EPAのBtコーン登録更新は無責任

Bt リスクは無視できるのか?

 

ISISレポート

2001年11月12日

抄訳 山田勝巳

 

アメリカ環境保護局(EPA)はBtコーンの花粉によるオオカバマダラへの影響は無視できるとして登録を更新した。メイ・ワン・ホーとジョー・カミンズは、この決定が性急で科学的証拠に甘過ぎるという。 

 

ジョン・ルーズィと同僚がコーネル大学でBtコーンの花粉がオオカバマダラ蝶を害するという発見を発表したとき、懸念が示されたのはオオカバマダラだけではなく、環境中の(標的でない)全ての種だった。 (Btコーンは、特定の害虫を殺すバチルス・チューリンゲンシスという土壌菌から分離されたBt蛋白を発現する組み換えコーン。)  残念ながら、大々的に報道される中で、もっと広いはずの問題がオオカバマダラへの影響だけに縮小されてしまった。

 

 だから、アメリカ環境保護局(EPA)が1999年12月にBtコーンの再登録を検討するための情報収集を発表したとき、農務省の農業研究部(USDA-ARS)は、2000年2月にBtコーンとオオカバマダラの研究優先順位を決めるためのオオカバマダラ調査ワークショップを後援すると回答した。 提言要請が4月に出され、その後運営委員会がUSDA-ARSと農業生命工学管理技術委員会の出す助成金で行うプロジェクトを選んだ。

 

このプロジェクトの結果は2001年の10月9日発行のアメリカ国立科学アカデミー会議録に公表され、EPAにBtコーンの7年間の再登録の許可を与えたと10月16日に発表された[1]。

 

一連のリスク評価の最初の書類[2]は、全ての研究で集められたデータに基づいている。 このなかで、たちまち安心させられる声明文がある。「この2年間の研究は、現在の商業ハイブリッドBtコーンの花粉がオオカバマダラに与える影響は、無視できることを示している。」

 

小さな字の書類を読むと次のように書かれている。

 

  a.. 「精製したBt蛋白の蝶や蛾の幼虫に対する毒性は周知の通り」これまでの、また今回の調査で確認されている。

  b.. 組み換えコーンがBt蛋白の一種Cry1Abを高濃度で発現すれば、蝶の幼虫を殺すばかりでなく、僅かな花粉粒子で成長を阻害する。

 

しかし、これだけでは懸念するには及ばないというが何故か?

 

第1点目で問題なのは、暴露の確率 Pe,は、3つの数字 I, o, と a, を乗じたもので全て1以下であること。

 

Pe = I o a

I はオオカバマダラがコーン畑を訪れる確率、 o は幼虫と花粉の飛ぶ時期の重なる確率、そしてa,はBtコーンを取り込む確率。

 

更に現実のリスクR ,は、暴露の確率Peだけではなく, オオカバマダラが致死レベル以上の花粉に曝される確率、Pt, これも1以下、によって決まる。.

 

R = Pe Pt

この方法で評価すればリスクは1%よりも低く0.1%となる。

 

Bt蛋白が有害だという証拠があるのにこのような手前勝手な議論に納得できるだろうか。執筆者達は、何ページも使ってこの予測数値をどう出したか説得力のない議論を展開しているが、信頼できるのは恐らくBtコーンの取り込み確率aだけだろう。

 

 毒性の研究は、急性影響だけで長期累積影響や環境文献、特に絶滅や生息密度に関する、では良く知られている非線形の影響は無視されている。 オオカバマダラ蝶の短期的影響調査では、標的外の種に対する影響を調べていないし、全ての要因が複合的に作用する相乗環境影響も検討されていない。

 

Btは既に下記のような更なる悪影響が分かっている。 2つの別の研究チームが、オオカバマダラ蝶の幼虫に対するBtコーン花粉の害を示す明らかな証拠[3]を見いだしている。

