破綻しているバイオ防御

 

ISISレポート

2001年11月9日

抄訳 山田勝巳

 

ワクチンでは防げない、というより始末に負えない。

劇的かつ大胆な声明「1」で、このたびジョージ・W・ブッシュ大統領は、去年7月に話し合いを拒否したその生物兵器協定を遵守させるための手続きの必要性を訴えた。 更に病原性生物の遺伝子操作の監督機関、生物科学の世界共通の倫理規定そして病原性生物の研究、使用、組み換え、輸送には責任ある行動を求めた。

この明らかな180度の方針転換は、バイオ兵器と遺伝子工学の両方に国際的防御網がなければ、生物兵器を防げないという気付きによるのではないだろうか[2]。 

炭疽菌攻撃に続いた事件は、生物戦争の備えが全く出来ていないことを暴露した。 

Dr.メイ・ワン・ホーが報告する。

 

署名募集ISIS call for international peaceful control of Bioweapons & GM (ISISのHPに掲載)

 e-メール して下さい。

 

ワクチンは生物兵器の要で、ワクチンの研究が生物防御研究所の主要な仕事であるとまだ考えられている。だが、9月11日のテロ攻撃の2ヶ月前、アメリカ国防省(DoD)は、独立専門家委員会の報告を議会に送っている。 その中で、軍のワクチン開発システムは軍隊を炭疽菌、天然痘、その他の生物兵器から守るには「不十分で失敗する」と結論されている。

 

基本的問題は、未知の病気に対してどうやってワクチンを開発するか、だ。 そして、罹病者が必要十分に居ない状況でワクチンの効果や安全性がどう評価できるのか。

 

1990年代半ば、国防省は、軍研究者の先行き有望であったものを外部業者に請け負わせ、そこがまた孫請けに出す合同ワクチン獲得プログラム(JVAP)を設置した。 現在JVAPはワクチン候補を8種持っている。 このプログラムは、酷い悲惨だと形容されていて、独立委員会は、これを廃棄して政府の生産工場で自前のワクチンを作れる軍の32億ドルプログラムに替えるよう求めている。 

 

しかし、ワクチンは答えになるのだろうか。 生物戦争医薬のリストの上位2項目:天然痘と炭疽菌への対応だけでも気がかりなことがある。

 

天然痘は絶滅しており、そのようにWHOが1980年に宣言した。 このウィルスのサンプルは、ジョージア州アトランタにあるアメリカ疾病予防センター(CDC)とソビエト連邦、ノボシビルスクにある国家ウィルス学生命工学研究センターにだけ残っている。 ソビエト連邦崩壊までは、天然痘ワクチン自体も危険なのでワクチン生産も止めた。 テロリストがノボシビルスクの在庫を手に入れるのではないかと怖れられている。 と同時に、ソビエト連邦は、冷戦末期には大規模な生物兵器研究を行っていた事が明らかになった。

 

 天然痘はバイオテロの最大の脅威といわれている。 致死率は30%以上で人から人へ伝染する。 定期的予防接種を20年近く前に世界中で止めている。 今ではこれまで以上に人々が世界中を頻繁に旅行するようになっており、その分病気の伝搬も急速になる。

 

アメリカでは予防接種を1972年に止めており、30歳以下の若いアメリカ人数千万人は、一度も予防接種を受けていない。  数十年前に予防接種を受けた人も免疫が切れているだろう。 政府は、医師が天然痘を認知できるように訓練しており、どこかで発生した場合に封じ込めるために駆けつける専門家グループに予防接種をしている[4]。

 

 疾病センター担当官は、大規模な天然痘予防接種は計画していない。 WHOの見積もりでは世界中に約6000万回分のワクチンが残っており、アメリカには約1540万ある。 だが、この古いワクチンとワクチンに対する拒否反応解毒剤は、どちらも劣化している[5]。 予防接種のもう一つの問題は、現存する天然痘ウィルスには多くの株があって、その特性は分かっておらず、一つの株に対するワクチンは他の株には効かないものもあるだろう。 特に、遺伝子組み換えで免疫が起きないように設計されている場合は効かない[6]。 集団予防接種に反対するもう一つの理由は、特に天然痘が発生していない状況では、恩恵よりも危険の方が大きいからだ。

 

