遺伝子組み換え植物から野生種への遺伝子移行の可能性について
中嶋信美(国立環境研究所・生物多様性研究プロジェクト・総合研究官)
(第6回自然系調査研究機関連絡会議:NORNAC 講演会、調査研究・活動事例発表会
平成15年10月16日〜17日 石川県立生涯学習センターにて)
遺伝子組み換え作物は、農水省が作成したガイドラインに則った安全性評価手法、管理手法で開放系における栽培が認可されている。しかしながら、このガイドラインは適切に管理された農地で栽培され、適切に処分されることを前提として作られているため、農地以外の場所(例えば公園や家庭のベランダなど)で十分な管理が行き届かない状態で栽培された場合、これまでのガイドラインの枠内での環境影響評価手法は不十分になることが予想される。例えば、家庭農園で組み換え体を栽培した場合、組み換え体と在来種が交雑して組み換えに用いた遺伝子(以下組み換え遺伝子)が他の種へ移行する事が懸念される。本研究では組み換え体から野生種へ移行した遺伝子がどの程度安定に存在するのかを検討するため以下のような研究を進めている。既に栽培が認可された除草剤耐性の遺伝子組み換えダイズ(以下GMダイズ)とダイズの近縁野生種であるツルマメ(Glycin soja)系統の開花期の調査を行った。
その結果、在来のツルマメのうち少なくとも5系統の開花期がGMダイズの開花期と重なった。次にGMダイズとツルマメを人工交配し、その雑種子孫に組み換え遺伝子が安定に保持されていくのかどうか検討した。その結果、雑種第1世代(F1)では、組み換え遺伝子が遺伝しすべて除草剤耐性とった。更にその子孫(F2)を調べたところ、4分の3の確率で除草剤耐性となる個体が出現した。また、F2のうち除草剤耐性となった個体の開花期を調べたところ、10%程度がツルマメとほぼ同じ開花期となった。以上の結果、GMダイズの除草剤耐性遺伝子はツルマメに移行した場合でもメンデル遺伝に従い安定に子孫へ受け継がれることが明らかとなった。また、雑種の子孫の中にツルマメと開花期が同じになるものが出現することがわかった。