ニューヨークタイムズ 

200337

アンドリュー・ポラック

訳 森野 俊子

 

遺伝子組み換え作物に対するより厳しい規制

 

食料用作物への汚染を防ぐ手段として、米国農務省は、昨日、医薬品や工業用化学物質を生産するよう遺伝子組み換えされた作物に対するより厳しい規制を発表した。その規制は、普段はおたがいに反目しあっている二つの団体、反バイオテクノロジー団体と食品業界から、不十分なものと批判された。

 

そのような遺伝子組み換え作物の栽培は、ファーミング(pharming)あるいはバイオファーミングなどと呼ばれているが、現在実験段階にある。当分野の製薬会社は、この栽培技術は、将来、医薬品としてのたんぱく質を、今より安価に大量に生産できそうだと言っている。遺伝子組み換え作物は、注射でなく、食べられるワクチンの開発を可能にするかもしれない。

 

しかし、そのような作物が不注意にも食料用作物に混入し、市民の健康に危害を加えたり、高くつく製品回収を余儀なくされるという懸念がある。そうした懸念は、昨年起きた二つの事件で本物になった。テキサス州カレッジステイションのバイオテクノロジー会社プロディジーンが、医薬品コーンを食料用作物に混ぜてしまった。もっとも食物が口に入る前に、過誤が発見されたのだが。普通の作物は医薬品を生産する遺伝子はもっていない。

 

農務省は、この春から、栽培時期には少なくとも五回実験場を査察する予定であると発表した。つい最近まで、栽培時期に実験場査察はめったに行われず一回ほどだった。査察官は、食料用あるいは飼料用作物と医薬品植物との間に、以前より距離を置くよう要求する。栽培者側もまた、貯蔵、植付け、収穫設備を別々にしておかなければならない。 「この技術が進むような方法で規制することが重要だ。そうすればその恩恵を被ることができるからだ。」と農務省長官アン・M・ベネマン氏は、記者たちに語った。

しかし、農務省は、食品業界や環境保護団体の望む規制を採用しなかった。かれらの規定では、医薬品生産のために非食料植物だけを使うことができる、と要求するはずだった。

農務省バイオテクノロジー規制部門の長であるシンディ・スミス氏は、非食料植物でも食料用作物と混ざるおそれがあるので、植物種を限定するという手段は、汚染のリスクを完全に取り払ってしまうことにはならないだろうと述べた。 スミス氏は、最善の方法は混入を防ぐための厳しい規制である、と言う。

 

今回の規制は、コーンベルトの中心地でバイオファーミングを禁止するものではない。バイオテク企業は、そうした提案をした。しかし、中西部の政治家たちは、利益が上がる作物を栽培する機会を農家に阻むことになる、と言ってその案に反対した。スミス氏は、医薬品作物と従来の作物の間の距離をこれ以上離すと、コーンベルトでそのようなコーンを栽培することがきわめて非実際的なものになるだろうと述べた。

自由に受粉できる医薬品コーンは、他のコーンから一マイル離しておかねばならない。これは前回の隔離距離の二倍にあたる。

 

全米食品加工業者協会の副会長であり科学部門チーフのローナ・アップルバウム氏は、「われわれは勇気を得たが、もっと規制が必要だと信じる。」と述べた。アップルバウム氏は、今回の規制が、いかなる医薬品や工業用化学物質も絶対に食物に混入しないことを、請け合うかどうか確かではないと語った。「基準はゼロパーセント混入率に置かれている。」と氏は述べた。「ほんの少しの混入でも食品の品質を落とすことになり、そのような不純な食品は店頭から引き上げなければならない。」

 

遺伝子組み換え食品に反対している環境保護団体や消費者団体は、野外実験を止めるよう訴訟を起こすと述べた。「医薬品を食料用作物のなかに作ることを認めれば、また過誤が起こり、汚染がふたたび起きるのも時間の問題だ。」と米国公益研究団体のリチャード・カプラン氏は述べた。月曜日に連邦政府官報で公示予定である新しい規則は、バイオ製薬に使われた土地には、その翌年食料用作物の植付けを禁じている。

 

プロディジーン事件のひとつは、プロディジーン社がコーンを栽培した翌年、大豆を植えた土地で起こった。地中に残された種から芽を出したコーンの茎が、大豆に混ざってしまったのだ。

 

著作権 2003年 ニューヨークタイムズ社

 

 

 

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