アメリカの科学者らはインシュリンその他の医薬品を卵内に生産するニワトリの開発に成功した。これは、人間の蛋白質由来の医薬品を卵白の中で作る革命的な新しい生産方法に道を開くものである。科学者らは永年人間の蛋白質を牛その他の動物のミルクで作ることが出来ると考えてきたが、ロンドン株式取引き所に上場しているあるアメリカの企業は、今日ニワトリの卵で新たな蛋白質を商業ベースで生産できる、と発表する。ニワトリは大きな動物よりも成長が早く、医薬品の開発と生産に革命を起こす、とこの会社トラン・ゼノゲン社(Tran‐XenoGen)は信じている。一回受精すればメンドリは6ヶ月に120匹の雛を生み、妊娠期間はちょうど21日である。トラン・ジェノゲン社によれば鶏卵から蛋白質を取り出すのはミルクから取るよりも衛生的だし容易である。
特定の蛋白質、例えばインシュリンの遺伝子を実験室で操作し、受精卵に導入してキメラのチキンが作られる。キメラのチキンはそれから卵を生むまで育てられるが、その中のあるものは遺伝子組換えが起こっていて、インシュリンの遺伝子を持っている。組換えチキンの生んだ卵は、その中にインシュリンの遺伝子があるかどうかスクリーニングし、最も沢山インシュリンを作るチキンが商業生産用に選ばれる。インシュリンは西側世界で糖尿病が増加しニーズも増えつつある。アメリカだけで1700万人の糖尿病患者がいると推定されている。この医薬品の地球的規模の要求は10億ポンド(訳注:約1200億円)、年間成長率5%と推定される。この遺伝子組換えチキンは人間の抗体を作ることも出来そうで、ガンから関節炎まで幅広い病気に対応する新たな医薬品の基礎を作る。平均的なチキンは年間300個の卵を生み、どれも蛋白質に富んでいる。現在、人間の蛋白質の不足から病気の研究が停滞し、充分な量の医薬品が供給できるかどうか危ぶまれている。ある動物の遺伝子を別の動物に挿入する遺伝子組換えはこのボトルネックを突破できるかも知れない、とシテイー・開発銀行Numisセキュリテイーのバイテク専門家のエドワード・ハズバンドは言う。「治療用蛋白質の生産は小さな問題ではない。現在の契約生産施設は、少なくともこの5年間で一掃される」
トラン・ジェノゲン社の社長はキム・タン氏で、彼はイギリスのバイテク企業の流れを築いた人である。同社は2004年までにバイテクで抗体を生産し、2005年までに商業規模のインシュリンを作ることを目指している。