科学者はGM作物の不確かさを強調
健康への悪影響はまだ知られていないが、消費者と自然は守る必要がある
ザ・ガーデイアン
2003年7月22日
ポール・ブラウン(環境通信員)
訳 河田昌東
GMの国内商業栽培を早期に導入したいイギリス政府は、このテーマに関する世界で最も包括的で科学的な検討結果が昨日公表され、GM作物の利益よりも不確実性や潜在的なリスクがあると強調したことで、改めて逆戻りすることになった。 10日前、内閣府がGM作物の栽培は生産者と消費者にとって経済的利益が見当たらないと発表したのに続き、政府の遺伝子組み換え科学検討会はGM作物が栽培された場合、英国の環境と農家の生活に対する危険性を浮き彫りにした。
この報告書はGM推進派と反対派の双方の科学者から広く意見を求め、政府のチーフ・サイエンテストであるデヴィッド・キング卿が主導した。
この報告書の主旨は、予想よりはるかに慎重さを欠いているが、消費者と自然を守る必要性を強調し、GM技術の望ましくない副作用を排除するために、もっと研究が必要であると強調した。この報告書は、全編を通じてGM食品の導入で人の健康に明らかな影響は見られないものの、完全に安全だというのは同様に不可能である、とした。潜在的なアレルギーの問題がある。
恐らく、最ものっぴきならない結論は、有機栽培や在来種の畑を汚染させずにGM作物を栽培することは不可能だ、という見解だろう。イギリスで最もポピュラーに栽培されている作物の一つ、ナタネはもし商業栽培が許可されたらGMの汚染無しで栽培するのは不可能だ、と報告書は結論した。そうなれば在来農家や有機農家がGM表示無しに販売できるレベルを超えて汚染が生ずるのを放置することになるだろう。もし汚染が起こったら、販売ロスによる打撃をだれが補償するのかを検討する作業部会は出来たもののまだ結論には至っていない。
科学者らによれば、GM作物の栽培を許すかどうか、GMと非GMとの距離をどれだけとるか、といった決定は基本的に政治的なものだ、言っている。しかしながら、科学者らはこの秋に、過去3年間の政府によるGM試験栽培結果を含む、この間開発中のものに関する第2の報告書を9月に出す予定である。 デーヴィド卿によれば、委員会はGM作物に関する600に及ぶ論文を読み、イギリスで遺伝子組み換え食品や作物の栽培を排除すべきケースは見当たらなかったと結論したが、それはGMの全面的容認を意味するものではない、と言った。専門家はさらに調査が必要な4つの分野を特定した。食品アレルギー、GM生物による土壌生態系の変化、除草剤耐性作物導入によるイギリスの生物多様性に与える影響、生物種間の遺伝子伝達の影響、の4つである。
「国民はGMに今はメリットが無く、未知の潜在的なリスクがある、だから消費者が情報を得て選択できるように適切な表示が必要だ、と正しく認識している」とデーヴィド卿は言った。環境保護グループはこの報告書のトーンを歓迎しているが、バイテク企業もまた支持している。
前環境大臣のミシャエル・ミーシャーは政府の部分内閣改造で首になったが、その原因は彼が遺伝子組み換えに批判的だったからだと信じられている。彼は言った「これは、遺伝子組み換えの早期導入にとって後退だ。報告書はGM技術とその認可制度の弱点や矛盾、欠陥や限界を正確に指摘している。また報告書は我々がこの未熟な技術を食品や子ども達にさらす前に、やるべきことがたくさんあることを示している」
科学雑誌、ネイチャー誌の科学アドバイザー、ブリアン・ジョンソン氏は言った「意味があるのは、現世代GMの最重要課題が自然と野生生物に与える影響だとこの報告書が指摘していることだ」
バイオ企業団体の一つ、農業バイテク委員会は、この報告書がGM作物とGM食品による有害な健康影響が考えられず、また観察された事例もなく、遺伝子組み換えが作物開発の一つの選択肢として、他の育種方法同様に期待でき信頼できる、という見解を支持しているといった。しかし、英国ジーン・ウオッチ代表のスー・メイヤー氏は言った「世界中で人々はすでにGM食品の安全性のための実験台に、しかも観察もされずにされている。人間がモルモットになった結果どうなったか、確かな証拠を集めようという計画すらない状態だ。だから、この報告書は我々に現在のGM食品が安全だということを再確認させようとしたのだ。彼らはBSEから厳しい教訓を学んでいるように見えない」