欧州委員会、EU有機農業アクション・プランを提案、GMO汚染基準は通常農業並み

農業情報研究所(WAPIC

(ドキュメント)

04.6.12

 欧州委員会は6月10日、「有機食品及び有機農業のためのヨーロッパ・アクション・プラン」(注1)を採択した。その目的は、EU有機農業の進行中の発展を助長することにある。そのために、委員会は21の実施すべき政策措置を提案した。欧州委員会は昨年2月、委員会作成のワーキングドキュメント(注2)を発表、オンライン協議、ヒアリング(今年1月)、様々な会合を通じてEU各国及び関係者との協議を続けてきた。これを踏まえて今回のプランを提案することとなった。プランは次回の農相理事会に提出され、正式採択に向けてのプロセスが始まる。

 プランは、@情報の改善、A公共政策の一層の有効化、B研究の強化、C基準と輸入・監査要件の強化を軸に構成される。

 情報の改善は、EUの消費者は有機農業の原則や便益について十分に知らされていない実情に鑑み、EU各国とEUの権限ある当局による客観的で、信頼できる情報の提供を図ろうとするものである。EU補助の資金によるEU規模の情報キャンペーンを始動させる。

 有機農業は、共通農業政策(CAP)の基本原則をなす環境尊重・持続可能発展戦略の重要な手段に位置付けられており、直接支払いや価格支持を通じて助成の対象をなしてきた。また、農村開発政策に組み込まれ、環境保全に重要な役割を演じると評価されている。公共政策の一層の有効化は、農村開発計画の枠内で、各国が利用可能な有機農業助成手段をフルに活用することを促そうとするものである。

 研究の強化は、有機農業の拡大と生産能力の増強のためには、新たな技術が必要という観点からして、大学その他の研究機関の研究計画策定から農場での訓練に至るまで、あらゆるレベルで教育訓練と研究の強化を目指す。

 製品が高い価格で売られることになる有機農業は、しっかりした生産基準や信頼できるコントロールなしでは存続できない。透明性を増し、消費者の信頼を高めるために、有機農業の原則を明確に定め、基準の一層の調和と強化、監査システムの一層の効率化・透明化を図る。

 この発表に対し、EUレベルの農業団体委員会(COPA)と農業協同組合総同盟(COGECA)は、それが主張してきた主要な原則を確認するものと歓迎の声明(注3)を出した。しかし、有機生産関連諸部門(加工・流通)の奨励策がないのは遺憾と言う。また、有機農業助成が各国有機農業者間の競争を歪曲することがあってはならず、それは、地域の生産条件に応じてEUレベルで定められる範囲内で枠付けられ、適用されねばならないと注文をつけている。

 フランス諸地域有機農業全国連盟(FNAB)は、分析のためになお時間が必要だが、このプランが有機農業発展のための多くの積極的要素を含むとする声明を出した。だが、有機農業基準に関して、委員会提案が遺伝子組み換え体(GMO)の偶然の存在の許容限度をEUの表示基準(すなわち、0.9%)と同等している(ただし、種子については別、これは現在、欧州委員会が検討中である)ことに強く反発している(注4)。多くの有機農業団体は、GMOの検出限界(0.1%)を基準とするように要求してきた。この問題は、今後の最大の争点となるに違いない。

 以下、提案された21の行動を翻訳・紹介する。

 1.有機食品市場

 行動1

 理事会規則(EC)2826/2000(域内市場促進)に修正を導入する。これは、欧州委員会に対して、有機農業に関する情報及び販売促進キャンペーンを組織化するための直接的行動の一層大きな可能性を与える。

 消費者、公共機関食堂、学校、その他食品チェーンの重要な関係者に有機農業のメリット、特にその環境便益を知らせるために、消費者の有機農業製品への意識と理解―EUロゴの理解を含む―を深まるための7年間にわたるEU規模の情報及び販売促進キャンペーンを始動させる。

 時折の消費者や公共食堂などの適切に定義されたタイプの消費者に対する必要に応じて調整される情報及び販売促進キャンペーンを始動させる。

 キャンペーンの戦略を開発するために、欧州委員会のEU各国及び業界団体との協同の努力を増強する。

 行動2

 EU基準と対比した様々な民間・国家基準(国際基準や主要輸出市場における国家基準を含む)を掲載するインターネット・データベースを立ち上げ、維持する。

 行動3

 有機製品の生産と市場に関する統計データの収集を改善する。

 2.公共政策と有機農業

 行動4

 EU各国が、有機生産にかかわる果実・野菜部門の生産者団体に向けられるEU助成に、援助を上乗せすることを許容する。

 行動5

 欧州委員会は、生産・販売・情報に関する有機部門が利用できるすべてのEU措置を掲げるウエブ・ベースのメニューを開発する。

 行動6

 欧州委員会は、EU各国が、農村開発計画の枠内で、利用可能な有機農業助成手段をフルに活用することを強く勧告する。例えば、次の諸事項に焦点を当てる国家または地域行動計画によってである。

