ISISニュース

2003年8月1日

訳 山田勝巳

クローンへ死の宣告

 

「バイテク世紀の終焉?」ミニシリーズは、バイテク帝国の崩壊、特に2000年後半から非常に儲かるとされてきたバイオ医学部門の崩壊を分かり易く紹介するものです。彼らは今遺伝学とバイオテロ防衛を標榜して税金を注ぎ込ませようと躍起になっている。しかし、騙されてはいけない。

 

遺伝学とバイオ防衛が救うバイテクスランプ

暴かれる遺伝子治療のリスク

クローンへ死の宣告

 

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クローンへ死の宣告

 

世を騒がせたドリーのクローン技術には幕が下された。しかし、メイワン・ホーとカミンズ教授は治療用人クローンにも留めをさすべきだという。クローン羊ドリーの生みの親イアン・ウィルマットは、2002年10月のネーチャー誌のレビューでクローンに事実上死の宣告をした。クローン動物はその前年に「恐怖の殿堂」入りが決定しているのでこの死の宣告は時既に遅しである。

 

レビューによると現状のクローン技術ではリプログラミングの失敗で多くの遺伝子発現が不適切なため非常に効率が悪いという。これまで羊、牛、マウス、豚、山羊、ウサギ、猫がクローン化されているが、ラット、リーサス・モンキー、犬はクローン化できていない。成獣や胎児の体細胞を使った合成胚のたった0-4%のみが生き残る。胚発生の失敗以外に、胎児、出産前後や新生児に死亡率の高いことと奇形が多い。胚培養に起因するものもある。

 

通常、妊娠が確認された代理母の胎児の少なくとも1/3は懐胎中に死亡している。羊と牛では、血管数の減少を含む胎盤の形成異常が妊娠初期の主要な原因になっている。新生児で報告されている奇形もこれによるところがあるかもしれない。牛では死亡率が第2期と3期で(体外受精IVFより)増えており、胎児や胚の核を使うよりも成体の核を使うほうが死亡率が高い。胎盤液の過剰蓄積は自然な妊娠ではめったに起こらないが、体外受精では最大2%、クローン胚では40%に起こっている。クローンマウスでは胎盤が正常な場合よりも2-3倍の重量になっている事がある。

 

通常多くのクローン児は、出生時の体重増と肝臓肥大につながる重度の心臓血管系の異常や主要血管の拡張で生後24時間以内に呼吸困難を起こして死亡している。多くの種で肥満胎児が多い。長い妊娠期間、体液蓄積、臓器肥大、陣痛の遅れや呼吸困難も多い。出生後の異常には、免疫不全、脳の構造異常、消化器機能障害、腸炎、紐帯感染などがある。

遺伝的背景やドナーセルのタイプにもよる可能性がある。異なる株のマウスを別々に行なった研究では、卵丘細胞を使ったクローンの場合成熟して肥満になり、未成熟マウスのセルトリ細胞を使ったものは極若くして死亡した。それに対し、クローン牛では生理学的調査では少なくとも検査項目については正常であることを示している。だが、最も長生きしたものでも検査時で4歳だった。成功の鍵を握るものにはドナー細胞が細胞サイクルのどの段階にあるかにもよる。羊、牛、マウスでは、遺伝子発現異常やインプリンティング遺伝子の発現異常が時々見られる。胚幹細胞株に付き物の後生遺伝的不安定性がこのような細胞から作るクローンの失敗要因である可能性がある。

 

クローン先駆者ヤナギマチは哺乳類クローンの経験を総括して次のように述べている。現状では、細胞の種類(胚幹(ES)細胞も)や動物の種類に関わらずクローン効率は低い。黒毛和牛以外の動物では、大部分(97%)のクローン胚が満期前に死んでいる。このクローンにおける低成功率は、殆どがドナー核を卵に移植した後のリプログラミングが上手く行かないことによる。重大な後生的エラーの起こるクローン胚は、移植前か直後に死んでしまう。軽度の後生的エラーのものは出産を乗り越えて成熟するものもある。近交マウスのほとんど全部の胎児が出産時に呼吸器系の障害で死んでしまうがハイブリッドでは生きる。このことは異種遺伝型ではある程度後生的エラーをマスクしてしまうもののようだ。これまでのところ出産を乗り越えたクローンマウスは、正常な寿命を生き繁殖力があった。だが、健康懸念が全く無いということではない。特定のマウス株にある成熟後の肥満はその一例だ。

