破壊の種まき
チャールズ・ベンブルック (客員コラムニスト)
ニューヨークタイムズ(アイダホ州 サンドポイントにて)
2003.7.11
(訳) 芦川 誠三
ブッシュ大統領がアフリカに行き、飢えについて語ったことは評価できるが、その問題に対する提案は事態をかえって悪くしているように思える。
アメリカの農業貿易政策、とくにアメリカ式のバイオテクノロジー農業は、飢えの緩和にはほとんど役にたたない。大統領訪問前数週間に、政府はバイオテクノロジーと遺伝子組み換え食品の振興を加速させている。5月に、アメリカは、WTOにEUの遺伝子組み換え穀物承認延期について提訴しているが、欧州の政策は、いくつかのアフリカの国をして、反バイオテクノロジー化し、アメリカのアフリカ救済を無為にするというのである。先月、大統領は、バイオテクノロジー指導者達に向けた演説において、「我々は、最新の穀物生産方式の恩恵を分かち合うことにより、飢饉に悩む国々を助けねばならない」と語った。アフリカの農民が新しい知識と技術の恩恵に浴するというのはその通りであろう。しかし、我々がどういうテクノロジーを提供すべきかについて、彼は間違っている。アフリカの農民は、アメリカ式の遺伝子組み換え作物の生産を必要としないし、望んでもいない。アフリカが興ざめしているのは容易に理解できる。
遺伝子組み換え作物の第一世代である、とうもろこしと大豆は、アメリカの大規模機械化農家における害虫駆除を容易にするために生まれたものである。小規模、多品種で、人的労働に頼るアフリカの農家にはほとんど効果がない。それら技術が経済的に意味をもたないのである。アメリカでは、種子のコストは約35%高いものの、害虫駆除費の削減か計画以上の収穫により、ほとんどの農家で損得はでないようになっている。これら作物は、行き届いた灌漑があって初めて、より広い土地での耕作を可能にするものだからである。しかし、アフリカでは逆に、その利点は重荷になる。現金のない農家にとって、遺伝子組み換え種子は手の届かないもので、また、灌漑システムと水という完璧に近い生育条件を欠くことができないからである。また、特別な除草剤など十分な注意が求められ、間違ったものを使うと全滅してしまうこともある。アフリカでは、殺虫剤など、よくレーベルが間違ってつけられたり、あるいは表示なしで売られたり、字の読めないものが取り扱ったりしている、という、問題もある。実施に移すには、ほとんどのアフリカ人が対応することのできない、穀物の試験と環境の安全と健康について、政府は増大する責任と費用の負担を引き受けなければならない。
アフリカ人は、それら障害により、アメリカの努力は期待はずれになることを知っている。2002年の食料援助として、ザンビアに遺伝子組み換え穀物を導入するという提案がアメリカ政府の思い通りに運ばなかったのは、はっきりしている。ザンビアは拒否を言明したのである。昨年の夏、ヨハネスブルグで開かれた世界環境サミットで、バイオテクノロジーにかかわる世界的な緊張は沸点に達し、飢えの元凶についてのアメリカの思惑、軽重のおき方と理解の仕方について、問題が提起され、アメリカの政府・議会総出の圧力にもかかわらず、そのような食料援助ははっきり拒否されたのである。
アフリカの農家はたくさんの危機に直面している。旱魃の頻発、土壌の疲弊、商品価格下落によるやる気の喪失などである。土地保有のしくみ、遅々として進まない実際の働き手である女性への技術指導と資金融資、などの問題から、部族抗争やエイズの場合と同じように、生産性を落としているが、バイオテクノロジーはこれらの問題にはほとんど無為である。アフリカ人が、遺伝子組み換え種子を受け入れる唯一の道は、全く紐つきでない、種子と技術を提供することであるが、これはありそうにないシナリオである。その前に考えるべきは、アメリカは、アフリカ人自身が有用と思うものに、その資金と専門的意見を提供するのがいいのだということを持って瞑すべきである。
(当資料は、合衆国コード17綱・107章にもとづき、研究・教育目的にのみ頒布さるべきものである)