遺伝子組み換え食品論争がラテンアメリカを直撃
2002年12月17日
Yahoo news J.R. Pegg
Environment News
Service
ワシントンDC
2002年12月16日
訳 鴨下顕彦
ラテンアメリカとバイオテクノロジーについての討論会では、中南米諸国での遺伝子組み換え作物の将来像ははっきりしなかった。しかし、農業用バイオテクノロジーについての真の論争は、ヨーロッパ共同体(EU)とアメリカ合衆国の間にあることがはっきりした。
12月16日(月曜日)のアメリカ商工会議所(US Chamber of
Commerce)主催の“ラテンアメリカバイオテクノロジー討論会(Latin America
Biotechnology Forum)”では、メキシコとブラジル、アルゼンチンの遺伝子組み換え(GM)食品の受け入れ程度の違いを詳細に論じていた。これら3国では、農業関連産業はみなバイオテクノロジーの利用を熱望しているようだが、政府と市民はそうではない。これらの国はみな、大きな貿易問題を引き起こしかねないアメリカとEU間の論争の影響を受けている。
アメリカは世界の遺伝子組み換え作物の約2/3を生産しており、新しい遺伝子組み換え作物の認可のための4年間の猶予期間をめぐって、EUとの激しい論争に巻き込まれている。アメリカの農業関連産業は、猶予期間の影響でトウモロコシの売上の2億ドルを含む何億ドルをも損失した、と主張している。11月下旬に、EUは遺伝子組み換えによる成分を0.9%以上含んでいる、すべての食品と飼料の表示とトレーサビリティをより厳しくすることを提案した。EU当局者は、厳重な統制を求めるヨーロッパの市民の声に応えているだけだと言う。これらの新しい規制によって、アメリカの農業貿易は40億ドル以上もの影響を受ける。
そこで当然アメリカ当局者は世界貿易機構(WTO)を通して行動すると警告している。「EUの猶予期間は、WTO条約の明白な違反です」と、アメリカ農務省の農務長官への勧告者であるダビッド・ヘッジウッド氏(David Hegwood,
counsel to the Secretary of Agriculture, U.S. Department of Agriculture)は言った。「訴訟を起こさずに猶予期間を止めさせれば、時間も面倒もかけずに済みます。猶予期間をなくさせること、それが私たちの最終目標です」ヘッジウッド氏は、討論会の昼食時の演説で、ラテンアメリカのことではなく、ヨーロッパに圧力をかけて政策変更させるべきことを語った。「ヨーロッパの政策のためアフリカの国々は遺伝子組み換え作物を恐れてアメリカの食糧援助を拒絶している」と彼は言った。「ヨーロッパを怖がって、アフリカの餓えた人々の口に食べ物が届かないのだ」とヘッジウッド氏は発言し、「援助された食糧が最終的にヨーロッパ輸出用の作物と牛肉になるのではないかと、アフリカ政府は不必要な心配をしている」と付け加えた。「これらの輸出品はEUの猶予期間のために拒絶されるかもしれないのだ」と彼は説明した。
しかし、国連事務総長のコフィー・アナン氏と同様に多くの国々が、遺伝子組み換え食品を禁止するアフリカの国々の権利を支持している。その中でも南アフリカと日本は、もしアメリカのGMトウモロコシが食糧援助として受け入れられなければ埋め合わせをしてもよい、と言った。 ヘッジウッド氏は、「ヨーロッパの消費者がバイオテクノロジーを信用していないので、アフリカの餓えた人々も食べないのです。ヨーロッパの態度のためにアフリカの餓えた人々でさえ食べないのですから、世界の他の人たちは一層そうでしょう。アメリカが被ったことは、バイオテクノロジーを利用しようとするどんな国でも起こりうることですよ」と言った。
月曜日の討論会でラテンアメリカからの代表者によると、彼らの国々はEUとアメリカの態度に影響されている。アルゼンチン、ブラジル、メキシコの政府はみな、遺伝子組み換え商品の輸出市場について懸念しており、それだけでなく、農業用バイオテクノロジーの環境と社会への影響についてもいろいろと心配している。
CIBIOGEMの生物安全委員でメキシコアグロバイオの技術理事のホセ・ルイス・ソレイロ氏(Jose Luis
Solleiro, member of La Comisin Intersecretarial de Bioseguridad y Organismos Genicamente Modificados
(CIBIOGEM)'s Biosafety Council and technical director of AgroBIO Mexico)によると、GM作物の特許は一握りの多国籍企業に握られており、そのことを多くのメキシコ人が心配している。ソレイロ氏は、「多国籍企業による経済支配の増大を心配しています。バイオテクノロジーは巨大な多国籍企業を益するだけだという考えは、メキシコでは深く根付いています」と言った。
メキシコでは、表示さえされていれば遺伝子組み換え食品を輸入することが出来るが、GM作物の作付は許可されていない。遺伝子組み換えによって、野生トウモロコシが影響されるのではないか、という恐怖は、メキシコ人の最大の心配である。トウモロコシはメキシコ原産で、大半の住民の主食である。このような遺伝子組み換え作物の生物安全面についての恐れから、この問題に取り組んだ6つの別個の国会決議をする運びとなった、と農業コンサルタント会社エストラテギアトータルの専務取締役のアルバロ・ロドリゲス・ティラド氏(Alvaro Rodriguez
Tirado, managing director of Estrategia Total, an agricultural consulting firm)は言った。「メキシコ社会は国会を動かそうと働きかけてきました」とティラド氏は言い、最近の調査では、40%のメキシコ人がGM作物賛成で、40%が反対で、20%が未決定だと付け加えた。
