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2002618

訳 森野 俊子

 

遺伝子操作魚が野生種を絶滅の危機へ

遺伝子組み換え生物による生態学的脅威は予期せぬ形で起こることをパーデューモデルは示唆

 

遺伝子組み換え生物(GMO)を自然界に導入すると、理論的には、いままで考えられていた以上に野生種が絶滅の脅威にさらされるということをウェスト・ラファイェットにあるパーデュー大学の二人の科学者が発表した。動物学のウィリアム・ムーア教授と生物学のリチャード・ハワード教授は、コンピュータモデルと統計学的分析法を使って、GMOを自然界に導入したときの危険性についての仮説を検証した。

「あらたに遺伝子組み換えの対象になる生物の種類にはほとんど限りがないので、私たちはこれらの仮説を研究した。」とムーアは言う。「このような生物を開発する人々にとって、それらがどんな脅威を引き起こすか予測することは建設的なことである。」  新しいコンピュータモデルは、GMOが野生種の絶滅をひきおこす3つの新しいシナリオを定義することにより、絶滅の危機は思っていた以上に大きいことを示した。 「きわめて広義にとらえても、この研究は危険性の評価のしかたとさらに封じ込めが必要なGMOの種類を教えてくれる。」とムーアは述べた。

 

2000年にムーアとハワードは、野生種より大きく、それゆえに交配の確率も高いが寿命の短い魚を放流すると、40世代時間で野生種を絶滅に追いやることをみつけた。ムーアとハワードはこれを「トロイの遺伝子仮説」と名づけた。 しかしさらに研究することにより、 絶滅にいたるいくつかの他のシナリオが見つかった。 そのひとつとして、 ある遺伝子組み換えでオスを大きくし、 その結果そのオスはより多く交配の機会を得、寿命も長くなるとする。しかし、仮にその組み換えでオスが野生種より生殖能力が低くなるという3番目の性質を持っていた場合、野生種はたったの20世代で滅びるだろうと予測される。

 

「私たちは、これは非常に危険であると考える。」とハワードは述べた。「これは、私たちがいままで遭遇したうちで最も厳しい時間枠である。」 さらに彼は、野生種へ遺伝子が広がるのを制限するためのひとつの手段として生殖能力を低くするなら、 こうした危険が高まってくるだろうと語った。「GM幼魚が野生種のそれぞれの個体より生存率が高いとき、GMOの繁殖力を低くすると、野生種の絶滅までの時間は遅くならずに(逆に)より速くなる、ということは私にとって驚くべきことであった。」と彼は述べた。「私は今でもグラフ上のこれらのデータを見ると、はっとするのである。」  

研究者たちはさらに、導入遺伝子が野生種全体に広がっていくにもかかわらず、その野生種のポピュレーション総数は減らないシナリオがあることも発見した。 彼らはこの現象を、侵略危機と名づけた。「侵略危機とは、全体の危険性を評価するときには正体不明のものである。」とハワードは言う。「こと生物学に関しては、遺伝子はその生物の個体群のなかで増えるものだとしかいえない。 それが真に問題となるかどうかはわからない。 この件に関しては、組み換え遺伝子を自然界に実際に放してみなければなんともいえない。」

 

この研究の結果は科学誌‘トランスジーンリサーチ’の最新版に発表された。USDA(合衆国農務省)のバイオテクノロジー危険性評価プログラムの資金援助を受けている。 パーデュー大学の研究は、バイオテクノロジー、特にある生物種から別の種に遺伝物質を移行させるトランスジェニックテクノロジー(種の壁をこえた遺伝子組み換え技術)の危険性をみきわめるため、パーデュー大学とUSDAとで現在おこなわれている仕事の一部である。

 

「危険性に関して徹底した公正な検討があってはじめて、消費者はトランスジェニックテクノロジーの利用を信頼するだろう。」とムーアは述べた。

 

最新の研究によれば、遺伝子導入によって免疫応答性を改善し病気や病原体への抵抗力を向上させ、成体の生存能力を高めるようにした場合、いくつかのきわめて重大な危険性がときに起こってくることがわかった。 「成体の健康を増進することが種全体に害を与えるというのはいささか逆転の発想だが、仮に生殖力が弱まればそのようなことが起こるということが、私たちにわかったことだ。」とハワードは述べた。

 

この科学者たちは言う。「遺伝子組換えから大きな危険性が生ずるのは、異種の生物からひとつの遺伝子を別の生物に移すことが原因だ」と。 「その遺伝子は生物体にとって新しい機能を与えるという莫大な影響を及ぼすかもしれない。」とハワードは語った。

一方、今までの交配は関与する生物種の遺伝子だけに影響し、その生物間で多数の遺伝子の交換を起こした。 科学者たちはそれを多数遺伝子の伝達(polygenic inheritance)と呼ぶ。 「選択交配は、ひとつひとつが小さい作用をもつ多くの遺伝子の作用が蓄積した結果である。それに反して、たいていの遺伝子組み換えは、ひとつの遺伝子が大きな作用をになう。」とハワードは言う。 「この二つの方法は実質的同等ではない。もっとも法的には実質的同等であるかのように定められているかもしれないが。」 ムーアとハワードは、組み換え体の遺伝的背景が潜在的な危険性のカギを握るだろうと述べた。

 

2001年のカナダ王立学士院の報告によると、トウモロコシや大豆のような高度に作物化されたものは自然環境の中ではめったに雑草にならない。なぜなら「栽培種はきわどい人工的なスクリーニングの結果、遺伝的に偏りがあるからだ。」 「これは、動物が野生に近ければ近いほど、その動物を使って組み換え生物をつくるときの環境リスクは大きくなるということを示す」とムーアは語った。「別の言葉で言えば、組み換え鮭は、組み換え牛より環境にとって脅威となるということだ。」

 

ムーアは、自分達の仮説実験は自然界で起こっていることを反映しないかもしれないと認めている。しかし、これらの実験は誤っても警告しすぎるに越したことはないだろうと述べた: 「もしこれらの植物や動物が実験室段階で危険であっても、自然界で危険であるとはかぎらないだろう。なぜなら、自然界はそんなに都合よくできていないからだ。 実験室で危険であるとわかったことでも、自然の中では少しも危険でないことがあるかもしれない。私たちは、これは危険をみきわめるための慎重な方法だと思っている。」

 

GMOの危険性についてもっと厳密な検証をするには、自然環境をそのままとりいれた実験施設を建設することが必要である。ムーアは、企業のなかにはすでにそのよう実験施設を作ることを考えているところもあると言う。 「できるだけ自然環境に近い複雑な実験施設を作るには何百万ドルもかかるだろう。」と彼は述べた。「誰もそれが簡単にできるとは言わなかったが、いませまっている危機の事態はそれだけの資金をつぎ込むほど重大なのだ。」

 

Organic Consumers Association (有機消費者協会)

6101 Cliff Estate Rd. ,  Little Marais,  MN  55614

 

訳注:原論文は:Transgenic Research 11101-114,2002

                            William M. Muir and Richard D. Howard

              Assessment of possible ecological risks and hazards of 

transgenic fish with implications for other sexually reproducing organisms

 

 

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