英国GMコーン比較試験のデタラメ

 

ISIS プレスリリース

2004年3月12日

http://www.i-sis.org.uk/BogusComparison.php

訳 山田勝巳

 

アトラジンを使わなくともGMコーンが非GMコーンよりも環境にやさしいという研究論文は、極めて詐欺的だ。ピーター・ソーンダースとメイワン・ホーが報告

 

英国政府は、国民の反対とバイテク業界の圧力の板ばさみになり300万ポンドの税金をかけて「栽培規模試験(Farm Scale Evaluations’ (FSEs)」を行う事を認めた。コーン、ナタネ、砂糖ダイコンの3品種をGMと非GMを並べて栽培し比較するというものだ。

 

このFSEは最初から業界に利するように仕組まれているとして強く非難を受けていた。まず、有機栽培のものは評価に入っておらず、低投入 、総合管理方式で栽培されたものも評価されていない。

 

安全については、問題ないとして検討されていない。遺伝子拡散や野生生物、家畜、人間への全ての脅威、土壌生態系への影響が評価されていない。収量など重要な農業指標のデータは取っていない。

 

FSEは、多様性への影響をわずか数種の雑草や昆虫で推定する予定で、同じか“実質的的に同等(substantially equivalent)”であればGM作物は認可される。これはタイヤがOKであれば車検が通るようなものだ。驚いた事に、結果が公表されてみると、GMナタネとGMビート(砂糖ダイコン)は在来種よりも多様性に悪影響があった。ところがGMコーンは在来コーンよりもよいというのだ。それで、政府は、GMコーンは認可するが他の二つは商業栽培を認めないと発表した。

 

これは非常に好都合な結果となった。つまり、政府はこれによって科学的証拠をもって極めて慎重に判断していることを示せると同時にGMロビー側にはGM作物の商業栽培に認可を出せるのだ。重要なのは、GM作物がイギリスで商業栽培できるということで、それがコーンだろうがナタネだろうがビート大根だろうが関係ない。一度一つのGM品種が認められれば、北米で起きているようにGM品種からの花粉が非GM品種を汚染するという理由以外であれば、これに続くものがたくさん出てくる。

 

残念ながら、思わぬ障害があった。殆ど全ての在来GMコーンがアトラジンやトリアジン系除草剤で処理されており、ちょうど結果が発表されたのと同じ時期にEUが環境影響のためこの3種の除草剤を禁止した。ということはコーンの試験結果は無効になったということになる。

 

それで、まさに環境大臣マーガレット・ベケットがGMコーンの公式な認可を与えようという直前に、権威ある雑誌ネーチャーのオンラインに政府の見解を支持する論文が駆け込みで掲載された。その自信に満ちた表題は、「トリアジン除草剤の禁止は、除草剤耐性GMコーン栽培の恩恵を減らすかもしれないがゼロにはならない。」というものだった。この論文の11名の執筆者は、国立の研究所からで、ハートフォードシャー、ハーペンデンのローザムステッド研究所、カンブリア、ランカスターの生態学・水利学NERCセンター、サフォーク、ベリーセントエドマンズのブルーム・バーン試験場、ケンブリッジシャー、ハンチントンの生態学・水利学NERCセンター、スコットランド、ダンディーのスコットランド作物研究所からだった。

 

ここでの主張は、詳しい統計分析によると、トリアジン除草剤の禁止は、GMコーンの恩恵を減らしはするがマイナスになるわけではない。事実だとしたら、大変重要な結果である。

 

論文中のデータによると、トリアジン以外の除草剤を使った圃場はわずか4試験区だ。研究者はこれらをGMコーン圃場と比較して結果を導き出したのだろうか。そうではない。恐らく、これらに違いがなかったからだろうが、いづれにしても、生物多様性の見地からGMコーンが有利だというには試験圃場が少なすぎる。

 

それで、彼らはどうしたのか。筆者らは、16のケースではコーンが発芽する前にトリアジン除草剤を散布していると書いている。 24のケースでは発芽後にだけトリアジン除草剤を散布した。非トリアジン除草剤も同様に発芽後に散布した。彼らは、発芽前にトリアジンを散布した圃場のデータは入れないことにした。明らかに生物多様性への影響が他の処理よりもかなり悪いのだ。

 

こうして現在禁止となったトリアジン除草剤を発芽後に使った24試験区とトリアジン以外の除草剤を使った4試験区からのデータを、GMコーンのものと比較した。そして、有意な違いが出たため、主任研究員ペリーがBBCラジオ4トゥディの番組でトリアジンが使われない為GMコーンの恩恵は1/3になるといった。

だが、これは非常に誤った主張だ。というのは、GMコーンと比較された28試験区中24試験区は実際にはトリアジンを散布しているからだ。

 

論文には、「この除草剤試験区がトリアジン後の在来作物で除草状態を本当に表しているなら、また除草剤耐性GMコーンでの除草管理がFSEで見られるとおりだとするなら、最終的な雑草の数は在来コーンより除草剤耐性GMコーンの方が多くなるだろう。」とある。 この部分の前半を正当化するものは何も無い(筆者等自身が非トリアジン除草剤はトリアジンよりも生物多様性への影響が常に少ないと指摘している)からこの論文の表題で言っている事は全くの偽りである。

 

タイムス誌に掲載された下院環境監査委員会からの批判に対し、ネーチャーの論文の筆者の一人でFESのコーディネーターでもあるレス・フェアバンクは、「委員会の議長が世界に冠たる科学誌ネーチャーの発行後数時間のうちに研究が健全でも特別信頼できるものでもないというのは驚きだ」と答えている。

 

私たちは、そもそもこんな論文が品位あるいかなる雑誌の関門であろうが通った事が驚きで、「世界に冠たる科学誌ネーチャー」はいうまでもない。

 

そればかりではない。収量が量られていないのは、量った場合GMコーンと非GMコーンの違いが大きい事が曝露されるに違いないからだ。

 

引用

Perry JN, Firbank LG, Champion GT, et al. Ban on triazine herbicides likely

to reduce but not negate relative benefits of GMHT maize cropping.

 

Letter to the Editor from Les Firbank,  2-1034024,00.html

GM作物栽培に反対する市民ジーン・ソーンダースは、わざわざ地元のGMコーン試験を写真に取リ、GMコーンが非GMに比べて成育が酷く不良、開花の遅れ、実がかなり小さく少ないのを記録している。この記録の方が、研究者が集めたデータや商業栽培を認めさせたデータの長たらしい説明よりもよっぽど農家に関係がある。

Nature 2004 |doi:10.1038/nature02374|www.nature.com/nature

 

ペリー・JN、フェアバンク・LG,チャンピオン・GT等:トリアジン除草剤の禁止は、除草剤耐性GMコーンの相対的恩恵を減らしはしても否定する事にはならない。

 

 

 

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