 1968年に始めて天然痘のワクチンを受けた550万人のアメリカ人の中8名が死亡した。 百万人に2人は、体と筋肉を破壊する致命的ワクシニア・ネクロサムとして知られる反応を起こした。 百万人に約4人は、脳炎を起こした。 稀に起こる副作用として、激しい湿疹が起きたり、HIVなどの免疫不全がある人には、危険な水痘がある。 今ではHIVやその他のウィルス、抗ガン剤、臓器移植の拒否反応防止などで免疫力が弱まっているアメリカ人が数十万人居る。 このような人達はワクチンで発症し、他に感染して、流行が起こる可能性がある。

 

 だから、天然痘の“標準疫学対応”では、病気を識別して、隔離し、患者の症状が出てから1週間以内に接触した人にワクチンを与え、監視すると教わった。 Emerging Infectious Diseases(進行感染症)最新号に、計算モデルがあってこのやり方では、アメリカだけで4000万の在庫が必要になると出ている[7]。 つまり、新たなワクチンを作らなければならないということだ。 しかし、この病気が地球規模で絶滅した今、安全性はともかくどうやって新しいワクチンの効果を確認するのか。 ワクチン研究のために痘瘡で故意に人に感染させるのは倫理的ではない[8]。

 

 FDAはこの行き詰まりを打開しようとしている。 重傷になったり、命に関わるような状態に陥る事を防ぐために、人での適切で良く管理された効果測定なしに、しかるべき動物実験だけで割り出された効果証明に基づいて開発した新しい薬品やバイオ製品を承認するために提示したルールへのコメントを募集した。 言い換えれば、緊急事態では、人は実験台にならざるをえないのだ。 医薬品の大企業は、3億回分の天然痘ワクチンをもぐりの「治検新薬」としての数ヶ月中に生産するよう強いられている。 

 

 天然痘の効果的な治療法はない。 抗ウィルス薬シドフォビルは31株の痘瘡に効果があるが、これは試験管の中だけの話だ。 サル痘に暴露した猿も防げた。 しかし、人間の天然痘には効果があるのだろうか。

 

 炭疽菌ワクチンは既に存在しているが、製造元のバイオポート社(ミシガン収攬寝具)は1998年に製造を中止している。 200万回分中180万はクリントン政権が軍の予防接種に使っており、残りの24000回分も軍専用になっている。 バイオポート社のワクチンは、多種蛋白質の混合液で、炭疽菌でも弱毒性の株を濾したものである。 完全防御には6回接種が必要で、毎年追加免疫が必要だ。 このワクチンが新たな論争の焦点になっている[9]。 

 

 炭疽菌の脅威に対して民間人へのワクチンを求める圧力の中で、湾岸戦争前にワクチンの製造工程に、ワクチンを危険域まで増強するような未承認の変更が加えられていた証拠が出てきた。

 

CDCは、最近疑わしい炭疽菌のサンプルを扱った800人の実験室技術者に予防接種を受けるよう推奨した。 また高速仕分け機の近くで働く郵便局職員への予防接種の推奨も検討している。

 

しかし、退役軍人や軍関係者は炭疽菌ワクチンが危険だと苦情を言っている。 軍の生物戦争防衛ラボの研究者達は、別のフィルターに替えられた1990年以降に製造されたバッチには、炭疽菌ワクチンの活性成分の濃度が100倍に達するものがあることを発見した。 退役軍人や軍関係者の苦情を検討していた会計検査院の調査員によって、これ迄未公表だった報告書が発見され、10月下旬に公表された。

 

どれくらい危険なのかは分かっていない。 死んだ炭疽菌バクテリアからの‘保護抗原’が、炭疽菌毒性の鍵で、これが免疫システムを刺激して抗体を作る。 これが多すぎることがある。

 

「特定の状況下では免疫システムの刺激過剰で免疫不全になることがある。」と、前英国炭疽菌ワクチン計画の長でGAOのコンサルタントであるジャック・メリング博士はいう。 退役軍人が1990年に受けた炭疽菌ワクチンが、慢性的痛み、皮膚発疹、めまい、記憶喪失、集中力減退などを示す湾岸戦争症候群と何らかの関係があるという、彼らの疑いを報告書が裏付けて居る。

 