 

成長したクローン動物は肝障害、腫瘍、免疫不全などの異常を起こす。マウスの6世代連続クローンでは胚の生存率改善が見られず、選択によってクローン化特性が良くならないことを示している。問題は、クローンの欠陥が未解決な技術的問題によるものなのか、死亡や表現型の欠陥はクローン自体の根本的で修復不能の結果によるものなのかだ。

 

最近、マイクロアレー遺伝子チップを使ってクローンマウスの発生中の胚と胎盤にある10,000の遺伝子発現が調べられている。クローンは培養した胚幹細胞や卵丘細胞(発生中の卵についている母細胞のこと)から分離したばかりの核を使った胚を用いたもので、これの胎盤と肝臓細胞のRNAが濾過されている。結果は、どちらのドナー細胞種でもクローン動物に発現した胎盤の遺伝子の約4%が正常細胞とは全く違っており、異常発現している遺伝子ではその多くが卵丘細胞クローンと胚幹細胞クローンで共通していた。しかし、小さな遺伝子セットの発現では、胚幹細胞クローンと卵丘細胞クローンでは違っていた。クローンマウスの肝臓も胎盤細胞ほどではないが異常な遺伝子発現とは異なる遺伝子セットが見られた。従って殆どの異常はクローン操作に共通しており、それ以外のものはクローン核独自のもの(培養した胚幹細胞からのものでも新鮮な卵丘細胞でも)を反映していた。

 

クローン動物が商業的に成り立たないことは明らかであり、我々はずっと以前から倫理的に反対してきた。それでも多くの研究者が未だに治療用人クローンに賛成している。つまり、殆どの人が倫理的に受け入れられない胚幹細胞をつくってそれを組織移植のために犠牲にする方法で人胚クローンを作る。勿論、これはクローンに付き物の遺伝子発現とリプログラミング異常が胚幹細胞を見舞うという重大な安全性の問題を提起する。だが、これらの懸念はほとんど無視されている。

 

我々も多くの人も反対している最大の理由は、治療用の人クローンは不必要な悪だということだ。2001年の段階で既に患者自身から簡単に取り出せる成人幹細胞が格段に安全で有効であり費用の掛からない治療であることが分かっているのだ。 それ以降の研究でも臨床でも成人幹細胞の可能性は十分に確認されてきている。今年始めのランセットの最新レポートには、心筋梗塞の患者から取った骨隋細胞をその患者に注入し戻すことでいかに損傷した心臓組織を再生することが出来たかを報告している。

 

治療用人クローンや胚幹細胞研究もこれで葬り去られるべきである。

 

出典:

Wilmut I, Beaujean N, de Sousa PA, Dinnyes A, King TJ, Paterson LA, Wells DN and Young LE. Somatic cell nuclear transfer. Nature 2002, 419, 583-6.

 

cloned animals a gallery of horrors・ Science in Society 2002, 13/14, 8.

 

Yanagimichi R. Cloning experience from the mouse and other animals.

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Perry A and Wakayama T. Untimely ends and new beginnings in mouse cloning.

Nature Genetics 2002, 30, 243-4.

 

Wakayama T, Shinkai Y, Tamashiro K, Niida H, Blanchard D, Blanchard R,

Tanemura K, Tachibana M, Perry A, Colgan D, Mombaerts P, and Yanagimachi R.

Cloning of mice to six generations. Nature 2000, 407, 318-9

 

Ho MW. Human farm incorporated. Science in Society 2002, 13/14, 4-5.

 

Ho MW and Cummins J. Hushing up adult stem cells. Science in Society 2002,

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Ho MW and Cummins J. Human cloning & the stem cell debate. Science in

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Stamm C, Westphal B, Kleine H-D, Petzsch M, Kittner C, Klinge H, Schumichen

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