厳密な特定は、曝露が疑われる期間から既に長期間が経過しており、情報が限られていることなどから困難であるが、いずれの感染経路が最も高い説明力を有するかを検討した結果、上述の情報に基づけば、他の可能性を完全に否定するものではないものの、英国滞在時の曝露の可能性が有力、との判断に到った。
変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)に係る感染経路について
|
平成17年3月7日
厚生科学審議会疾病対策部会
クロイツフェルト・ヤコブ病等委員会
|
平成17年3月5日に開催された、CJDサーベイランス委員会における調査・検討の結果を踏まえ、厚生科学審議会疾病対策部会クロイツフェルト・ヤコブ病等委員会(以下、「委員会」という。)として、標記について、以下のとおりとりまとめた。
なお、二次感染調査については、引き続き行っていくこととしている。
平成17年2月4日にvCJDの確実例と判断して以降、感染経路を把握するため、以下の調査を実施した。
・
|
御家族及び主治医等へのヒアリング調査
|
・
|
患者御本人のパスポート及び出帰国記録による海外渡航歴の確認
|
1)
|
海外渡航歴の状況
御家族へのヒアリング、患者御本人のパスポート及び出帰国記録の調査から、次の内容が確認された。
○
|
1990年前半に、vCJD患者発生国である英国に24日間程度、フランスに3日間程度、vCJD患者非発生国に2週間程度滞在。
|
○
|
1976年〜1979年にかけて、vCJD患者非発生国への渡航歴がある。
|
|
2)
|
食生活について
御家族へのヒアリングから、次の内容が確認された。
(1)
|
国内の食生活
○
|
偏食は無かった。外食は少なく、和食中心の家庭料理がほとんどであった。
|
○
|
牛肉の摂取は月に2〜4回程度。なお、家庭料理では内臓を用いた料理は無かった。
|
|
(2)
|
海外渡航当時の食生活
ア
|
英国
○
|
朝食は、日本食が多く、昼食・夕食は主に現地食。
|
○
|
地方の庶民料理を好む。キドニーパイ、ローストビーフ、ブラックプディング、カレー、ソーセージ(豚又は羊)、ハンバーガー、グレイビーソースを喫食。なお、キドニーパイ以外の内臓を用いた料理を喫食したか否かは、不明。
|
|
イ
|
その他渡航国
|
|
|
3)
|
手術歴、輸血歴等について
御家族及び主治医等へのヒアリングから、次の内容が確認された。
○
|
手術歴、輸血歴、歯科治療歴、鍼治療歴、ピアス、刺青等は無し。
|
○
|
海外渡航中の医療機関受診歴は無し。
|
|
3.
|
英国等渡航当時におけるBSE及びvCJD患者の発生・対策の状況
|
|
1)
|
海外の状況
渡航先国の中、vCJD患者発生国は英国及びフランスであり、これらの国の状況については以下のとおり。
(1)
|
BSE及びvCJD患者発生状況
ア
|
英国
・
|
1990年当時、BSEの発生が確認されていたのは英国及びアイルランドであり、その大多数(約99%)が確認された英国では、1989年は7,228頭、1990年は14,407頭、1991年は25,359頭となっている(2005年3月3日現在、国際獣疫事務局調べ)。
|
・
|
vCJD患者の発生については、1994年1月に初めて確認され、これまで154例が報告されている(2005年2月8日現在)。
|
|
イ
|
フランス
・
|
フランスにおいては、1990年6月、BSEを家畜伝染病に指定し、届出を義務付けたことから、1990年以前の正確な統計は得られていないが、1991年は5頭、1992年は0頭となっている(2005年3月3日現在、国際獣疫事務局調べ)。
|
・
|
vCJD患者の発生については、1994年2月に初めて確認され、これまで9例が報告されているが、これらの患者については、英国滞在歴はない(2005年2月8日現在)。
|
|
|
(2)
|
対策の状況
ア
|
英国
・
|
BSEに関する食品安全対策については、1989年11月に脳、脊髄、脾臓、胸腺、扁桃、腸を「特定危険部位」として、法的に食用目的の販売を禁止した。
|
・
|
また、英国食品基準庁のBSE対策評価報告書〔2000年12月報告〕において、vCJDの発生原因である可能性が指摘されている頭肉(head meat)及びせき柱などを用いたMRM※については、
(1)
|
頭部は1992年3月に脳除去後の頭部の肉の使用を禁止、さらに1996年3月には「特定危険部位」に指定され食用禁止措置がとられた。
|
(2)
|
せき柱は1995年12月に禁止措置がとられた。
※
|