 −新たな品質計画による需要サイドの刺激。

 −長期的な環境・自然保護のための便益を維持するための行動。

 −農場の一部ではなく全体を有機農業に転換するための有機農業者刺激策の開発。

 −有機農業者が非有機農業者と同等の投資支援受け入れの可能性を持つ。

 −当事者間の(契約的)取り決めによる生産チェーンの統合によって流通と販売を容易にするように生産者を刺激する方策の開発。

 −普及サービスの支援。

 −生産・加工・販売をカバーする有機農業の全事業者のための訓練と教育。

 −有機農業を環境的にセンシティブな地域において優先的に選択される管理手段と位置づけること(有機農業をこれら地域に限定することなく)。

 行動7

 有機農業・生産方法の研究の強化。

 3.基準と監査

 行動8

 有機農業の基本原則を定義することにより、規制を一層透明なものにする。

 行動9

 基準の強化と移行期間の予見される期限を維持することによる有機農業の無欠性の確保。

 行動10

 次のことによる有機農業基準の完成と一層の調和。

 −加工畜産製品に許容される添加物と加工補助材のリストの確立。

 −有機ワイン用の特別の基準を策定すべきかどうかの考慮。

 −動物福祉に関する基準の改善。

 −水産養殖などの他分野への範囲拡張の必要性の考慮。

 −環境に関する基準(エネルギー利用、生物多様性、景観、その他)を改善する必要性の考慮。

 行動11

 技術アドバイスのための独立専門家委員会の設置。

 行動12

 有機農業に関する理事会規則(EEC)2092/91に、

 −GMOを含むと表示される製品は有機と表示できない、

 −有機農業で使用される製品(種子以外)中のGMOの偶然の存在の基準は一般的表示基準と同等とする、

という条項を含める。

 有機農業に使用される種子に特別の基準が設定されるべきかどうか、またどんなレベルとすべきかの問題は、欧州委員会がなお考慮中である。

 行動13

 不正行為に関して最高のリスクを引き起こす事業者を標的とするリスクに基づくアプローチの導入と、規則(EEC)2092/91に基づくクロス監査の要求により、民間及び公的な監査機関の任務遂行能力を改善する。

 行動14

 有機農業で使用できるサンプリングと分析の方法を開発するために、進行中の欧州委員会共同研究センター(JRC)の研究を継続する。

 行動15

 EU各国は、CAP管理のために確立された土地片識別法を、有機農地の場所特定と監視のために利用する可能性を研究するべきである。 

 行動16

 監査団体間及び監査団体と規則(EEC)2092/91に基づく執行当局との間の協調の改善の確保。

 行動17

 規則(EEC)2092/91に基づく監査団体の特別の認可システムの開発。

 行動18

 欧州委員会は、承認された監査団体の監視に関する違反のタイプや件数も含むEU各国からの年次報告を公表する。

 行動19

 規則(EEC)2092/91を修正、現在の輸入に関する国による例外を、このためにEUが指定する団体による技術的同等性評価を利用する新たな永久的システムに置き換える(*)。これは、適切な協議の後、まだ同等と認められていない第三国の同等と認められる監査団体の単一で永久的なEUリストの開発を含むことができる。

 第三国との同等性の定義が各国の気候・農業条件・有機農業の発展段階を考慮するという保証は継続する。

 *現在の規則では、EUへの輸入は、EUが輸出国の有機の要件がEUシステムと同等であると認めるか、EU各国がケース・バイ・ケースで許可する場合に認められる(ただし、後者は2005年12月31日までの適用)。EUがEUシステムと同等と認めた国は、今までに7ヵ国にすぎず、90ヵ国以上がEU各国のケース・バイ・ケースの承認を受けている。

 行動20

 有機農業に関するEU基準、コーデックス・ガイドライン、IFOAMの基準のシステマティックな比較を確立する。

 EU各国、第三国、民間部門と協同し、世界的調和とコーデックス・ガイドラインに基づく同等性の多角的概念の開発に向けての努力を強化する。

 有機農業のために利用されるべき一般的支援手段により提供される可能性に関する情報を与えることで、EU開発政策の下での途上国の能力建設を支援する。

 [加盟途上国に対して異なる、一層有利な待遇を与えるべきであるというWTO技術的貿易障壁協定の第12条を考慮して]途上国からの有機製品の貿易を容易にする一層の措置を考慮する。

 行動21

 閣僚理事会[EUの決定機関]からの交渉委任を獲得することで、EU有機農業基準と監査システムの第三国における承認を強化する。

 

 

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 (注1)Communication from Commission to the Council and the European Parliament European action plan for organic food and agriculture,Brussels,10.06.2004,COM(2004)415final.

 (注2)農業情報研究所:欧州委員会「有機食品・農業のためのヨーロッパ行動計画の可能性の分析」(翻訳)

 (注3)COPA and COGECA welcome the European Action Plan for Organic Food and Farming,6.11.

 (注4)Plan daction européen en matière dagriculture biologique, réaction de la FNAB,Agrisalon,6.11.