遺伝子組み換え作物は生物多様性に大きな脅威

 

有機消費者協会(OCA,USA)

スザンヌ・クイックとキム・グロション

2003724

 訳 河田昌東

 

進化に眼を凝らせば、農作物の野生近縁種は遺伝子組み換え種の子孫により絶滅させられる可能性がある。 外来植物の大群と同様、これらのハイテク作物はそのDNAで相手を繰り返し攻撃し、近縁の祖先種を侵略し略奪しおそらく駆逐してしまう。ウイスコンシン大学とミネソタ大学の研究者らによれば、野生の作物近縁種は数世代、恐らく10年以内に消滅あるいは(GMに)形質転換されてしまうかもしれない。「これは基本的な種の保存の観点からばかりでなく、重要な遺伝的多様性と遺伝情報が喪われることをも意味するだろう」と野生トウモロコシの先祖種の一つの発見者でウイスコンシン大学教授を退職した植物学者ヒュー・イルテイスは言った。「野生植物は非常に貴重だ。それらを喪えば遺伝情報の宝庫を喪うことになる」と彼は言う。加えて、今回の研究は、病害虫耐性遺伝子が農作物から近縁の野生雑草にジャンプし、雑草の大軍養成所になる可能性があることを示した。「遺伝子組み換え生物の野生植物への影響については抱えきれないほどのデータがある。しかし、今回の研究はこれらの脅威には根拠があることを示す厳密なモデルに基づいた確かな証拠だ」というのはウイスコンシン大学の植物学及び環境学の教授、ドン・ワラ―だ。

 

この研究論文は、ロンドン王立協会雑誌の今週号に掲載されたもので、近縁種の植物群落間における遺伝子の伝達率を予測する数理モデルに基づいた研究である。このモデルは、遺伝子組み換え作物だけが対象ではなく、もっと一般的なものだ、というのはウイスコンシン大学の動物学科のポストドク研究員で論文の著者の一人でもあるラルフ・ヘイゴッドだ。この知見は、遺伝子組み換え生物の野生生物や雑草の祖先に対する影響という、バイテクと環境研究のホット・トピックスに関する研究にさらに拍車をかけることになるだろう。

特に懸念されるのは動物と植物の双方のDNAを使って作られた遺伝子である。人間は数百年間にわたって植物の遺伝子を掛け合せてきたが、植物と細菌のDNAをつないだものが長期的にどんな影響をもつか誰も知らない。ヘイゴッドのチームは集団遺伝学の法則に基づいてモデルを立て、関連する植物間の遺伝子の移動形態と移動スピードに注目した。彼らは二つの進化プロセスに注目した。野生植物の遺伝子が作物遺伝子で置き換わる「同化」とその後の「集団的な圧倒」機構である。集団的圧倒は遺伝子同化の後で起こる。野生植物群がまず周辺の作物から遺伝子をピックアップし、その小さな在来植物群は縮小を始める。(遺伝子を取り込んだ)群は雑種花粉で次第に勢力を増し、「集団メルトダウン」が起こって野生種は消滅する、とヘイゴッドは言った。それはあたかもたった50ガロンのバスタブ一杯の真水を大海の表面に撒き散らすようなものだ。真水が流れ出すにつれて海水が押し寄せてくるように、バスタブが見かけも味も匂いも周りの海水と同じ水で一杯になるのは時間の問題に過ぎない。

  研究者らが野生植物の土地で起こると予想するのはまさにそういうことだ。野生植物は非常に短時間に存在をかき消されてしまうだろう。この研究のモデルは、これまでのモデルと違って、今のコーンがそうであるように、組み換え作物が毎年作付けされるとした点が違う、と共著者のミネソタ大学教授で昆虫学者のデービド・アンドウは言った。栽培作物は、小さな野生植物群に対し花粉による容赦ない激しい攻撃を行う。「そう仮定すると、結果は全くドラマチックだ。」とアンドウは言う。なぜなら、それは人工遺伝子が以前考えられていたよりももっと急激に野生植物に拡散することを意味するからだ。かりにそれが野生種にとって有益でなくとも。

          

モデルに対する批判     

オレゴン州立大学の雑草科学の教授、キャロル・マロニー・スミスは彼らのモデルを認めるのを躊躇する。「彼らの結論は正しいと思うけれど、生物学的に特に新しい点はないと思う。人間が長い間栽培植物を作ってきた間に、そうしたことは実際に起こってきたのだから」と彼女は言った。いずれの場合も、野生植物への最も決定的な脅威は作物による侵略ではなく、生息環境の破壊と森林破壊だ、と彼女は言う。しかし、ウイスコンシン大学のワラ―教授によればその議論は甘いという。 「それは北米の古い森林の伐採は心配するな、というようなものだ。なぜなら伐採者らはそこがだめなら別の場所を探すだけだから。問題は遺伝子が野生生物に逃げて行き、雑草の兵士種を作り出すことにあるからだ」 ウイスコンシン大学農学部のウイリアム・トレーシー教授は、生息地の破壊と過剰生息の何れも野生生物を瀬戸際に追いやるが、遺伝子流出は単に彼らを周辺に追いやり、恐ろしい結果をもたらすだけだと言った。

 

大陸の分割

 超雑草シナリオからみれば北アメリカはラッキーだ。ここで栽培されている大半の作物は近縁種からはるかかなたに隔離されている。例えば、トウモロコシはメキシコ高地に起源するし、小麦は中東由来だからだ。

しかし、もしヒマワリやカボチャ、ブルーベリー、クランベリー、そしていくつかのコメの品種が遺伝子組み換えの対象となるならば、それは北アメリカの問題になる。「EPA(環境保護庁)とUSDA(農務省)は組み換え作物の遺伝子がどんな雑草近縁種と交配するか研究すべきだ」というのは、1100のバイテク企業を代表するバイオテクノロジー産業機構のコミュニケーション・デレクター、リサ・ドライである。彼女は、EPAが、作物が生えてはいけない場所に行けないように緩衝帯を設定した、と言った。いくつかの大学は種子バンクや野生種DNA貯蔵所を持ち、純粋であるという保証書を発行している。「植物に関する問題は、動物とは違う。植物は移動しないから。だから人々はすでに何が起こってしまっているか分からないんだ」とイルテイスは言った。

     

 

 

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