ブラジルでは、1998年から遺伝子組み換え作物の輸入と生産を禁止しているが、月曜日の討論会のブラジル代表はそのことをよく思っていない。ブラジル家禽産業連合の執行理事でブラジル南部地域の副大統領であるパウロ・アリゴ・ベリンホ氏(Paulo D'Arrigo
Vellinho, executive director of the Brazilian Poultry Industry Union and vice
president for the South Region of Brazil)によると、バイオテクノロジーはこの国の高い生産費を下げるのに役立つ可能性がある。セナルジェン/エンブラパとして知られる、農業供給省からの遺伝資源とバイオテクノロジーおよびブラジル農業研究株式会社社長のルイス・アントニオ・バレト・カストロ氏(Luis Antonio
Barreto de Castro, head of the Genetic Resources and Biotechnology/Brazilian
Agricultural Research Corp. from the Ministry of Agriculture and Supply, known
as Cenargem/Embrapa)も同意して、「ブラジルでは政治の議論ばかりです。ブラジルでは、農業が収益をもたらす唯一の分野なのです」と言い、「経済的な逼迫感から、新しく発足した政府はGM作物反対の政策を見直すようになるといいと思う」と付け加えた。
しかしながら月曜日の後で、変化が起こりつつあることが分かった。ブラジルの新しい農務大臣は、今日火曜日のテレビで、ブラジルは、来年は遺伝子組み換え作物生産者から家畜類の飼料を輸入しなくてはならないかもしれないと告げた。ブラジルの多くの農家はブラジルでGM作物をすでに栽培している。バレト・カストロ氏は、政府職員の見積りでは国中で約400万ヘクタールの大豆が栽培されていると言った。それは、ブラジルの大豆の生産の約25%に及ぶ。
GM大豆はアルゼンチンが積極的に栽培しており、アルゼンチンの前農務長官のマルセロ・レグナガ氏(Marcelo Regunaga,
Argentina's former agricultural secretary)によると、そこでの約90%の大豆は遺伝子組み換えされているという。アルゼンチンは世界第一の大豆輸出国で、作物のGM版は農業関連産業にとって主要な利益となることがわかった。「私たちは農業生産に補助金を出さないので、生産費をより下げるような方法で競争しなくてはなりません」とレグナガ氏は言った。「これらの生産物は環境にとってよい影響を与えるのです。より少ない農薬で収量がより多くなるので、アルゼンチンの多くの人々は未来は遺伝子組み換え作物にかかっていると確信したのだ」とレグナガ氏は言った。しかし、アルゼンチンのGMトウモロコシでの経験は、農業用バイオテクノロジーはみなばら色であるとは限らないことを示している。バイオテクノロジーの巨大企業モンサントからGMトウモロコシが1998年に導入されたが、アルゼンチンではまだ認可されていない。アルゼンチンは毎年約950万トンのトウモロコシを輸出している。ヨーロッパに輸出されるのはその一部だけではあるが、GMトウモロコシは拒絶されるのではないかという恐怖のために、政府は遺伝子組み換え品種を避けているのだ。
アメリカ合衆国の農家はアルゼンチンのようなジレンマにはぶつかっていない。彼らは遺伝子組み換え作物をますます喜んで受け入れている。アメリカでは、約34%のトウモロコシ、71%の綿花、そして75%の大豆が遺伝子組み換えされている。「バイオテクノロジー食品は環境への心配をうむわけではないし、消費者や生産者への脅威になるわけでもない」と、農業委員会の副委員長のトム・シェル氏(Tom Sell,
majority deputy staff director for the House Committee on Agriculture)は言った。「アメリカでは広く消費者に受け入れられているのです」「科学者もこれらの食品は安全だと言っていますし、それは認められた合意です」と国際貿易環境問題理事でアメリカ食料雑貨製造者のためのバイオテクノロジー調整係のカリル・コケンデルファー氏(Karil
Kokenderfer, director of international trade environmental affairs and
coordinator of biotechnology for the Grocery Manufacturers of America)は付け加えた。コケンデルファー氏は、特にヨーロッパ共同体によって計画されている管理方式での表示は不必要である、という討論会のすべてのパネリストの一致した考えを表明した。「表示は食品安全の知識でも代わりになるものでもない」と彼女は言った。「それは適切な輸入管理でもなければ、消費者価格を考慮したものでもありません。ヨーロッパのやり方で、思い通りに社会の信用が増すわけではないだろう」と、デュポン農業栄養社の世界調整問題副会長のテリー・メドレー氏(Terry Medley,
vice president of global regulatory affairs for DuPont Agriculture and
Nutrition)は付け加えた。「それでもっと問題や障害が増えるでしょう」と彼は言った。しかし、35カ国以上がヨーロッパの主導に従い、遺伝子組み換え作物に対する何らかの表示義務を作ってきた。