論文:Cell Structure and Function :vol 27,pp173~180(2002)

Ultrastructural Morphometrical and Immunocytochemical Analyses of Hepatocyte Nuclei from Mice Fed on Genetically Modified Soybean

 

遺伝子組換え大豆をたべさせたマウスの肝臓細胞核の電子顕微鏡による形態学的および免役化学的分析

By Manuela Malatesta, Chiara Caporaloni, Stefano Gavaudan, Marco B.L. Rocchi, Sonja Serafini, Cinzia Tiberi, and Giancario Gazzanelli

 

要約(翻訳 河田昌東):

 遺伝子組換え食物が健康に与える危険性については直接的な証明がこれまで報告されていない。にもかかわらずこの分野の科学論文は未だに極めて少ない。それで、我々はGM大豆を食べさせたマウスの肝臓の超微細構造の形態学的および免疫化学的研究を行い、食物の消化過程に関わる多数の代謝経路に関連した細胞の核の構成成分における変化を研究した。

 我々の観察ではGM大豆を食べたマウスで細胞核のいくつかの特徴にはっきりした変化が証明された。特に、GMを食べたマウスの細胞核は不規則な形を示したが、これは一般的に代謝活性が高くなったことを示す指標である。また、GMを食べたマウスの細胞では核孔の数が多くなったが、これは核と細胞質の間の分子の出入りが激しくなったことを示唆している。その上、対照群のマウスの核小体が円い形であるのに対し、GMを食べたマウスの核小体は多数の小さな繊維状のかたまりと密度の高い繊維成分が多数ある不規則な形状に変化していた。これらは(核における)代謝の活性が高まったことを示す典型的な変化である。そして、免疫化学的分析によれば核質(snRNPSC35:訳注)と核小体(フィブリラリン:訳注)のスプライシング因子が対照群のマウスに比べてGMを食べたマウスの肝臓細胞の核ではより豊富に存在した。

 結論として、我々のデータはGM大豆の摂取が若いマウスでも成体のマウスでも肝臓細胞の核の性質に影響を与えることを示唆する。しかし、そうした変化をもたらすメカニズムについては不明である。

 

(訳注:河田)

snRNPsmall nuclear RNP: 低分子リボ核タンパク質):細胞核内にのみ存在する低分子のRNA(塩基100~200 

  個)とタンパク質の複合体で、U(ウリジン)に富むので、便宜的にU1U2、・・・U6・・などと呼ばれ、いくつか

  の種類がある。その役割は、DNAからコピーされたばかりのpre-RNAからイントロンと呼ばれる不要な配列を

  除去し、タンパク質の鋳型となる真性mRNAを作ることにある。この働きを「スプライシング」と呼ぶ。真核生物

  のPre-RNAはいくつものイントロンを含み、一個のpre-mRNAから異なるイントロンが除去される結果、複数

  のmRNAが作られ、それに対応して複数のタンパク質を作ることが出来る。例えばヒトの場合、3.5万個程度の遺

  伝子から10万種類以上のタンパク質を作っている。

     SC-35snRNPと同じく細胞核内に局在し、snRNPU1,U2)と共同してpre-mRNAのスプライシングを行うタンパク質。SC35タンパク質の核内濃度は、自身のpre-mRNAのスプライシングの自己制御性によって通常は一定に保たれているが、人間の細胞ではHIVの感染によってSC-35濃度が増加することが知られている。SC-35SRタンパク質ファミリーと呼ばれる、スプライシングに関わる一群の核内タンパク質のひとつである。

     フィブリラリン(fibrillarin):細胞核の中の核小体に局在するsnRNPU3,U8,U13)の構成成分でアミノ酸320個からなるタンパク質である。その役割は、DNAからコピーされたばかりのpre-rRNAをスプライスして、タンパク質合成の場となるリボソームのrRNA(リボソームRNA)を完成させることにある。人間の自己免疫病のひとつである硬皮症(SD)では、フィブリラリンに対する自家抗体形成が原因と考えられている。また、水銀中毒でもフィブリラリンに対する抗体が生産されることが知られている。

 

 この論文は、イタリアのウルビノ大学の研究者らによる研究で、載ったジャーナルは日本の細胞生物学会の発行するCell Structure and Function 2002年、第27巻、頁173180である。モンサントのラウンドアップ耐性大豆を食べさせたマウスの実験で、こうした電子顕微鏡と免疫化学的研究は始めてである。この研究の意味するところは、ひとことで言えば、RR大豆を食べたマウスの肝臓細胞では、核と核小体の構造に大きな変化が現れ、通常よりもmRNArRNAの合成(と分解?)が盛んになっているということである。即ちGM大豆をたべたマウスの肝臓細胞では、遺伝子の発現調節のレベルで対照のマウスとの間に大きな違いが出ていることを示している。その結果は電子顕微鏡像でも免役化学的定量でも極めて明瞭で疑問の余地がない。論文の中の表Uを以下に引用する。

 

    表U     スプライシング因子の免疫ラベルによる定量的評価

 

核質

(金粒子数/μm2

核小体

(金粒子数/μm2

DFC*

(金粒子数/μm2

snRNP

2.24±0.25(対照)

1.02±0.23(対照)

 

4.91±1.26GM

2.11±0.60GM

 

SC-35

3.11±1.08(対照)

0.97±0.10(対照)

 

5.24±1.37GM

0.85±0.09GM

 

Fibrillarin

0.86±0.09(対照)

9.94±0.75(対照)

44.51±2.96(対照)

0.73±0.08GM

19.29±1.10GM

74.53±4.91GM

    * DFC:核小体内の高密度繊維成分

 

 一方、細胞質の構造には対照とGMマウスでほとんど変化が見られない。解剖の際に採取した組織の一部で酵素反応を見たが、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニン・アミノトランスフェラーゼ)、LDH(乳酸脱水素酵素)、GGT(ガンマ・グルタミル・トランスペプチダーゼ)では活性の違いはなかったという。

 こうした細胞核と核小体における大きな変化が細胞と個体の健康にどのような影響をもたらしているかは今後の研究に待つしかないが、こうした科学的詳細な研究が進めば、これまでの遺伝子組換え作物の安全評価の基礎は揺らぐだろう。

 

 

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