 

  a.. Bt毒を混ぜた餌を与えたクサカゲロウの幼虫とBt−コーンを食べたシンクイ蛾の幼虫の致死率が上昇した。

  b.. 森林害虫防除に散布されたBtで喉の黒い青鳴き鳥(black-throated blue warbler)の巣が減った。

  c.. Bt散布畑では、非Bt畑よりもシンクイ蛾の寄生虫,Macrocentris cingulum,が減っている。

  d.. 甲虫専用のあるBt (var. tenebrionis)調整剤で、飼育蜂の致死率が有意に上がている。

  e.. 土中に棲息するトビムシ Folsomia candida,(重要な分解虫)の致死率が、Cry1Abの組み換えコーンで有意に上がっている。

  f.. BtはBt植物片で土中に残るだけでなく、植物の根から活発に分泌され、土壌粒子と結合して180日以上残留する。 土壌分解生物や節足動物への影響は計り知れない。

  g.. Bt-作物がBt耐性を持つ害虫を加速度的に増やしている。

 

そしてBt毒は人のアレルゲンである。 Btスプレーに曝された農場労働者は、アレルギー皮膚感作を起こしており、スプレーに対しIgEとIgG抗体が誘発されていた[5]。 人に重傷の壊死を起こすBt株を、鼻から与えられたマウスは、臨床的毒物ショック症候群で8時間以内に死んでいる[6]。 Bt蛋白とBtジャガイモは、どちらも給餌試験で害があった[7]。 

 

 勿論、Bt作物推進者は、長期的には大惨事をもたらすような個々の影響の複合作用を無視して、危険評価で用いたのと同様の手法を用いてこの全部の項目を、一項目毎に「無視できる」レベルまで簡単に下げてみせるだろう。

 

 推進者は、Bt作物のリスクよりも害虫駆除に用いられる広範な農薬が減らせると恩恵を謳うだろう。 しかしこの謳い文句には証拠がない[3]。 過去5年間、Btコーンの作付け面積が著しく増えたにもかかわらず、殺虫剤を使ったコーン圃場の面積比率は約30%で変わっていない。 シンクイ蛾は、被害の少ない害虫で、アイオワ州では1995−1998年の間にシンクイ蛾用の殺虫剤を使ったのはたったの1−2%の作物である。 アイオワ州とミネソタ州の殆どの農家はシンクイ蛾用の殺虫剤を使ったことがない。 シンクイ蛾の被害が酷い年にだけ組み換え作物が非組み換えのものよりも成績がよい。

 

  1.. EPA press release Biotechnology Corn approved for Continued UseOct.2001

http://yosemite1.epa.gov/opa/admpress.nsf/ b1ab9f485b098972852562e7004dc686/8db7a83e66e0f7d085256ae7005d6ec2

  2.. Sears MK, Hellmich RL, Stanley-Horn DE, Oberhauser KS, Pleasants JM, Mattila HR, Siegfried BD and Dively GP. Impact of Bt corn pollen on monarch butterfly populations: A risk assessment. PNAS 2001, 98, 11937-42.

  3.. Obrycki JJ, Losey JE, Taylor OR and Jesse LCH. Transgenic insecticidal corn

: beyond insecticidal toxicity to ecological complexity. BioScience 2001, 51, 353-61.

  4.. Saxena D and Stotzky G. Bt toxin uptake from soil by plants.

 Nature Biotech.2001, 19, 199.

  5.. Bernstein I, Bernstein J, Miller M, Tiewzieva S, Bernstein D, Lummus Z, Selgrade M, Doerfler D and Seligy V. Immune responses in farm workers after exposure to Bacillus thuringiensis pesticides. Environ Health Perspect 1999, 107,575-82

  6.. Hernandez E, Ramisse F, Cruel T, le Vagueresse R and Cavallo JD. Bacillus thuringiensis serotype H34 isolated from human and insecticidal strains serotypes 3a3b and H14 can lead to death of immunocompetent mice after pulmonary infection. FEMS Immunol Med Microbiol 1999, 24,43-7

  7.. Fares NH and El-Sayed AK. Fine structural changes in the ileum of mice fed on dendotoxin-treated potatotes and transgenic potatoes. Natural Toxins:1998: 6: 219-33.

 

 

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