mechanically recovered meat, 機械的回収肉:肉の付着した骨を粉砕したのち、骨くずを除いて回収された挽肉。
|
|
|
|
イ
|
フランス
・
|
フランスにおいては、1989年8月に英国からの反芻動物への飼料としての肉骨粉輸入禁止措置をとっている。国内対策として、1990年12月にBSE牛把握のための監視体制を構築し、1996年3月に英国からの牛の輸入を禁止した。更に、1996年6月に脳、眼、せき髄について特定危険部位として、食用及び家畜飼料からの除去並びに焼却処分を実施。1997年1月MRMの製造禁止。
|
|
|
|
2)
|
国内の状況
(1)
|
BSE及びvCJD患者発生状況
・
|
1996年4月、BSEを家畜伝染病及び食肉検査の対象疾病に指定し、監視対象とした。2001年に3頭のBSEが初めて確認され、2005年3月までに計15頭となっている。
|
|
(2)
|
対策の状況
・
|
1951年以降、英国本島からの牛肉について、1990年7月以降、英国からの生きた牛について輸入停止措置を講じた。1996年3月、英国本島からの牛肉加工品及び肉骨粉等、北アイルランドからの牛肉について輸入を停止した。
|
|
|
vCJDの感染経路については、(1)BSE牛の経口摂取、(2)vCJD患者の血液による感染、(3)観血的な医療行為等に伴う感染、が考えられるため、(1)御家族及び主治医等からの情報、(2)過去の全てのパスポート等による情報から、上記2、3を踏まえ感染経路について検証した。
1)
|
(2)vCJD患者の血液による感染や、(3)観血的な医療行為等に伴う感染については、考えられる主要な感染経路を調査した結果、過去の手術歴等から、これらを経路とした曝露の可能性は、ほぼ無いものと判断された。
|
2)
|
(1)BSE牛の経口摂取の可能性
(曝露リスク)
○
|
「3.英国等渡航当時におけるBSE及びvCJD患者の発生・対策の状況」を踏まえると、1990年当時のフランスにおける曝露の可能性、日本における曝露の可能性は否定できないが、vCJD患者発生の曝露リスクの一つの目安として、BSE牛の頭数を考えた場合、1990年当時の英国における曝露リスクが他国より相対的に高いと判断される。
|
○
|
英国において摂取したとされる食品の中に、英国食品基準庁のBSE感染源プロジェクトMO3108(2002年10月)が提示している、MRMを含有している食品に該当するものとして、ハンバーガー、グレイビーソース等が含まれている。
|
(短期間曝露での発症の可能性)
○
|
これまでヨーロッパ以外で発症している、米国及びカナダの事例は、各々1979年〜1992年、1987年〜1990年にかけ英国に滞在歴があるが、本事例は24日程度と短期間の滞在となっているため、発症閾値が重要となる。
|
○
|
ヒトにおけるvCJDの発症機序はまだ解明されていないが、英国獣医研究所において牛がBSEを発症するBSEプリオンの最少量(閾値)については、BSE牛の脳組織0.1g、0.01g、0.001gを経口投与した場合、0.1g投与群で15頭中3頭、0.01g投与群で15頭中1頭、0.001g投与群で15頭中1頭の発症が確認されている(「日本における牛海綿状脳症(BSE)対策について 中間とりまとめ」(平成16年9月 食品安全委員会)報告より)。
|
○
|
このように、個体差はあるにしても、少量において発症する牛の事例が存在しており、これをヒトの場合にそのまま適用することは無理があるとしても、ヒトにおいて少量のBSE牛の経口摂取をもって発症し得ないとはいえない。
|
以上のとおり、ヒトにおいても発症閾値の存在が考えられるが、BSE牛の経口摂取の可能性の検討は、限られた情報の下で検討するため、BSE牛を経口摂取しうる蓋然性の検討となり、「牛由来食品の食事回数とその量」並びにその牛由来食品がBSE牛由来であるかは供給元である「BSE牛の頭数」と関係すると思料される。
このようなことから、フランスでの食生活が不明なことなどもあり、フランス及び日本における曝露の可能性を完全に否定するものではないものの、英国滞在時の曝露の可能性が最も高い説明力を有する。
|
感染経路の厳密な特定は、曝露が疑われる期間から既に長期間が経過しており、情報が限られていることなどから困難であるが、いずれの感染経路が最も高い説明力を有するかを検討した結果、上述の情報に基づけば、他の可能性を完全に否定するものではないものの、英国滞在時の曝露の可能性が有力、との判断に到った。
なお、本症例はBSE牛の経口摂取による曝露が短期間に行われたと考えられたものであるが、より厳密に感染経路を判定するためにも、今後、発症機序解明の研究がより一層進むことを期待する。
戻る・TOPへ