240万軍人に予防接種をしようとする国防省に対し、接種を受けた人に危険な副作用が多すぎるとして兵士、水兵、航空兵が強硬に反対しているのは、驚くまでもない。

 

スポケーンのサンドラ・ラーソン軍専門家は、6回目の接種を受けた後、形成不全貧血症で死亡した。 先週遺族が、ワクチン製造元のバイオポート社をワクチン製造に落ち度があったとして訴訟を起こした。

 

バイオポート社は、炭疽菌ワクチンの危険性はジフテリアや百日咳(これにも批判がある[10])のような小児用のワクチンと同程度だと主張している。 バイオポート社は、1970年来ワクチンを製造してきたミシガン州公衆保険局から1998年に炭疽菌ワクチンの製造権利を取得している。  ワクチンは、湾岸戦争までは、主にこの稀な病気に接触する可能性のある実験室作業者や獣医に対して使われていた。

 

国家安全小委員会への軍の報告では、国防省と契約していたミシガン州公衆衛生局が、FDAの許可もなしにワクチンを作る容器と精製するフィルターを変更していたことが記述されている。

 

アメリカン・エアラインのラッセル・ディングルは、予防接種を拒否してコネチカットの空軍州兵を辞任している。 彼は、安全な医薬品を確保するために作られたルールを製造者が何度も無視していることを報告書が強調しているといっている。 

 

 民間人に対する天然痘や炭疽菌攻撃の可能性をと対応する困難さは、多かれ少なかれ生物兵器全てに言える。 ワクチンは生物防御にとっては、役立たず以上に悪さをする可能性がある。 現在公式に認識された予防接種の副作用は、ウィルス学者の独立研究で明らかになりつつあるように、これまで知られている以上に広範である可能性がある[10]。 例えば、HIVの遺伝子組み換えワクチンは、多くの途上国で大規模な臨床試験で気付かずに緩効性の生物兵器として使われている[11]。

 

戦争対立を無くし、生物兵器と遺伝子組み換えを国際的平和管理下に置くことが緊急課題である。

 

  1.. "Strengthening the International Regime against Biological Weapons"  Statement By The President, The White House, Office of the Press Secretary, November 1, 2001.

  2.. See "GM & Biowarfare. Scientists Call for International Watchdog", ISIS News 11/12,

October 2001, ISSN: 1474-1547 (print); ISSN 1474-1814 (online) www.i-sis.org

  3.. Cohen J and Marshall E. "Vaccines for biodefense: A system in distress".

Science 2001, 294, 498-501.

  4.. "U.S. Sets Up Plan to Fight Smallpox in Case of Attack" By Lawrence K. Altman,

New York Times, Sunday, November 4, 2001,

http://www.nytimes.com/2001/11/04/national/04CDC.html

  5.. LeDuc JW and Becher J. Letters. Current status of smallpox vaccine. 

Emerg Infect Dis 1999, 5(4),593-4.

  6.. Fraser CM and Dando MR. Genomics and future biological weapons: the need for preventative action by the biomedicl community. Nature genetics 2001, 29, 253-6.

  7.. Meltzer MI, Damon I, LeDuc JW, and Millar JD. Modeling Potential Responses to Smallpox as a Bioterrorist Weapon. Emerging Infectious Diseases 2001, 7.

     http://www.cdc.gov/ncidod/eid/vol7no6/meltzer.htm

  8.. Rosenthal SR, Merchlinsky M, Kleppinger C, and Goldenthal KL. Developing New Smallpox Vaccines. Emerging Infectious Diseases 2001, 7 

http://www.cdc.gov/ncidod/eid/vol7no6/rosenthal.htm

  9.. "Anthrax vaccine report shows spikes in potency" by Sabin Russell, San Francisco Chronicle, Friday, November 2, 2001, http://www.sfgate.com/cgi-  srussell@sfchronicle.com.

  10.. Moskowitz R. Vaccination: A sacrament of modern medicine. The Homoeopath 12: 137-144,

March 1992.

  11.. "AIDS Vaccines Trials Dangerous" by Mae-Wan Ho, ISIS News 11/12,October, 2001,

ISSN: 1474-1547 (print); ISSN 1474-1814 (online) www.i-sis.org 

Acknowledgement: Many Thanks to Billi Goldberg BiGoldberg@aol.co for sending crucial papers and information

 

 

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