希望の米、ゴールデンライス
ゴードン・コンウェイ
ガーディアン 3月21日
訳 山田勝巳
米の遺伝子組み換えが進めば、途上国のビタミン欠乏を緩和できる可能性がある。
グリーンピースはGolden Riceを“間抜けのGold”と呼ぶが、何百万の命を救うと信じている栄養学者は多い。この米はベータカロチンを組み込んだものだが、GM論争の中でイデオロギーという潰れかねない大荷物を背負わされるはめになった。この小さな米粒は最も貧しい人々のためのものだ。
基本的事実を争うものはいない。世界で1億人以上の子供がビタミンA欠乏の影響を受けている。その結果、毎年200万の子供達が死に50万の子供が失明している。この子供達は、途上国の最も貧しい家庭に生まれて、先進国では当たり前になっているバランスの取れた食事が、全くないか摂れてもわずかだ。例えば、アジアの貧しい家族は米を主食としている。赤ん坊はお粥で離乳する。米にはビタミンAの元になるベータカロチンがない。葉や茎には一杯あるが、どの伝統品種にも米粒の内乳核にはない。(玄米にはわずかのベータカロチンがある。)
これがスイス連邦工学校のIngo Potrykus の仕事の成果で変わった。彼のチームは、水仙から2つ、バクテリアから1つの遺伝子を米に取り込むことに成功して、カロチンが米に確実に含まれるようにしたのだが、遺伝子組み換えの古い方法で行われたため、反GM活動家達はキーキー喚いている。
食品業界は開発に全く関わらなかったが、5000万ドルかけたGM食品の拡大キャンペーンの中で、利益だけではなく子供達を救える、と自分達の目的のためにゴールデンライスを利用している。
この売り込みは時期尚早で危険だ。ゴールデンライスを実現した科学は極めて未熟な段階にある。製品が完成域に達し十分なテストを行うまでは、どれほど上手くゆくのか、悪い副作用がないのか誰も分からない。
ささげ(cowpea)やジャガイモなどの主食に栄養素を追加するような役立ちそうな応用もすべきではない。反GM活動家の中には、この科学の真価を知る前に中止して、この科学自体をゴミ箱に捨ててしまえと極端な事を言う者もある。
ビタミンAの一日必要量を得るには、米をどれくらい食べなければいけないかという事ばかりがいわれる。これでは、肝心の欠乏症に目が行かない。総量ではなく欠乏症が問題なのだ。誰も米だけがビタミンAの供給源とは思っていない。最初のゴールデンライスの品種は改良されて子供の必要量の10-20%のベータカロチンが得られるようにならなければならない。殆どの場合これで子供は死を免れる。
こう言うとやる価値があるように聞こえるが、その場しのぎだと反対派は言う。そうではなく栄養失調の原因を無くさなければならないと。勿論それもやっているが、人々の生活を変えたり、生産形態を変えるには時間が掛かり、その間にも何百万もの子供が死んだり盲目になったりする。
根本的なことに集中すべきだという声も、全くの偽善とまでは言わないがこの類だ。ロックフェラー財団では、HIVのワクチンが開発されている(最初のものはケニヤで試験中)。これを全て止めて、資金を全て性行動を変えることに費やすか、エイズがはびこる原因である酷い貧困がなくなるまで待てと言うのか。ビタミンA欠乏症には他にも方法はあるし、試してきた(いくつかに資金提供した)が、皆欠点がある。
子供達に錠剤でビタミンAを年2回たくさん摂らせると死亡率は大きく改善される。いくつかの国はこれをやっているが、比較的高価なのと極貧の子供達には届けられない。毎日少しずつ与えたれば死亡率は更に改善される。理想的には農民が多様な自家野菜を作ることだが、多くの地域では長い乾期があり、その間わずかの果物か野菜しかない。その上、最近の研究で、葉物野菜にはベータカロチンが以前考えていたよりも格段に少ないことが分かった。ビタミンAの最善の供給源は、バター、チーズ、卵、レバーなどの動物性食品だが貧しいものには手が届かない。
栄養学者は、治療食や栄養補助食品や強化食品には同意しないが、組み合わせたり色々なやり方を動員しなければならないことは認めている。
ゴールデンライスが解決策の一つとなる前に、反GM活動家の挙げている問題点は解決しなければならない。注意深くテストすれば間違いなく答えられる。まず、この米が確実に貧しい人々の手にはいるようにすることと受け入れられること。第2にこの米を作ることで重大な環境問題が一切生じないこと。第3に健康障害が一つも出ないことだ。ベータカロチンは摂りすぎるということはないがアレルギーには注意する必要がある。
命を救う可能性がある限りは、その方策を探す道徳的責務がある。だから私は、グリーンピースのBenedikt Haerlinが最近出した“試験を妨害しない”という声明を歓迎する。他の反GM活動家達もお腹を空かした子供達のために、有力なキャンペーンの旗印(icon)を諦めることを期待する。
ゴードン・コンウェイはロックフェラー財団の会長である。