論文4 The New England Journal of Medicie

Volume 345:1202-1203October 18, 2001, Number 16

 

編集者より

タフツ大学医学部 Sherwod L.Gorbach

 

抄訳 河田昌東

動物飼料への抗生物質利用―今こそ止める時

 

動物飼料への抗生物質利用は過去半世紀にわたってアメリカやヨーロッパで広く行われてきた。その中でも最も良く使われてきたのは人間に使われてきたペニシリン、テトラサイクリン、セファロスポリン、フルオロキノロン、アボパルシン(バンコマイシン類似)、バージニアマイシン(キヌプリスチンーダルフォプリスチン類似)やその類似体であった。これらは家畜が病気になっていなくても飼料高率増加や肥育効果があるとして用いられてきた。アメリカでは生産された抗生物質の約50%がこうした目的に使われていると言われる。憂慮する科学者同盟(UCS)によれば、年間2460万ポンド(11200トン)がこうした目的に使われ、900トンは動物治療用に使われている。それに対して、人間の治療には1300トンに過ぎない。

動物飼料用に抗生物質を使うことが人間の健康に度のような影響があるかに関しては、過去30年間論争があった。この雑誌の今号の3つの論文はこの問題をとりあげている。ホワイトらはスーパーマーケットの引き肉の20%が構抗生物質耐性サルモネラ菌で汚染していることを付きとめた。著者らは人間のサルモネラ菌の汚染の主な原因が家畜飼料への抗生物質混入であるとしている。サルモネラから大腸菌などへの遺伝子の伝播は良くあることである。2番目のマクドナルドらの論文は市販のチキンの17%がキヌプリスチンーダルフォプリスチン耐性の腸球菌で汚染していることを示した。それら耐性菌は人間の便にも検出された。原因はバージニアマイシンをトリの餌に多量に使っているからだと彼らは述べている。セレンセンらによる3番目の論文は、チキンと豚肉から分離された抗生物質耐性の腸球菌が人間の体内で死なずに、増殖することを示した。一度経口摂取されると14日間は生き延びる。

 

1999年に発表された他の研究によれば、アメリカでは年間140万人がサルモネラによる疾病にかかり、240万人がカンピロバクターと呼ばれる細菌で病気になっている。その研究によればサルモネラの26%、カンピロバクターの54%が抗生物質耐性である。

動物飼料に抗生物質を使えば使うほど耐性菌は増加し、病気の治療の可能性を狭め、健康のためのコストを高くすることになる。

もう一つの懸念は、遺伝子の水平伝達によって抗生物質耐性遺伝子が、人間の体内の細菌に伝播していくことである。

すべての抗生物質耐性菌が動物の飼料によるとは限らないが、多くの不必要な抗生物質の動物飼料への混入が、耐性菌の結果であることは明らかである。現在のアメリカのバンコマイシン耐性の腸球菌感染病の25%はそのせいである。いくつかのヨーロッパの国では一般人の12から28%がバンコマイシン耐性菌に感染している。

抗生物質を動物飼料に使う必要性はその経済性にあるといわれる。しかし、ヨーロッパではこうした薬剤の使用をやめた結果、経済性は逆に良くなった。

抗生物質は動物が病気になったときの治療用に限るべきである。また、フルオロキノロンや第3世代のセファロスポリンのような人間用の抗生物質は動物への利用を禁止すべきである。最後に肥育効果を求めて動物に抗生物質を投与するのは禁止すべきである。

 

(河田訳注)

これら4篇の論文を紹介したのは、アメリカでの抗生物質耐性菌の蔓延が、遺伝子組換え作物の増加と何らかの関連があると考えられるからである。勿論論文の著者らはそうした視点をもっておらず、そのための分析を行っていない。しかし、抗生物質の飼料への利用は過去半世紀も使われてきたにもかかわらず、1980年にはたった0.6%程度であった。ところが抗生物質耐性菌の汚染が1996年には20%以上に急増したのである。この時期はアメリかでやっと遺伝子組換え作物が本格的に栽培され、大豆やトウモロコシ、ジャガイモなどの多くが家畜飼料に取り入れられた時期に重なる。牛や豚、ニワトリの体内で組換え遺伝子のなかのマーカー遺伝子(多くが大腸菌由来の抗生物質耐性遺伝子である)が遺伝子の水平伝達によって腸内細菌に取り込まれたとしても不思議ではない。その多くが今回検出された、テトラサイクリン耐性やアンピシリン耐性遺伝子である。勿論、これら耐性菌の遺伝子を分析すれば分ることではあるが。こうした事実が証明されるのは時間の問題と考えられる。

 

 

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