ヨーロッパの新規則で全ての遺伝子組み換えを撃沈できる

 

市民科学大学(The Institute of Science in Society)

8月28日 2001年

抄訳 山田勝己

 

遺伝子の安定性を確認できる詳細な組み換え体の分子構造文書を要求する新しいヨーロッパの法律は、具体的で簡潔であり、バイオセーフティ審査の唯一最も重要な基準である。 アンジェラ・ライアンとメイ・ワン・ホーは、この基準があれば、いかにこの技術が不毛であるかを暴露できたのに、数十年の歳月と何十億ドルもの資金が無駄になったのは何故なのかと問う。

 

計画的GMO(組み換え体)リリースの新欧州指針2001/18/ECは環境グループから歓迎を受ける一方で、GM推進者特にアメリカから貿易制限の色合いが強くかつ機能しないと非難されている。 新行政指導の特筆すべき点は、GMOが遺伝子として安定であるという分子データを求めていることで、これが厳密に実施された場合殆ど全てのGMOが不適格となる可能性が高い。

GMOリスクに対する最初の防衛線は、「遺伝子及び発現の安定性」と「他の生物へのGM物質の伝達を検出する技術」を含む、遺伝子組み換えの特性を明らかにするための技術的、科学的詳細である。 ISISやその他の研究者は、GMOが不安定であるとずっと警告してきた。 そして、いかなるGMOも環境へ放つ前に組み換えた遺伝子の安定性を示す分子データを提出すべきだと主張してきた。 組み換え配列が安定でない限り、長期的な環境や健康への影響を研究する意味がない。これは、懸念を持っている人にはよい知らせだ。 データが監督機関によって簡単にチェックできるので、バイテク企業にとって承認手続きが簡単になるし、透明性と信頼の回復につながる。

 

ベルギーの研究グループは最近、モンサントのラウンドアップ・レディ大豆を使って具体的にどうするかを示している。 モンサントの承認申請用技術資料では、ラウンドアップ・レディ大豆には、意図する配列を持った遺伝子が一つだけ挿入されているとある。 分析の結果外来遺伝子と宿主(組み換え遺伝子を受けいれた)ゲノムが共に撹乱され(再配列され)、数百の未知のDNA塩基対が入り込んでいた。 この時点でRR大豆は取り下げられるべきだった。 方法は比較的簡単で分かりやすく、どんなGMO(植物、動物)にでも応用できる。

 

行政指導の、非商業リリース用の特別手続きは抜け穴になりかねない。 その代わり、第7条の特別手続きでは、当局担当者が古い行政指導90/220の簡便化した手続きが使えるようにしてある。簡便化した手続きが適用されるのは、「特定のGMOリリースについて充分の経験を積んでいる」場合で、当局が「リリースによって起こるリスク予測を評価するのに必要最小限の技術情報を得る」事を可能にしている。 現在の行政指導にある特別手続きの最低基準には、分子特定(付則 V)が含まれている。 「キャリアーDNAに使われている遺伝物質の配列やベクターの構造を含む、挿入された遺伝物質の特徴が良く分かっていることを示す情報でなければならない。」 しかし、従来の簡便化した手続きを使う場合は、除外される。

 

栽培規模の圃場試験の場合、特別手続きに該当するので、簡便手続きを適用する可能性がある。 だが最終的には全てのGMOが市場に出される前に新指導の要件を満たさなければならない。 従って、後で遺伝的安定性という最も基本的な基準に不合格になると分かっているGMOに投資する意味があるだろうか。 旧指導の簡便手続きを維持する意味がない。 恐らくGM推進者は全てのGMOが不安定であるという事実に直面できないであろう(2)。 これはEC自体が委託した研究で明らかになっている(3)。 フランスのブラシス・パスカル大学とドイツのマックス・プランク研究所がGMOの遺伝的不安定のメカニズム解明に貢献している。 

 

