GM食品のもう一つの観点

ディビッド・シュバート

ネイチャー・バイオテクノロジー

Vol 20, No10 p. 969(2002年10月号)

編集者の許可を得てAgBioViewに転載

訳 山田勝巳

 

細胞生物学者として、私は遺伝子組み換え植物を市場に持ち込むことについて行われている「議論」の内容に非常に興ざめしている。 この論議はいつも遺伝子組み換えが伝統的な育種をより厳密にしただけという一見理に適った考えに対して、非合理で、感情的議論で戦わざるを得なかった。 特に、3つの点について不十分な注意しか払ってこなかった; 

第一に、同じ遺伝子を違う2種類の細胞に入れると2つのはっきり違う蛋白質分子が出来る。

第二に、同じ種だろうと別の種だろうと遺伝子を挿入すると通常全体の遺伝子発現が著しく変わるから受け入れ細胞の発現型も変わる。

第三に、ビタミンのように小さな分子を合成するのに使う酵素の反応経路が他の代謝経路に干渉して新たな分子を創り出しうる。 これら全ての混乱によって毒性、アレルギー性、発ガン性を持った分子の生物合成になりうる。 そして、結果を予測する術がない。 

 

This is because each cell type expresses a unique

repertoire of enzymes capable of modifying protein structure by mRNA

splicing or at the post-translational level. In the case of the -amyloid

precursor protein, its adhesive properties are altered by the attachment of

different carbohydrates2.

 

以下に、現在の組み換え技術の影響に関する理解が欠如している状態での、これらの懸念を提示しGM食品が安全な選択ではないことを論じてみたい。 蛋白質の生物学的機能は、アミノ酸の配列が変わるスプライシング(訳注:mRNA内部の部分的切断と再結合)やリン酸、硫酸、糖、脂肪などが合成されたタンパク質に結合する翻訳後修飾で変わりうる。 これらの修飾は、蛋白質が発現する細胞の種類によって著しく変わる。 例えば、アルツハイマーに関係するアミロイド前駆蛋白は、グリア細胞で発現すればそれに硫酸コンドロイチンが共有結合するが、脳の神経細胞で発現するともっと単純な糖を持つ蛋白質になる【1】。 これは、各細胞タイプごとにユニークな酵素が発現し、mRNAスプライシングや翻訳後修飾が起こるからである。 アミロイド前駆蛋白の場合、別の炭水化物が付くことで細胞の粘着特性が変えられる【2】。 

 

しかし、現在の知識レベルでは、翻訳後修飾やそれによる生物学的影響を予測する術がない。 従って、バクテリア内で作った人間に害がない毒でも、植物細胞で色々に修飾され、いくつかは害が出る可能性がある。

 

第二の懸念は、外部遺伝子の導入により毒性、発ガン性、催寄性、アレルギー性物質が合成されたり、有益な植物分子の合成が減ることである。 通常一つの遺伝子を挿入すると細胞全体の発現パターンが変わり、細胞の種類によって反応の仕方が違うのが普通である。 ある例では受容遺伝子が人の細胞にトランスフェクション(遺伝子・ウイルスなどの核酸が細胞に取り込まれること)した。 この場合は、この遺伝子で合成された蛋白質は、本来の細胞内遺伝子が作っているタンパク質に極近いものだった【3】。 

マイクロアレィ技術で遺伝子発現のパターンをモニターしたところ5%の遺伝子でmRNAの合成レベルが著しく高いかあるいは低かった。 組み換え植物を研究した最近の例をあげれば、ペクチン合成に関わる遺伝子の過剰発現はタバコでは全く影響がなかったが、リンゴの木ではかなりの構造変化を起こし落葉が早くなった【4】。 このような予見しなかった遺伝子発現や機能の変化は良く見られるが、現在こうしたことにはほとんど留意されていない。

 

