フランスの在来種種子に遺伝子組換え体混入が発覚

 

2001年7月23日 

メゾン・アルフォール

訳 芦川誠三

 

 200173日、フランス食品衛生安全協会は、カリフラワー・モザイクウイルスの35Sプロモーター(CaMV35S)を指標にして、微量の遺伝子組み換えトウモロコシの種子が危険度0.2%の有意差で実際に観察された、との公衆衛生上の知見を公表した。

同じく73日、遺伝子組み換えの環境への影響評価を行っている分子工学協議会(CGBM)も、同様の意見を提出した。

フランス食品衛生安全協会は、719日に開かれた生物工学専門家委員会にも諮った上、以下の見解を発表した。この分析は72日分子工学協議会に提出された意見も取り入れているものである。

 

知見のあらまし

 

消費競争不正防止局は、20002001産の菜種、大豆、トウモロコシの種子に関する研究プログラムのなかで、112の採取標本のうち19について、ごく微量(検知限界である0.1%強)CaMV35Sプロモーターと思われる配列を検出した。

 

トウモロコシについては、その検出率は41%になる(39サンプルのうち16)。ただ分析の結果、35Sプロモーターが検出された事例の半数(8サンプル)については、遺伝子組み換えの特徴とされるBt 11Bt 176T 25MON 810CBH 351などとの関連性を認めることはできなかった。

 

717日、分析の結果とそのコメントが当協会に伝えられた。

  * 8サンプルのうち1サンプルに、ラウンドアップレデー大豆と一致する配列が検出された。

  *  同じく、他の3サンプルにラウンドアップレデー遺伝子組み換え体と同一であることを否定し難い一致が検出された。

  * 8サンプルにおいては、プロモーターが使われたときに特徴的なカリフラワー・モザイク・ウイルスの配列は検出されなかった。

 

35Sプロモーター検出はどのような意味をもつか

 

     ほとんど可能性はないのだが、トウモロコシの種子にCaMVのプロモーター配列が検出された場合、プロモーターが(トウモロコシ遺伝子も)発現させるという仮説がある。この仮説は実際の実験により否定されたようである。

 

    反対に、他の性質が種子の世代を越えて汚染するという仮説は否定し難い

 

    分析段階での粉砕・抽出・PCRなどによる汚染の可能性を排除するための実験も行われた。しかし、検出された35Sプロモーター配列は、電子泳動による分子量でしか特徴をつかめないものであり、明らかに35Sプロモーターが充分な量存在するという証拠を観察できたにすぎなかった。その原因を証明する技術は、たとえば、遺伝子の連鎖性を立証できるだけの因果分析、afnor  xpvo3-02061 基準によるハイブリダイゼーションなどである。後者の技術は特に分子量ベースの検出に有効で遺伝子組み換えか否かの検証にひろく採用されてきている。一方で、検出された量が極めて微弱であることを考えると、検出を有意なものとして示すには3回の実証が必要であろう。一般的には、結局のところPCR定量分析がもっとも多く採用されている。

 

    出所の異なる沢山の種子の中で何をもって遺伝子組み換えの根拠とするのか

     

在来種トウモロコシの種子の山の中で、35Sプロモーターの存在を示すに充分な量のDNA断片の由来はさまざまである。認められている遺伝子組み換え体の大部分に使用されている35Sプロモーターがあれば、それは組み換えの痕跡である。

 

     在来種の種子にたまたま見つかる遺伝子組み換え体は、以下の状況によるものと推察できる。

       −栽培したものであれ、輸入されたものであれヨーロッパ域内での流通が原因

       −90/20綱領bに基づくヨーロッパ域内での、または世界の他の国で開発(栽培)

       −フランスが種子交易をしている他の国で流通している遺伝子組み換え体

       

     これら種々の過程以外に考えられる遺伝子組み換えの可能性も、先験的には排除できないが、遺伝子組み換えを行っているすべての国で、それが制限されていることから、きわめてすくないと考えられる。

 

     従って、一番可能性の高い仮説は、いくら微量であっても、種子の栽培または流通が認可されているいくつかの遺伝子組み換え体に由来すると考えられる。トウモロコシに検出された数値が0.1%以下であっても、35Sプロモーターが見つかれば、同時にそれぞれ0.03%の割合で他の認可された3種類の異なる遺伝子組み換え体が混ざっていても検出される。これら遺伝子組み換え体のいくつかが、関連する8つのサンプルのうち4つを汚染している大豆からの場合もありうる。

 

     一方、分子工学協議会も指摘しているように、一般的には、35Sプロモーターによる遺伝子組み換え体および既知の遺伝子組み換え体と一致する配列が検出されても、ごくわずかであるが識別できない他の遺伝子組み換え体や、また、組み換えの過程で35Sプロモーターを含まなくなった遺伝子組み換え体の存在を排除できないことも確かである。   

 

     現実の与えられた状況では、いくつかの分析で、観察される手段では微量の偶発的な遺伝子組み換え体よりも高い確率で組換え体が存在するかどうかは知ることができない。従って、必要な補正もできない。つまり、偶然の遺伝子組み換えの発生がより一般的な状態を反映するということになろう。この仮説は以下の観察で裏付けられるであろう。

 

     在来の種子に混入する遺伝子組み換え現象は以下のような実態と考えられる。

       −dgccrf の行った分析が示唆しているのは、在来トウモロコシの種子の41(39のうちの16)が偶然遺伝子組み換え体を含んでいるということである。分析数がごくわずかであり、また、サンプリングが部分的に事前に操作しうる状況で、多分この頻度は過大評価されている。