この中に次のように述べられている。

「バイオテクノロジーは、細胞に異種遺伝子を導入できるということが大きな比重を占めている。現在の最大の技術的問題は、組み換え遺伝子の予測不可能性にある。 細胞への導入DNAは、殆どランダムに組み込まれる。 つまりゲノムの予め決めた位置ではないということだ。

 遺伝子のランダムな組み込みに関係する生物学的プロセスは非相同組換え、として知られている。ランダムに組み込まれたDNAはしばしば複数個のコピーを含んだり、あるいはごちゃ混ぜになったりすることがある。多重コピーはまたしばしば他の遺伝子の発現を抑制し、その結果導入遺伝子の発現が不安定になったりする。加えて、このDNAは安定性が未知の場所に入ったり、ランダムに組み込まれたコピーの発現の結果、予期できない、望ましくない突然変異が宿主ゲノムに誘発されるかもしれない。我々は未だに植物遺伝子の正確な加工が出来るほど知識を持っていない。(4)

 

委員会は、GMOから微小植物や動物の内臓への水平遺伝子伝達を調査する資金も出している(5)。(これもISISが詳しく述べてきたことであり、GMOの構造的不安定性に直結している。) 研究では、「水平遺伝子伝達は除外できない」と言い、「フリーDNAが特定の物質中に何週間も存在し続けたり、周囲からDNAを取り込む自然な化学的能力を身につけるバクテリアさえもある。 更に、人や家畜の腸内、特に大腸においてDNAが長時間安定している可能性がある。」 遺伝的安定性というのは、具体性と方法の簡潔性からいって、恐らく唯一最も重要なバイオセーフティ・リスク評価の基準であろう。 この基準一つでこれまでの全てのアプローチが不毛であることを白日の下に出来たのに、何十年もかけて何十億ドルも費やされてきたのは驚くほかない。

 

世界を危機にさらし続けることを止め、損失を食い止めるためにも、理性あるGM推進者は今乗っている船を放棄する潮時ではないだろうか。

    

    ジョー・カミンズとメイ・ワン・ホーの "RR大豆のごちゃ混ぜ遺伝子" を参照, ISIS News 9/10, July 2001 ISSN: 1474-1547 (print) ISSN: 1474-1814(online)ジョー・カミンズの "遺伝子崩壊に直面するGM植物" とメイ・ワン・ホーの "不安定なGMライス" を参照, ISIS News 9/10, July 2001 ISSN: 1474-1547 (print) ISSN: 1474-1814 (online); その他ISISウエブサイトの情報

   この情報はMark Griffithsによる .  www.btinternet.com/~nlpwessex

     http://europa.eu.int/comm/research/quality-of-life/gmo/01-plants/01-14-project.html

 

  http://europa.eu.int/comm/research/quality-of-life/gmo/04-food/04-07-project.html

 

トレーサビリティ報告

新行政指導はどのように改善されたか。

新行政指導は、古い自由放任のマントを脱ぎ捨てるような様相がある。 以前はリスク評価が最小限で、表示が要らず監視も必要がなかった。 新しい規則では、全てのGMOは「この製品はGMOを使用している」という表示が必要であると同時に、圃場から食卓までの追跡性を保証することが求められている。 重要なのは遺伝的安定性を示す分子レベルの文書とリリース後のモニターが義務づけられたことだ。 行政指導2001/18は、GMOの影響は取り返しがつかないことを前提としており、カタルヘナ・バイオセーフティ議定書や生物多様性条約の延長上で予防策を取るべきだとしている。

 

市民との協議が義務づけられ、賠償に関してもEU全域で起きるあらゆる損害を補償する内容の法案が2001年末には委員会より提出される。

 