その上、これらは予期せぬ事ではなかった。 特定の細胞表現型を維持するには、非常に正確な遺伝子調節の平衡制御が必要で、少しでも乱れると遺伝子発現全体のパターンが変わる可能性がある。 この問題は、二次修飾もそうだが、結果として起こる蛋白質合成での変化を予測する術が今のところ無いことである。    第三に、新たな酵素経路の遺伝子の全部又は一部を植物の遺伝子に挿入すると、細胞の内部経路と干渉して予期せぬ物や全く新規のものでさえ合成されることがある。 こうして出来たものには毒物もある。 例えば、レチノイン酸(ビタミンA)とその誘導体は、哺乳類の発育を制御する色々な信号に使われている【5】。 これらの化合物は超低濃度で効果があり、ビタミンAを作るGM植物は、レチノイン酸誘導体も作る可能性があり、これらの経路で作用薬又は拮抗薬として働き、あるいは直接毒性を持ったり、異常な胚発達につながることもある。 これと関係ある例に、1980年代に栄養補助剤として使うトリプトファンの収量を上げるためバクテリアに遺伝子操作を施したものがある。 その結果出来たものは、特定の微量汚染物質の異常生成に強く関与し新たな病気を起こした【6】。

GM植物がしばしば異なった量の蛋白質を作るとして、それも親品種と較べて全く新規の蛋白質だとしたら、一体どんな結果になるだろう。 最悪の場合を想定すると、組み込まれたバクテリアの毒が修飾されて人の毒になるかもしれない。 急性毒性は、もし特有の病気を引き起こすので、追跡用表示があればトリプトファンのGMバッチのように製品市場に流れても直ぐに分かるだろう。 が、しかし、遅れて出る癌やその他の一般的病気だった場合は、分かるまで何十年と掛かり、時には原因が全く突き止められない可能性もある。 一方植物フラボノイドや関係する分子は、大変健康によい【7】ものだが、GM作物ではこれが無くなっているという証拠もある【8】。

 

以上の心配に根拠があるとすれば、どんな対策がとれるだろう。 二次修飾は、導入遺伝子産物を質量分析器でモニターすれば確認できる;遺伝子発現が変わったのはDNAチップで同定できる;そして代謝活性分子は生化学的に測定できる。 問題は、当然ながら、正確に何を見るべきかを知らないと、関係する変化を見落とすことだ。 私が考える唯一の合理的解決策は、人が消費するGM植物産品は全て市場に出す前に長期的毒性及び発ガン性について試験することである。 GM作物は恩恵をもたらす可能性があるので、製品を市場に流し続ける前にもっとしっかり検査することは業界にとっても利益になるはずだ。

 

参考文献

 

1.. Shioi, J. et al. J. Biol. Chem. 270, 11839-11844 (1995).

2.. Salinero, O., Moreno-Flores, M.T. & Wandosell, F. J. Neurosci. Res.60, 87-97 (2000). 

3.. Srivastava, M., Eidelman, O. & Pollard, H.B. Mol. Med. 5, 753-767(1999). 

4.. Atkinson, R.G., Schroder, R., Hallett, I.C., Cohen, D. & MacRae, E.A.Plant Physiol. 129, 122-133 (2002).

5.. Gronemeyer, H. & Miturski, R. Cell Mol. Biol. Lett. 6, 3-52 (2001).

6.. Kilbourne, E.M., Philen, R.M., Kamb, M.L. & Falk, H. J. Rheumatol.

Suppl. 46, 81-88 (1996).

7.. Middleton, E., Kandaswami, C. & Theoharides, T.C. Pharmacol. Rev. 52,673-751 (2000).

8.. Lappe, M.A., Bailey, E.B., Childress, C. & Setchell, K.D.R. J. Med.Food 1, 241-245 (1999).

 

--- David Schubertは、ソーク研究所の教授である。

10010 N. Torrey Pines Road, La Jolla, CA 92037 e-mail: schubert@salk.edu

 

 

戻るTOPへ