       −20002001年に収穫されたトウモロコシの在来種子に見られる遺伝子組み換えに関し、5000の採取標本をもつ種子企業の自主検査によれば、フランス産および輸入の種子の7%は、1%ないしそれ以下の確率で遺伝子組み換え体を含むということである。観察された組換え体出現の頻度は輸入もののほうが高い。どのくらいまでならいいのかという基準がないので、0.1%という閾値を下回る結果から、その報告には、遺伝子組み換え汚染は存在しないとの表現がみられる。平均7%という頻度は、在来種子の確率にあてはめれば、偶然の遺伝子組み換え体混入を過小評価させている。

 

        結論を言えば、最初の分析では、在来トウモロコシ種子に遺伝子組み換え体が偶然混入する頻度は、2つの値(41%と7%)の間にあると推計できる。 

 

     フランスでは毎年、30004000ロットのトウモロコシの種子が蒔かれていて、これは300万ヘクタールに相当し、そのうち34ヘクタールが流通している(認可されている)遺伝子組み換え体トウモロコシである。遺伝子組み換えトウモロコシの花粉の影響は、フランス農業においては、諸外国にくらべ小さい。世界の4400万ヘクタール(アメリカ68%、アルゼンチン23%、カナだ7%:出所isaaa 2000、クライブジェームス)では、連作、あらゆる種類の野菜の混在等が耕作面積の重要な一部を占めている。

 

     分子工学協議会によれば、畑間の距離をあけること、花粉を防止する植生など囲い装置で厳重な隔離再生産が出来ることがまだ理解されていない。これらにより、遺伝子組み換えの拡散は隣接地の受粉0.1%にまで抑えられるのである。現在、微量の遺伝子組換え体が混入した種子と、少量の試験栽培による遺伝子組み換え体の拡散との相関関係の研究がすすめられている。   

 

     地域ごとに特定の純粋種があるという概念は、各植生が固有で、花粉交換の許容量と工場での種子の処理と調整の段階における汚染の可能性を考慮してのものである。許認可局の資料によれば、流通しているトウモロコシの種子の純粋種はこの20年間増加し続け、1999年には平均99.5%になっている。(自然受粉による汚染が0.2%、他の耕作地からのコントロールできない受粉による変種からくるもの0.32%で、後者の汚染は防ぎ難くまた種子生産の年による変動が大きい)

 

 

    これらトウモロコシの消費による健康へのリスクは何かあるか

 

     種子の中の微量の遺伝子物質のもたらすものについて、それを検知した人から提示されたリスクをどう評価したらよいのか、それについて専門家は、いくつかの仮説に基づく推理によってしか判断できない。

 

1.   研究がさらに進み、現在観察されている兆候が、解析可能な人為的なものとわかれば、リスクの問題はなくなる。

2.   今後の研究により、現実に認められ遺伝子組換えのほとんどに使用されている基本的なこの35Sプロモーターによる汚染を認めることになれば、播種および流通が認められている遺伝子組換えが、実験室での閾値より低い水準で、偶然発生したという説明が充分説得的である。この場合、在来種トウモロコシの種子の各ロットにおける極めて低い検出値、世界で行われている科学的な追求で明らかにされるリスクの評価、国際的な刊行物に発表される資料、人々が遺伝子組換えを使いこなすまでの時間などを考慮すると、現在の種子から生れる産物のリスクが現実にでてくる可能性は極めて低いと思われる。

3.   この分析結果が、未認可または評価が行われていない、健康に特別にリスクのある遺伝子組換え種子の特異な結果だとする仮説は専門家の間ではほとんどありえないとされている。

 

結論

 

  ―いくつかの産出ロットにおける35Sプロモーターの検出が必ずしも、その種子のなかの微量の組換え遺伝子の発現を意味しないという不確実性、

  −いまだ不明の組換えによる遺伝子の発現が最終的に確認されたとしても、その毒性や特異性は極めて微弱であると考えられること、

  ―試験サンプルにおいて確認されたならばそれはより一般的な状態の反映であること、

 

これらを考量すると、フランス食品衛生安全協会は以下のように考える

 

ハイブリダイゼーションに関し、得られた結果の意味をより確実なものとする試験をさらに続けるべきである。

プロモーターにかかわる問題の本質を明らかにするという視点での実験をさらに行うべきであり、それを、世界中で栽培されるどの遺伝子組換え体も、ある一定の手続きで、そのデータバンクにアクセスできるような便宜をもうけるべきであろう。

現産出品に検出されるのは極微量であることを考えると、現段階で我々が知る限りでは、いかなる点においても、公衆衛生上のリスクをもたらすものではない。

現在得られるデータでは、偶然見つかった遺伝子組換え体は、現産出品に限られると結論づけることはできない。

現事象が、多くの分析によっても微量の遺伝子組換え体の存在を示すものであれば、厳密なサンプリングとその現象が一般的におこりうる度合いを確認するためのより大々的な分析にとりかかるべきであろう。

種子のかなりの割合において遺伝子組換え体の混入があると確認されれば、出所を特定し、おこりうるリスクを評価し、新たな状況での閾値を決めるためのデータを取得する研究が中心となるべきであろう。

 

マルタン・イルシュ

 

 

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