特筆すべきは、旧行政指導90/220で承認されていたものは、新行政指導の改定基準に基づいて更新しなければならないことである。 しかし、市場に出る物以外のGMOについては、新行政指導にも第7項の特殊手続きの部分が抜け穴になりそうだ。総合的環境リスク評価(ERA)が新行政指導で求められ、リリース後の人や生物多様性(農業と非農業)への長期的累積影響の強制的監視計画が義務づけられている。 

 関係諸国は、直接、間接、緊急、遅発、又は不測の影響について認識できるように追跡する事、そして、その調査に必要な財源を確保する義務が課されている。

 

GMOからの遺伝子伝達による人や環境への悪影響は、一件毎に精確に評価しなければならない。 バイオセーフティ評価では倫理的配慮もされている。 この枠組みを効率的に運用するために、委員会は、検査用GMOサンプル提出を含む集中認可手続き設定する予定だ。

 

ヨーロッパでは、GM物質を追跡するために特定性があって、高感度で信頼性のある技術を開発中だ。 申請者は、ベクターの性質、導入部分の全構造、GMOに残存するキャリアーや外部DNAに関する詳細を提出する義務がある。 挿入GMの発現も、植物の一生に亘って成長過程の発現もふくめ、完全に把握していなければならない。

 

組み換えに起因する人や動物への毒性、アレルギー性、その他の有害な影響が全て明らかになっていること。挿入部の遺伝的安定性とGMOの形質安定性を示すこと。 GMOから他の生物への遺伝物質の伝達や遺伝物質の非生命環境との相互作用を全て示すこと。 

新行政指導では、抗生物質耐性マーカーを2004年12月31日までに廃止するよう規定している。

 

市民との協議

 市民との協議は第9条で規定されており、ECと有識者の情報交換は第11条で規定されている。 第9条では、公開協議のために全ての情報の開示を求めている。

加盟国は、リリースに関して国民及びしかるべき団体と協議し、意見表明に必要な十分な期間をとりながら、協議に必要な手続きをとる。 委員会と当局のやりとり及び関連する地域のBリリース全情報は市民が閲覧できるようにしなければならない。 

委員会は広報の中で情報交換のシステムを創設する。 当局は30日以内に通知の要約を委員会及び市民に協議のために提出しなければならない。 委員会は30日以内に他の加盟国へこの要約を転送しなければならない。

 

付則

 EU指針には付則が7条ある。

付則TはGM動物やGM微生物など全ての種類のGMOを含む範囲を定義する。

付則Uは環境リスク評価の原則を示す。

付則Vは環境リスク評価自体とその類別からなる。

付則VAは高等植物以外のGMO届け出で要項を規定し、付則VBは高等植物のGMを規定する。

付則Wは、必要な追加情報を規定する。ヌクレオチドの詳しい配列とGMOを識別する方法を含む。委員会は一つあるいは数種の遺伝子組み換え登記簿を準備し、モニターと検査を補助する。

付則Xは、挿入遺伝物質の特性を明確にすることを要求している特殊手続き(第7条)に申請するための基準を詳細に規定している。

付則Yは評価報告書の指針を規定している。

付則Zは、総合的、強制的、個別のモニター 制度を規定する。

 

ヨーロッパ委員会トレーサビリティ法

ヨーロッパ委員会が7月25日に採択したGM食品及び成分の表示とトレーサビリティ規則は、生命操作された食品や飼料の全てに表示を求めている。 この中にはこれまで新種のDNAや蛋白質の検査が出来ないとして対象外とされてきた加工度の高いコーン油や大豆油が含まれている。 この規則案はヨーロッパ議会と大臣会議の承認が必要。 承認は得られるが、変更が入る見込み。

トレーサビリティ条項では、一貫して農場から生造工程を通して記録がなければならない。 この規則には非GM商品に予期せぬGM物質の混入に対する1%上限がある。 製造者は、この微量混入が「技術的に回避できない」事を示さければならない。 また、そのGM物質はEU又は他の国で食品として承認されていなければならない(6)。

 The Institute of Science in Society 

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