2002年12月4日
Nature
トム・クラーク
訳 森野 俊子
コーンがワタの害虫をBt毒素耐性にする可能性あり
GMなしの安全地帯を与えられた昆虫も、遠く離れた場所の組み換え作物を食べている。
合衆国の蛾は、夏の間ずっとコーンを餌にし、秋になるとワタを食べるため南部へ飛んでいくということが、新しい研究でわかった(1)。年一回の移動は、この害虫の遺伝子組み換え作物に対する耐性獲得を食い止める試みを妨害することになろう。
世代交代の間、蛾がどこに移動するかは、いままで熱い論議の的であった。それを知ることは、経済的に重要な作物を蛾から守るのに必須のことだからである。
ラレイにあるノースカロライナ州立大学のフレッド・グールドとその仲間たちは、考古学者が開発した方法を用いて、コーンイヤーワーム(Helicoverpa zea)あるいはコットンボールワームかトマトフルートワームとしても知られている蛾を追跡した。
合衆国南部のワタのうち40〜60%は、遺伝子組み換えにより、バチルスチューリンゲンシスという細菌のBt毒素遺伝子をもっている。そのため、これらのワタは多くの害虫を殺す毒素を作り出せる。この技術により、400億ドル産業で作物の減収を防いできた。
コーンイヤーワームは実験室内ではBt毒素に耐性を獲得し、もし野外で数世代にわたって毒素にさらされれば、耐性が強まる恐れがある。
それゆえ害虫の中に感受性のあるものを残しておくため、南部で栽培されるBtワタとコーンの量は厳しく管理されている。農家は遺伝子組み換え作物の圃場の間に非組換え作物の「安全地帯」をつくらねばならない。
同じ蛾が、アメリカ中西部ではコーンを食べ、南部ではワタを食べるというグールドの発見により、安全地帯戦略だけで耐性の害虫が拡散することを食い止めることはできないことが示唆された。
目下のところ、この発見はきわめてよいニュースである。今日、中西部の約25%のコーンだけが一般に広く使われているさまざまなBt毒素をもつが、組み換えワタほど昆虫に有効ではない。
それで残りの75%はイヤーワームをBtワタに対して感受性であるようにしておくのに役立っているのである。「コーンは大きな安全地帯として働いている。」とテュクスンのアリゾナ大学昆虫学者のブルース・タバシュニックは言っている。彼はこの新しい発見を「非常にワクワクする」と述べている。
しかし、仮にBtコーンのパーセントが増えると、これは新しい毒素が開発されてまもなく起こることだろうが、夏の間ずっとBtコーンを餌にする蛾は急速に耐性になるかもしれない。
その年の秋、南部に移動しワタを食べることにより、蛾の子孫たちは同様に、Btワタの作用にも免疫ができてしまうだろう。 「もし中西部の90%のコーンがBtコーンになれば、非常に困った事態になるだろう。」とグールドは述べている。
問題の大きさ
幼虫は数種の作物を食べ、蛾は動き回るので、「幼虫の時、蛾がどこで育ったか知るのは難しい。」とグールドは説明する。幸いにも、蛾は幼虫のとき食べたものをそのまま持っている。グールドのチームは2種の炭素同位体、12Cと13Cの比率を、テキサス州とルイジアナ州のワタ畑で捕った蛾の羽でほこりっぽい鱗粉にまみれて分析した。この手法は、ふつうは古代の考古学的遺跡の年代を推定するのに用いられている。
ワタとコーンは、光合成の仕方が少し違うため、含まれる炭素同位体の比率がやや異なっている。この違いは、そのまま、幼虫のときコーンなどを食べた昆虫と、ワタや大豆のような広い葉の植物を食べた昆虫の組織に記録される。
ワタの収穫期である10月に研究者たちの集めた蛾は、コーンの葉などを食べて育っていた。「それらはテキサスやルイジアナから飛来してくるはずはない。」とグールドは述べている。コーンは南部ではもっと早く収穫される。蛾は中西部のコーン畑から移動して来たにちがいない。」
参考文献
1 Gould F. etal
;バチルスチューリンゲシス耐性管理:Helicoverpa zea (コーンイヤーワーム)によるホスト交代についての安定同位体による調査,Proceedings of National Academy of
Sciences オンライン発表 doi:10.1073/pnas.242382499(2002).
http://www.nature.com/nsu/021202/021202-2.html