GM作物は必要も恩恵もない
食糧と健康を世界にもたらす真の事業を危険な方法で回避するもの
ISISレポート
メイ・ワン・ホー
訳 山田勝巳
窒素固定、干魃に耐える、収量を上げる、そして世界を養うというGM作物の約束は、かれこれ30年くらい言われ続けてきた。 このような約束が今では、10億ドル産業を築き上げ、これを数社の巨大企業が支配する。
だが、奇跡の作物は現実にはならなかった。 これまでの所、2つの単純な特性が世界中の全てのGM作物を構成している。 70%以上が、広範な除草剤に耐性を持つもので、各社とも自社の除草剤に耐性のある作物を作っており、残りは害虫を殺すためのBt毒で操作している。 1998年には、アメリカ、アルゼンチン、カナダが合計で6500万エーカーに作付けした。 断然最大の生産国であるアメリカの最新の調査では、有意な恩恵は全くない。 それどころか、最も大規模に栽培されている除草剤耐性大豆は、平均6.7%収量が低く、2−5倍も非組み換え品種より除草剤を余計に使っている。
このGM作物には既に除草剤耐性の雑草とBt耐性の害虫が出てきている。 もっと悪いことには、何でも殺す除草剤は野生の品種を無差別に滅ぼすだけでなく、動物に害がある。 その中の一つ、グルフォシネートは哺乳類に奇形児をもたらし、グリフォサートは、非ホジキンリンパ腫との関連が出てきた。 Bt毒のGM作物は、蜂やクサカゲロウのような益虫を殺し、Btコーンの花粉はオオカバマダラ蝶に致命的だ。
国連食糧計画によると、世界には十分に世界を養う量の1.5倍も食糧があるという。 世界の穀物収量は1980年以来ずっと人口増加を凌いでいるのに10億の人が飢えている。 これは独占企業が世界経済の下で営業しているためで、貧しい人々はより貧しくなりさらに飢えが酷くなっているからだ。 企業は既に世界中の穀物の75%を支配している。 新たな種子の特許は、第3世界の85%の農民が実践している種子の保存と再播種を妨げ、企業の独占を強化する。 第3世界で最大規模の慈善事業であるクリスチャン・エイドは、GM作物が失業を生み第3世界の債務を更に悪化し、持続的農業方式を脅かし、環境を破壊すると断定する。 そして、最貧国で飢饉が発生すると予言している。
では、米に大豆蛋白を導入したり、鉄分を増やすために遺伝子を組み込むなどの栄養価を高めるGM作物はどうか。 世界規模の栄養失調の最大の原因は、工業的単作によって伝統的農業や狩猟採集で可能だった豊かな食事が置き換わったことにある。 その上、略奪農業が土壌養分を疲弊させ、それが作物の栄養価を更に下げるということを過去40年間やってきた。 どんなに遺伝子工学が栄えてもこの傾向は変えられない。 それを可能にするのは、持続的農法を復活させ、農業生物多様性を取り戻す以外にないのだ。
GM作物には恩恵が無く、世界を養えないのは明らかだ。 その上、とてつもないリスクがある。 最も緊迫しているのは、乱雑で予測できないものだ。 スコットランドのロウエット研究所の優れた科学者アーパッド・プシュタイ博士は、GMポテト株がラットに毒であるという発見を公表したために職を失った。 更に油断ならないのは、水平遺伝子伝達:遺伝物質が関係のない種へ直接移動することだ。 これは、GM体の構造そのものと切っても切れないもので、導入された外来遺伝子(組み換えDNA)が、関係のない種へ再度移りやすい為だ。 このような水平遺伝子伝達は新種の病原ウィルスや病原バクテリアを発生させ、病原菌に抗生物質や薬剤耐性を振りまいてしまう。
これらの懸念があるから、遺伝子工学の先覚者達は70年代にモラトリアムを呼びかけたのだ。 残念ながら、商業的圧力がこのモラトリアムを短縮してしまった。 それ以来、薬剤や抗生物質に耐性のある感染症が報復にやってきた。 新種のウィルスが恐ろしい頻度で現れており、致命的バクテリアが全ての抗生物質に急速に抵抗力を持ち、治療を不可能にしている。 GM作物の埃や花粉からの組み換えDNAが、人体を含む環境中の全ての生命体に展開しうることを示す新たな証拠もある。
その他に組み換えDNAは、細胞のゲノムに入り込み、ガンを含む有害な影響を及ぼす危険がある。 英国医学協会の中間報告で、GM作物のリリースを無期限に禁止し、新たなアレルギーや、抗生物質耐性の広がり、組み換えDNAの影響を更に調査すべきだと要請している。 この懸念は、5年間の禁止と生命特許の禁止を求めた世界の科学者宣言に署名した少なくとも20カ国100名の科学者が共有するものだ。
GM作物の「恩恵」は、幻想的で仮想の域を出そうもないが、持続的有機農業の成功は、ヨーロッパや北米同様第3世界でもよく記録されている。 それに、様々なガンや生殖障害、退行性疾病を起こす農業薬剤を廃止することは、莫大な「健康というおまけ」がつく。
現在の遺伝子をいじくることへの執着は、完全な見当違いといえる。 遺伝子やゲノムが、比較的安定して一定であるのは、安定で均衡のとれた生態系の中だけの話だ。 有機農業は、そのような均衡のとれた生態系を意味する。 遺伝学的健康の要件も、同様に、汚染のない環境、農業薬剤の一切無い優良な有機食品、衛生的で社会的に満足できる居住環境など生理学的健康の要件と同じだ。 これらが市民社会への本当の選択だ。
メイ・ワン・ホー博士はオープン大学の生物学講師でベストセラー「夢か悪夢か遺伝子工学」、「悪科学と巨大ビジネスの勇ましい新世界」の著者である。