GEコーンの汚染で30件の訴訟事件が発生
デイリー・ビジネス・レビュー
2002年9月18日
アンドリュー・ハリス
訳 河田昌東
一方が「それは不法行為が暴れまわっている例だ」と言えば、他方が「それは正当な要求だ」と主張し、遺伝子組換えコーンのメーカーに対する訴訟グループは、10億ドル(訳注:約1200億円)を賭けた訴訟に踏み切ったようだ。
殺虫機能をもつスターリンクというコーンの一品種が人間の食物連鎖の中に入り込んでから2年間に、約30件の訴訟がそのコーンの作成者、生産者、販売者に対して農民や消費者、ファストフッド・フランチャイズ店などから提起されている。フランスの企業アヴェンテイス・クロップ・サイエンス社が開発したこのコーンは、穀物価格の下落を招き、蕁麻疹を発生させた上、スターリンクで汚染した粉で作ったタコスを知らずに売った100以上のタコベル販売店に汚名を着せた、として非難されてきた。
アヴェンテイス社は市場からスターリンクを回収するのに8千万ドル以上支払い、昨春アヴェンテイスを含む被告企業グループが一つの原告団に9百万ドル支払う和解調停に入った。しかし、現在その製品は人間に有害だとも食べて安全だとも証明されていない。この責任問題は、合衆国のシカゴ地方裁判所おけるいくつかのケースについて、来春の公判で徹底的に議論される見通しである。「不法なシステムがまた暴れまわっている」と抗議するのはアヴェンテイスの弁護士でニューヨークのSkadden
Arps Slate Meager & Flom事務所のシェイラ・バーンバウム弁護士である。彼女によればこの訴訟は個人的な損害に基づくものでなく、「非常に新しい不法行為論」によるものだという。約40万人の非スターリンクコーン農家の集団訴訟を代表する弁護士のデービッド・A・P・ブロワーは、彼の依頼人達は非常に具体的な主張をしていると反論している。なぜなら遺伝子組換えコーンが意図しない汚染によって彼らのコーンをだめにした。そのために、価格も下がり、アメリカの主要な輸出商品のボイコットまで起こしてしまったからである、という。
これらのケースの多く、全部で27件は、シカゴの合衆国地方判事のジェームス・B・モランのもとで、多地域訴訟(MDL)として統一された。これらの訴訟事件でSkadden
事務所はアヴェンテイスだけでなく、トルテイーヤ・メーカーのクラフトフーズ社その他の被告企業も弁護する。7月11日に、モランは原告の訴えを却下すべきだという被告側の申し立てを一部却下し、風で飛んできたスターリンクの花粉で作物がだめになったと主張するブロワーの依頼人の農家が主張する同社の怠慢と公私にわたる妨害を認める発言をした。モランは農家のコーンに対するダメージは補償可能な物理的損害である、と主張する。
作物に有害な害虫に対する抵抗性をより強くするためにアヴェンテイス社はコーンに、Bacillus thuringiensis(Bt)からとったCry9cという遺伝子を埋め込んでスターリンクを作った。スターリンク販売前にアヴェンテイス社は合衆国の環境保護庁(EPA)の認可を得なければならなかった。EPAのスポークスマン、デービッド・デイーガンによれば、2回の公聴会で、アヴェンテイス社はスターリンクが人間の食用にしても安全だという決定的な証拠を出せなかった。その結果、このバイオサイエンス企業はこのコーンを期限付きで、動物の飼料と工業原料としてのみ認め、人間の食用にはしない、という「差別認可」を与えられた。
EPAはアヴェンテイス社に対して、食用コーンを栽培している農家の畑から少なくとも660フィート離してスターリンクを植えるように、という注意書きを添付するように要求した。原告農民らは、アヴェンテイスがそうした警告をつけなかったために、交雑汚染をもたらした、と主張している。 2000年秋に、スターリンクが人間の食物連鎖に入っている、という最初の報告があり、いくつかの食品が回収された。そして、スターリンク・コーンの回収と同時にアヴェンテイス社はこの「差別認可」も断念した。 少数の被害者の訴えに応じて、合衆国疾病予防センター(CDC)はCry9Cタンパク質で汚染した食品を食べてアレルギーになった、と主張する24名の人々を検査した。2001年6月の報告書でCDCはスターリンクが被験者のアレルギー反応とは無関係だという結論を出した。 「この発見は被害者が経験したアレルギー反応は、Cry9cタンパク質に対する過剰な反応と関係があるという何らかの証拠を与えるものではない」と報告書は書いている。しかし、CDCはスターリンクによるアレルギーの可能性を完全に排除する事は出来ない、とも追加した。なぜなら、食物アレルギーは研究者が測定した血清に変化が検出されなくても起こることがあるからである。後に行われたEPAの調査でもスターリンクが安全であるかどうか決定的な結論を出すことは出来なかった。
にもかかわらず、7月の公判で判事はひとたび汚染が起こればその作物を汚染から回収することは出来ない、と結論した。「ひとたび混ざれば、コーンを食べられるものと食べられないものとに再分別する方法はない。そのバッチ全体が汚染した、と考えざるを得ない。・・・そのコーンを人間の食品として使うことは出来ない。」
アヴェンテイス相手の裁判で2ダース以上のタコベル・フランチャイズ店、種子生産者、製粉業者、トルテイーヤ生産者を代表するマイケル・リンは「問題は彼らが人間の食糧供給システムにこれが入り込むと予想出来なかったことだ」という。 ダラスのLynn
Tillotson and Pinker事務所の同僚はリンに、フランチャイズは彼らが売った食品が人々に病気を起こすかもしれない、という報告で非難されたと主張している。原告らはアヴェンテイス社とガ―スト種子会社を詐欺罪で訴え、全ての被告に対して過失と共謀、人間の食用に適合するコーン生産の製造責任と保証の侵害の罪で告訴している。損害をどのようにして立証するのか、と聞かれたリンは、「回帰分析」を使って2000年秋に出された報告書の前と後における食品販売の整理を行う、といった。 彼は損害が10億ドルにも達するだろうと推定している。ガースト社の弁護士ピーター・L・レスニク(シカゴのMcDermott
Will &Emery事務所)はリンの主張を拒絶した。「私はそんな主張にメリットがあるとは思わない」と彼は言い、次のように付け加えた。「全ての申し立ては主因を含み、沢山の要件を欠いている。」 特に詐欺罪についてレスニクは「ガースト社はスターリンク種子の説明に関し、それを買った農家と非常に良いコミュニケーションをとっていた」という。Skadden事務所のバーンバウムは、非スターリンク栽培農家のシカゴMDL訴訟に関して同様のトーンで批判する。「彼らの議論はコーン市場全体が価格下落し、彼らの権利が傷つけられた、というものだ。彼らは、実際は損害をこうむっていない」とバーンバウムは言う。
ニューヨークのWolf
Haldenstein Adler Freeman & Herz事務所の弁護士ブロワーはこの意見を否定し、「我々は市民が傷つけられたと信じている」と言った。損害額の推定を断りながらも、彼は原告40万人の数をこの事件を連邦裁判所に持ち込む費用、75000ドルに掛け算すればどうなるか、といった。その数字は300億ドルにもなる。
昨年、シカゴの法律家クリントン・A・クリスロフは、アヴェンテイス社、ガースト社、クラフト社に対して消費者が起こした裁判の和解を勝ち取った。彼らは人間の食用に適しないコーン食品を食べさせられた、として提訴したのだった。その和解額は900万ドルだった。
* 著者のアンドリュー・ハリスは全国法律ジャーナル・レポーターで、デイリー・ビジネス・レビューの会員である。
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