GM小麦:コーン生産者の最大の脅威
2003年11月2日
クロップチョイス・ニュース
ダン・マグワイア
訳 山田勝巳
全米コーン生産者組合農民の選択ー顧客第一プログラム理事
2002年7月22日クロップチョイスゲストスピーチ
GM小麦導入をコーン生産者が心配する必要があるかと問う人もあるかと思うが、さまざまな理由から気にしなければならない。GMO小麦の最大のマイナス影響はコーンの価格に与えるものだ。アジアからヨーロッパにかけて小麦輸入業者、製粉業者、製パン業者などがアメリカとカナダに対しGMO小麦は欲しくないし買わないと言っている実情から、もし米加の小麦生産者がGMO小麦を栽培したとしたらその小麦は何処へ行くだろうか。最も可能性が高いのはアメリカの畜産業とエタノールなどの燃料。GMO小麦が何故コーンにとって変わるかという理由を次の3点から述べる。小麦給餌試験、US穀物基準、US農業政策。
小麦飼料試験
オクラホマ州立大、カンサス州立大、ネブラスカ大学の研究から
* 小麦は飼料として優良。価格はコーンやマイロよりも高いが、需要が落ちれば牛の経済的飼料となる。コーンやマイロの価格より一割増程度であれば小麦を使う。
* 小麦は鶏の食い込みが良い。カロリーではマイロと同じでコーンよりも低いがたんぱく質量は(コ−ンより)多いか同等(マイロ)。蛋白含量は11-19%と品種、作型、検査重量で違う。蛋白含量は;コーン8.9%、マイロ9%、小麦(硬質冬小麦)12.5%。
* 豚ではマイロやコーンの代替品として優れている。小麦にはコーンやマイロよりもリシンが30%、可給態リンが3倍多い。これだけでも「望まれない」GM小麦が取って代る可能性を示唆している。
US農業政策
農務省の統計数字では市場年度(MY)1983/84では小麦平均価格が3.51ドル/ブッシェル(bu)でコーンの平均価格は3.34ドル/bu。しかし硬質冬小麦(HRW)の1983年7月の平均価格は3.34ドル/buでコーンとの価格差が小さかった。そのため前年は1億9500万トンだった飼料利用が3億7100万トンに跳ね上がった。MY1984/85の全米小麦平均価格は3.39ドルだったがHRWは3.30ドルでコーンの平均価格は4月に2.70ドル、8月に2.44ドルで小麦の飼料利用は4億700万トンに増えた。MY85/86ではコーン価格が平均2.23ドルに下がり小麦は3.08ドルだった為小麦飼料は2億8400万トンに減った。
1985年農業法:
1985年の農業法の誤った低金利政策によって、従来の小麦と他の作物の貸出金利バランスを崩して、まず小麦への貸出金利が$3.30から$2.40に下げたため小麦給餌が増加し始めた。6月1日に始まる小麦の市場年度(コーンは9月)では新しい貸出金利が有効だったのでHRWの平均価格は1986年の7月には$2.19に落ち、家畜の多いネブラスカ西部では$2.00以下になったところも出た。飼料に使われた小麦はMY1986/87には4億100万ブッシェルに跳ね上がった。1985年の低金利の直接の影響で小麦平均価格が低くなリ農業法で約束された小麦輸出が増えなかったので、小麦給餌が1987/88年度でも3億ブッシェル近辺に留まり、コーンの需要に取って代った。
1990年の農業法:
次のアグリビジネス向けの農業法は1990年に成立し、小麦給餌が再度上昇した。小麦ローンレートが$2.06から$1.95に下がった。HRW以外の全小麦平均価格は$2.61/ブッシェルだったのが、その年に$2.36に落ち家畜に給仕された小麦の量は5,000万ブッシェル近くに達し、コーンの最大の脅威になった。
1996年「自由化」農業法:
小麦の貸出金利は、1995/96年度から2001/02年度まで$2.58のままで小麦給餌はこの7年間平均2億7400万ブッシェルだった。しかし、US小麦の低価格は海外の需要を高めることなく小麦輸出はこの間低調のままで終わったばかりの2001/02年度8億8700万ブッシェルだった、
2002年農業法とGM小麦:
農業政策策定者はこれまで17年間の誤った政策に気付き小麦のローンレートを$2.80/ブッシェルに上げて、コーンその他のローンレートとバランスを取り、同時にGM小麦の登場で輸出できない小麦の在庫が増え価格の低下圧力を増している。簡単に言うと、GM小麦はこれまでの顧客には輸出できない。最も可能性が高いのは、US飼料マーケットでコーンと競合するということになる。
US穀物基準
2002年7月18日付の連邦広報によると小麦は、「異物除去前のものは、50%またはそれ以上がコモン小麦(Triticum
aestivum L.), クラブ小麦(T.compactum Host.),デュラム小麦(T. durum Desf.) でUS穀物基準で定められた基準の他の穀物は10%以下であり、異物除去後はこれらの全粒小麦が50%以上のものである。」小麦には8段階ある。効くところによると最初のGM小麦は硬質春小麦(HRS)になるようなのでこれについてもう少し詳しく見てみる。HRSは更に濃色北春小麦(DNS)、北春小麦(NS)、赤春小麦(RSW)に分けられる。
US穀物基準では、第一グレードには他のグレードの小麦が3%以下であること、第二では5%以下、第三では10%以下の混入を認めている。
この低級のものの混入を認めて、更におまけグレードがあるのはかなりの懸念材料だ。DNS(HRS)小麦はカナダ西部の赤春小麦(CWRS)同様、ヨーロッパやその他GM小麦を拒否し導入するなと言っている国々で小麦の「キャでラック」と呼ばれている。GM硬質春小麦は、作っている地域に隔離できない。例えそれを望む市場があったとしても厳密にIP(Identity-Preservation)を維持することは不可能だ。
冬の間、五大湖の港が閉鎖している間HRS小麦はメキシコ湾か太平洋の港へ運ばれる事を考えて欲しい。輸出用のHRWが質の悪いHRSと混ぜられる機会がたくさん出てくる。穀物取引は小麦グレード基準に許容値を作る天才で、ブレンドする事で利益を最大にしている。
これがGM硬質小麦に起きれば、硬質冬小麦の市場も駄目になる。そうなれば、この小麦全部が家畜の飼料となり、コーンの需要も価格も打撃を受ける。これがGM小麦がコーン生産者の問題である理由だ。
筆者について;ダン・マグァイアは、12年間ネブラスカ小麦組合の代理店理事、州間農業穀物マーケティング委員会の理事として6年間努めた。