あきれたGM汚染否定
ISIS レポート
2002年4月8日
訳 山田勝巳
最有力科学誌ネーチャーがメキシコの野生種の組み換え汚染論文を推進派の圧力に負けて取り下げたが、発表者は新たなデータで確信を強めている。 メイ・ワン・ホーが市民を混乱し続ける問題の背景と科学的発見の重要性を示す。
去る11月ネーチャーに発表された論文はGM推進側に怒りを巻き起こした。 当誌は圧力に屈服して撤回を発表した。曰く「……異論や様々な忠告を考慮して、ネーチャーは現在ある証拠では、元の論文を発表するには不十分であると結論した。」 だが、原著者は、証拠と結論を擁護する意向なので、ネーチャーは批判と著者の反論と新たなデータを発表し、読者に「この科学を判断してもらう」のが最善であると判断した。
批判の中心は、バークレイの研究者ディビッド・キストとイグナシオ・チャペラがメキシコの野生種がGMで汚染されていることを証明するのに使った実験技術にあるようだ。 最初にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で、カリフラワー・モザイク・ウィルス(CaMV)35Sプロモーターを野生種に検出している。 このDNA片は事実上全ての商業組み換え作物に組み込まれている。 次に、反転(inverse)PCRでCaMVプロモーターに接続した未知のDNA配列がないかを見ている。 これで組み換えDNAの構造とゲノム中の正確な位置が分かる。 PCRは、微量なものにある特定の配列を増幅し確認するのに使う標準的手法だ。 一方、反転PCRは最新の技術でまだ広く使われていない。
批判側は、CaMV35Sプロモーターの特定が問題だと言って居らず、この点では野生種に組み換えDNAがあることを認めている事になる。 言い換えれば、GM汚染があることは問題にしてはいないということだ。 むしろ、批判の中心はCaMVプロモーターに接続した未知のDNA配列を特定するのに使ったiPCR技術で、彼らはこれを”疑わしい”、”事実捏造”だと言っているのだ。
キストとチャペラはプロモーターにつながっている配列が様々であることを発見しており、ここから組み換え構造が“散らばってゲノム全体に分散している”という印象を受けていて、これが“前例のないことだ”という最初の非難対象になっている。 そして、組み換え断片が挿入後にゲノム内で動き回ることはないと否定して置きながら、この問題をテーマにした研究がこれまでに為されたことがないことには触れていない。
最初の批判は、キストとチャペラの前同僚で現在はワシントン大学のマシュー・メッツ微生物学者とスイスETHの植物学研究所のヨハネス・フッタラーから出ている。2番目の批判は、6人のバークレィの同僚からだ。バークレィの生物科学部は、バイテク巨大企業ノバルティスに数年前論争を巻き起こして乗っ取られている。 この時、イグナシオ・チャペラは乗っ取り反対の中心的存在として注目されている。 チャペラ攻撃、バークレィ内の反チャペラ派による彼の研究告発は政治的動機があることは間違いがない。 幸い、研究結果が示していることは、政治とは関係がない。
PCRとiPCRは共にプライマーと呼ばれる短いDNA配列が元になっており、これがより長い配列と組み合わさって増幅される。 増幅されたものがDNA複製酵素によってその後の連鎖反応を起こす。 残念ながらプライマーは他のDNAと似た配列のものも多く、意図しない位置に組み合わさり、植物ゲノムの間違った配列を増幅することがある。 使うプライマーが既知の植物遺伝子配列と似ている(相同性)と、虚偽のプライミングになり従って配列の誤認となり、CaMV35Sプロモーターがゲノム全体に散らばっているという印象を与えたのかも知れない。
キストとチャペラは、回答の中でiPCRの結果は全てとは言わないが虚偽のプライミングによるものもあり配列誤認が起こることを認めていて、この技術に付き物の問題であると指摘している。 しかし、元々の結果は変わらない。
彼らはドット・ブロット法による新たなデータを提出している。一定量のDNAをフィルターにかけ(点《ドット》で)、乾燥して組み換えDNAで測定する。この場合はCaMV35Sプロモーターで行う。 この新たなデータでは、CaMV35Sプロモーターが野生サンプルに5%以下1%以上のレベルで存在しているのがはっきり示されている。一方の昔からのメイズサンプルやペルーからのメイズサンプルでは陰性である。 つまり、組み換え汚染は、最初の論文通り実際に起こっているのだ。 本来の議論は組み換え構造がゲノムに入る時、その後どれ位散らばるのかということだ。 キストとチャペラが引用している論文に記述のあるGM不安定性の証拠は、野生種に交雑と水平遺伝子伝達で組み換え構造が入り込み、“散らばって無秩序に分散している”可能性を除外できない。 キストとチャペラの研究が素晴らしいのは、この可能性を見極めようとした最初の試みであるということだ。
これまた、証拠もなく学会が企業課題に奉仕することの空しさの証拠である。
いづれにしても、企業研究者は、ヨーロッパの指針(European
Directive、ヨーロッパの新規則がGMOを全滅するか?ISISニュース11/12,10月2001を参照)で要求されている当該“組み換え毎(event-specific)"の分子データ
で組み換え株が安定であることを証明する事態を避けたいのだ。 これには、組み換え挿入物が、同じ構造のままで植物ゲノムの同じ位置に何代も維持されていることを書類で示さなければならない。 そのような“組み換え毎の”分析はかつて為されたことがない。
特筆すべきは、モンサントのラウンドアップ・レディGM大豆が、最近行った分析でこの検査に不合格だったことだ。 規制当局者は、この分子データを必須のものとすべきで、“企業秘密”などで公開を拒否させるべきではない。 さもなければ、当局が結果として起こる全ての害に対して責任を取るべきだ。
今、学会が出来る唯一のまともなことは、キストやチャペラ、その他の研究者に研究が続けられるよう全幅の支援を与えることだ。 その目的は組み換え構造物が、水平遺伝子伝達や再結合で断片化しゲノム中や生態系に分散する可能性を無くすことにある。 同時に、組み換え毎の分析で安定であることが証明されるまで、これ以上組み換え作物を、特にCaMV35Sプロモーターを使ったものはリリースすべきではない。
(誰が水平遺伝子伝達を怖れているのか?ISISレポート、3月4日2002年を参照)